300.執筆篇:あなたが小説家を志したのは

 今回は「小説を書くことを目指した理由」についてです。

 小説を書いていると迷いが出てくることがあります。

 そんなときは、いったん筆を置き、初心に立ち返る時間を持つと迷いが晴れるものです。





あなたが小説家を志したのは


「プロの書き手になりたい」という人が多いから、小説投稿サイトの『小説家になろう』は大繁栄しています。

 そして当初は「読み手」として『小説家になろう』を利用していた人たちが、あるきっかけで小説を書き始めるのです。

 皆様はなにをきっかけにして「プロの書き手」を志したのでしょうか。

 それを思い返してみることで、迷いのある状態でも再び「創作意欲」が湧いてきます。




読まなければ書こうとは思わない

「小説」に限らず「芸術」というものは、直接体験しなければ「自分でも創ろう」とはなりません。

 心を打つ絵を観たから「自分も絵を描こう」と思います。

 心に響く音楽を聴いたから「自分も音楽を創ろう」と思うのです。

「小説」を書きたくなるのも「小説を書きたくなる衝動」が駆り立てられたからではないでしょうか。

 現在の日本では「絵」を観たことのない人はまずいませんし、「テレビ」「映画」を観たことのない人も少ないでしょう。

「音楽」だって聴いたことのない人はまずいません。

 でも「小説」に関しては「私は小説を読んだことがないけど、小説を書こうと思った」という人が少なからずいます。

 本当でしょうか。

 これは「ウソ」に他なりません。

 少なくとも童話・寓話に接せずに幼少期を過ごしてきた人はいないでしょう。

 小学校に上がってからも国語の授業で読解力をつけるため、教科書に載っている小説を必ず読まされます。

 小説をいっさい読んだことがない日本人などまずいないのです。

 ではなぜ「小説を読んだことがない」などと「ウソ」をつくのでしょうか。

 その書き手にとって、これまで読んできた作品が「小説」に値しないと思っているからです。

 自分の心の中にある物語こそが「小説」なのだと思っています。

 他人の書いた小説は、心に響かないただの「文章」だと見下しているのです。

 「小説を読んだことがない」のではなく「心に響く小説を読んだことがない」だけ。

 この違いもわからずに「自分は面白い小説が書ける」と思い込むのは、ただの独りよがりでしかありません。


 つまり「小説」を書こうと思う動機は次の二点に集約されます。

「誰かの小説に刺激されて『自分も小説を書いてみよう』と思った」

「世の小説を読んでもつまらなく『自分のほうがもっと面白い小説が書ける』と思った」

 この二つです。

 どちらにしても「小説」は必ず読んでいます。

「小説を読んだことがない」と言う人は、思い出せないだけか、憶える必要を感じなかっただけかです。




目標とすべき小説がある

 たいていの書き手には「目標とすべき小説」があります。

 昔は森鴎外氏・夏目漱石氏・島崎藤村氏、谷崎潤一郎氏・芥川龍之介氏・直木三十五氏・菊池寛氏・堀辰雄氏、宮沢賢治氏・中原中也氏・太宰治氏、吉川英治氏・井上靖氏・川端康成氏・三島由紀夫氏・松本清張氏・池波正太郎氏・司馬遼太郎氏などのいわゆる「文豪」の書いた小説を目標に掲げる人が多かったものです。

 これが小松左京氏・筒井康隆氏・西村京太郎氏・森村誠一氏の世代が転換点となって小説が少しずつ軽くなってエンターテインメントに寄っていきます。

 その後も赤川次郎氏・村上龍氏、村上春樹氏と代を経るごとにどんどん軽くなって小説の主流はエンターテインメントへと主軸が推移していくのです。

 そんな中で笹本祐一氏・田中芳樹氏といった「ライトSF」と、水野良氏・六道慧氏・冴木忍氏・火浦功氏・神坂一氏を代表とする「ライトノベル」が台頭してきます。

 少し前なら冲方丁氏『マルドゥック・スクランブル』や虚淵玄氏『鬼哭街』や賀東招二氏『フルメタル・パニック!』、川原礫氏『アクセル・ワールド』『ソードアート・オンライン』や鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』や佐島勤氏『魔法科高校の劣等生』、今なら渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』や白鳥士郎氏『りゅうおうのおしごと!』など、記録的ヒットを飛ばした作品を「目標」に掲げている小説が多いのではないでしょうか。


 また小説投稿サイトなら、ランキングの上位にいる小説を読んでみたら面白くて「自分もこんな小説が書きたい」と思う方が多いのです。

 このような「目標となる小説がある書き手」は、「目標となる小説」のフォロワーということになります。

 このフォロワー現象はとくに『小説家になろう』で顕著です。

「異世界転生」「異世界転移」はそれだけで特定キーワードが必須となっているほど、たくさんのフォロワーを生んでいます。

 他にも「俺TUEEE」「チート」「無双」「最強」といった超人的な主人公が活躍する小説も多くのフォロワーを生んでいるのです。

 すでに成功している小説が元になりますから、フォロワーの小説も基本的にウケて評価が高くなります。

 だからフォロワーは際限なく拡大していくのです。

 フォロワーが拡大していくと、そこにムーブメントが生まれます。

 ムーブメントに乗らなければ評価されないほど、フォロワー現象が顕著なのが『小説家になろう』という小説投稿サイトなのです。




目標とすべき小説がとくにない

 書き手の中には、取り立てて「目標とすべき小説」を持たない方もいます。

 今まで小説をたくさん読んできたけど、自分にはまったく合わないものばかりだった。

 だから「自分の読みたいものを書きたいように書く。それが自分の小説だ」となります。

 ときにはそれほど潔い書き手も現れるものです。

 ですが、こういう書き手には大きな壁が立ちふさがっています。

「小説の書き方」というものがまったくわからないのです。

「目標とすべき小説」を持っている人は、それを読み込んで書き写していれば自ずと「小説の書き方」を身につけることができます。

「自分の小説」にこだわる人は、手本にすべき小説がないため「原稿用紙の使い方」「文章の書き方」からひとつずつ憶えていかなければなりません。

 幼少期に絵本や童話や寓話をたくさん読み込んでいる人は、「物語」自体ならいくらでも創れます。

 だから「文章の書き方」「文章の書き方」を身につけるだけで小説がすらすら書ける人がいるのです。

 でも他人に伝わる「小説」が書けるようになるためには、途方もない努力をし「小説の書き方」を身につけなければなりません。

 とにかく「書いて」「読ませて」「評価されて」「改善する」の繰り返し、無限ループになります。

 この作業がとくにたいへんで「暖簾のれんに腕押し」「ぬかくぎ」状態です。

 どこをどう直せばいいのかを教えてくれる人がまずいません。

 身近に小説を書いている友人や仲間がいるのであれば、彼ら彼女らに読ませて寸評をもらうのも一手です。

『小説家になろう』で開催されている「ネット小説大賞」には選考した人から感想をもらえるキーワードが用意されています。

 こちらを使えば、どこが悪かったのか明確な形で返ってくるでしょう。

 また稀に「添削します」と手を挙げている人もいます。

 こういう奇特な方は本当に稀なので、ぜひそういう人に添削してもらいましょう。

 ただし、いきなり長編三百枚を送りつけてすべてを添削してもらうのはさすがに無理だと思います。

 物語の全体の流れが淀んでいたり混乱していたりしていないか、一人称視点と三人称視点が混同していないかあたりなら一読しただけでわかるものです。

 ですが「この設定だとここでこれが起こると矛盾するよね」というようなことは、かなり深く読み込まないとわからないので、添削に時間がかかります。

 私も小説の「添削」を行なっていますので、一度誰かに読んでもらいたいとお思いでしたら頭に入れておきましょう。

『ピクシブ文芸』なら添削してもらいたい小説名やURLをコメントしていただくだけなので気軽にお申し出ください。

『小説家になろう』ではメッセージを送る機能がそれほどないので、感想などでコメントをつけるか活動報告のほうにコメントを書いてもらうしかありません。

『カクヨム』にはエピソードに応援コメントをかけますが、内密にお願いすることができません。

 ちょっと手間ですよね。

 現在「添削」依頼がありませんので、何本か応募をお待ちしております。





最後に

 今回は「あなたが小説家を志したのは」と題して初心に帰ることについて述べました。

 誰にでも「小説を書きたい」と思った動機があったはずです。

 それなのに今は「小説を書く」のがたいへんだと感じています。

 であれば、いったん立ち止まって初心を省みましょう。

 あなたのやる気に再び火を灯すことができるはずです。



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