307.執筆篇:異性を書く

 今回は「異性を書く」ことについてです。





異性を書く


 小説を書くときに注意しないといけないことはたくさんあります。

 今回は「異性」を書くことについて見ていきましょう。




同性だけしか出てこない作品もある

 標題を見て「そんな小説あるのかよ」とツッコまれそうですが、実際にあります。

 とくに二次創作に多いのですが、「同性愛」つまり「ボーイズラブ」「ガールズラブ」といった類いの小説です。

 ある程度腕のある書き手なら、異性も登場させて対比を見せ、そのうえで「やっぱり同性がいい」というような書き方をします。

 考えなしに「同性愛」を書くと、異性がいっさい出てこない小説が出来あがるのです。

 また男子校や女子校を舞台にすると教職員以外全員男性、もしくは女性という事態が起こりえます。

 マンガのかきふらい氏『けいおん!』は劇中に女性しか出てきません。

 今野緒雪氏『マリア様がみてる』も基本的に女性しか出てこない。

 アニメ『ラブライブ!』シリーズも基本的に女性しか出てきませんよね。

 女性だけが出てくる作品というのは本当によく見かけます。

 数名男性が出てくるものの、ほとんどが女性という「ハーレム」ものは枚挙に暇がありません。


 逆に男性だけが出てくる作品は意外と少ないのです。

 なぜなら男性は「男性だけしか出てこない作品」を基本的には読みません。

「男性だけしか出てこない作品」の需要は主に女性向けの「ボーイズラブ」ものである場合が多いのです。

 また数名女性が出てくるものの、ほとんどが男性という「逆ハーレム」ものも多数あります。

 女性向け作品でアニメ化するのはたいていが「逆ハーレム」ものです。




異性の重要性

 異性がいないと物語は一面的な世界しか書けません。

 そこに魅力を感じるから『けいおん!』『ラブライブ!』などは人気が出るんですね。

 また男性が数名出てくるけど基本的に女性で話がまわる『THE IDOL M@STER』シリーズも人気があります。

 逆に男性がメインで女性はほぼモブのファンという『THE IDOL M@STER SideM』のような作品もヒットしました。

 ですがある程度異性も出さないと現実味リアリティーが薄れてしまうのです。


 異性がいるだけでぐっと現実味リアリティーが増します。

 つまりファンタジーが薄れるのです。

 男性だけ、女性だけを好むのは社会にいる中ではかなりニッチな層です。

 やはり多くの方は男女が揃っている作品を好みます。


 たとえばマンガの鳥山明氏『DRAGON BALL』は「天下一武道会」以降こそ男性の割合が高くなるのですが、当初はブルマと孫悟空のコンビで展開していました。

 そこにヤムチャやランチや武天老師やクリリンやチチといったバランスのとれたキャラ陣です。


 マンガ・尾田栄一郎氏『ONE PIECE』も当初はルフィ一味だけでしたが、そこから男女ともにキャラが増えること増えること。

 もはや収束する気配さえ見せないほどです。


 女性キャラが魅力的なマンガ家である桂正和氏の作品は、たしかに女性が多いような印象を受けますが、実際に主要な人物を数えていくと男性の数もかなり多い。

 ほぼ同じか4:6で女性が多いというくらい。

 あまりにも女性が魅力的だから女性ばかりなマンガ家だと思われて損をしているだけ。

 桂正和氏がキャラデザインを担当したアニメ『TIGER&BUNNY』は男性キャラのほうが多かったですよね。

 つまり「魅力的な男性も描ける」マンガ家と言えます。




男女が揃うだけで恋愛感情を喚起できる

 小説に限らず、マンガやアニメ、ドラマや映画などでもそうですが、作品の中に男女が登場すると人間関係が生まれます。

 そしてそこから恋愛感情を抱く人物なども登場するのです。

 これは読み手の願望でもあります。

 男女が揃ったのだから、恋の一悶着があるんじゃないかなと期待するのです。

 書き手としては「読み手の願望」を叶えてあげる必要があります。

 せっかく男女が揃っているのに、いっさい恋愛に発展しないという作品はなかなかありません。


『DRAGON BALL』ではブルマと孫悟空が一緒にいても恋愛に発展しませんが、ヤムチャが現れるとブルマはヤムチャが気になり始めます。悟空はドラゴンボールを探している途中で牛魔王の娘チチと出会って、チチは悟空に恋愛感情を抱くのです。

 バトルマンガですら恋愛感情が発生するのですから、ファンタジー小説やSF小説にも恋愛感情が発生しないなんてことはまずありません。


 映画・新海誠氏『君の名は。』はSFというよりは現代ファンタジーというべきですが、恋愛感情が発生していますよね。

 似たような話としては、筒井康隆氏『時をかける少女』が挙げられますが、こちらも恋愛感情が鍵を握っているのです。


 どんなに高尚な小説であっても恋愛感情というものは顔を覗かせます。

 フョードル・ドストエフスキー氏『罪と罰』はひじょうに重い小説ですが、主人公にもその妹にも恋愛話が出てくるのです。

 そんなことを言うと『旧約聖書』『新約聖書』にも『古事記』にも恋愛感情があります。ギリシャ・ローマ神話や北欧神話にだって恋愛が出てきます。

 男女が出てくれば恋愛に発展することのほうが至極当然なのです。


 それなのに、男女がいるのにいっさい恋愛に発展しない小説というのは、読み手の期待を肩透かししているのに等しい。

 だから男女が揃ったら「必ず」恋愛感情に発展すべきです。

 それを避けるために『けいおん!』『ラブライブ!』は女性しか出てきません。


 男性だけがずらりと並んでいるところに女性がひとり入ってくる。

 それだけで「逆ハーレム」は成立します。

 アニメ『薄桜鬼』シリーズ、アニメ『うたの☆プリンスさまっ♪』シリーズはまさにそんな作品でした。


 同様に女性がずらりと並んでいるところに男性がひとり入ってくる。

 それだけで「ハーレム」が成立します。

 弓弦イズル氏『IS〈インフィニット・ストラトス〉』が典例でしょうか。


 男女が揃うことで「ボーイ・ミーツ・ガール」の要素が発生するのです。

 しかしどちらかが相手をフってしまうと恋愛感情が憎悪感情に変貌します。

 物語を盛り上げる要素として間違いなく「恋愛感情」というものがあるのです。

 有効に利用しない手はありません。




いないほうがいい人物像

 ちなみに男性は基本的に「恋愛小説」を読みませんから『シンデレラ』は「ファンタジー小説」として読んでいます。

 男性は「恋愛小説」より「成人向け小説」を読む傾向があるのです。

 年中発情期の男性は、精神的な充足よりも肉欲に傾きやすい。

 だから女性の書き手は、あまりにも「高潔な男性」を小説に登場させないようにしてください。

 現実味リアリティーがないからです。

 まぁ女性が読む「恋愛小説」であれば、価値観が近しい女性が読むわけですから「高潔な男性」が存在してもかまいません。

 あくまでも男性も読むジャンルの小説に「高潔な男性」を出さないようにしましょう。


 同様に男性の書き手もあまりにも「一途な女性」を小説に登場させないようにしてください。

 女性側にも恋愛の自由があります。

 今は「この恋愛はうまくいきそうにないな」と思ったら未練など持たずにすっぱりと諦める女性のほうが多いのです。

 どんなに苦境に立たされても、一途に主人公を待ち続けるような女性はまずいません。


 こう書くと川原礫氏『ソードアート・オンライン』のアスナ(結城明日奈)はどうなんだよと思いますよね。

 アスナは当初からキリト一筋だったわけではありません。

 幾多の冒険を共にすることで気持ちが次第にキリトへ傾いていったのです。

 そしてVRMMORPGのシステム上での「結婚」をするに至ります。

 その過程があるから、フェアリィ・ダンス編でもキリトを信じていられたのです。


 男性が読むジャンルであれば「一途な女性」がウケるのは事実ですが、女性が読んだとき素直にその女性を応援する気にはなれません。

「高潔な男性」と「一途な女性」はそれぞれ男女の妄想でしかないのです。





最後に

 今回は「異性を書く」ことについて述べてみました。

 男性の書き手は女性に「一途さ」を求めますし、女性の書き手は男性に「高潔さ」を求めます。

 しかしそんなテンプレートな小説は読んでいて退屈極まりない。

 男性や女性の本能が剥き出しに表現できているか。

 そんなところに読み手はリアリティーを感じます。

 決して書き手の理想を押しつけるようなことはしないでください。

 そんな人物が出てきても読み手は白けるだけです。



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