219.描写篇:遊び感覚で始めてみよう

 今回は「企画書」で遊ぶことです。

 小説賞に応募したいけど原稿用紙三百枚も書けないよ。

 そういう方はまず「企画書」で遊んでください。

 そこから生まれる名作もあるはずです。





遊び感覚で始めてみよう


 小説を書くのはたいへんだ。そう思っている方が多いと思います。

 なにしろ小説賞はたいてい原稿用紙三百枚前後、文字数十万字前後を書かなければならないからです。

 予備知識無しにこの数字を出されるから「たいへんだ」と思います。

 夏休みの読書感想文だって原稿用紙五枚から十枚程度でよかったのに、小説ではその三十倍から六十倍も書かなければなりません。読書感想文が苦手だった方は「絶対無理だ!」と思います。




遊び感覚で企画書を創る

 小説は三百枚、十万字という数字を見せられるから怯みます。当然です。

 それではそんなに文字数を使わず、思いついたものを無理なく書ける文字数で書く「遊び」をしてみましょう。

 まず「誰がなにをする話」なのか。つまり「企画書」を創る遊びをしましょう。


「主人公が恋い慕う相手に告白する話」。いいですね。これだけで恋愛小説を感じさせます。

「主人公が海賊として冒険する話」。いいですね。それは海ですか、宇宙ですか。面白い冒険小説が書けそうです。

「主人公がアイテムを集めて願い事を叶える話」。いいですね。主人公だけでアイテムを集めるのは時間がかかりそうですから、誰か助っ人でも雇いますか。無事に願い事を叶えるために用心棒も欲しいところですね。

「主人公が犯罪者を殺していく話」。いいですね。死神界のノートに名前を書き込みますか、江戸時代で仕事人をしますか。

「主人公が真犯人を追い詰める話」。いいですね。まずは周辺の関係者から聞き込みをしましょうか、濡れ衣を着せられた主人公が警察に追われながら真犯人を捜し出してみましょうか。


 こんな感じで「誰(主人公)がなにをする話」なのかをいろいろと考えてみましょう。

 この段階では他の作品をパクってもまったく問題ありません。

 第一この段階でパクリだと言われたら、世の書き手のほとんどはパクリで物語を作っているようなものです。


「主人公が海賊として冒険する話」に関しては今の方ならマンガの尾田栄一郎氏『ONE PIECE』の話だと思われますよね。

 ですがあえて「宇宙ですか」と聞いたのはマンガの松本零士氏『宇宙海賊キャプテンハーロック』の存在を匂わせたかったからです。

『ONE PIECE』は『宇宙海賊キャプテンハーロック』のパクリでしょうか。違いますよね。

 つまりこの段階で他の作品からパクってくるのはどんな書き手でもやっていることなのです。


 一説によると、物語のパターンは世界各地に伝わる「神話」の類いと『ロミオとジュリエット』『リア王』『ハムレット』など数多くの名作を生んだウィリアム・シェイクスピア氏までで出尽くしたと言われています。

 企画書の「なにをする話」に関してはオリジナリティーというものはまず「ない」と思っていただいてかまいません。そのくらい開き直っていいのです。

 有史以来人類は数百億人以上は生まれており、もしひとりがひとつの物語を作っていたとすれば数百億の物語がすでに存在していたことになります。

 これで企画の「なにをする話」がかぶらないほうがおかしいのです。

「主人公が、書いたことが現実になるノートを手に入れた話」は、若い人ならマンガの大場つぐみ氏&小畑健氏『DEATH NOTE』でしょうし、年配の方ならマンガの桂正和氏『ウイングマン』になります。

 主人公のキャラ立て自体が明確に異なりますが「書いたことが現実になるノート」は「名前を書かれた人物が死ぬノート」なのか「描いたものが実体化するノート」なのかでも違っています。

 企画書の「なにをする話」かを細かく設定して違いを出すのも「企画書で遊ぶ」ということです。




どんな主人公かで遊ぶ

 先の「主人公が海賊として冒険する話」は主人公が違いますよね。

 悪魔の実を食べたゴム人間と、顔に縫い目のある射撃と剣術の腕前も高いすべてにおいてカッコいい眼帯の男。つまり主人公が違うから別の話になるのです。

 主人公が女子高生なら笹本祐一氏『ミニスカ宇宙海賊』になります(アニメ版は『モーレツ宇宙海賊』の名称です)。


 主人公をいじればいくらでも新しい企画が生まれるのです。

 ですがほとんど同じ企画でも別作品になることはありえます。


「主人公がボクシングで強さとはなにかを見つけようとする話」という企画で「ジムの会長にボクシングの基礎を教わっている主人公」にすると、若い人ならマンガの森川ジョージ氏『はじめの一歩』でしょうし、年配の方ならマンガの高森朝雄(梶原一騎)氏&ちばてつや氏『あしたのジョー』を思い浮かべるはずです。

 ですが『はじめの一歩』と『あしたのジョー』のようにこの段階でもまだほとんど同じであっても細かな設定を作り込むことで別作品にできます。

 幕之内一歩はいじめられっ子が「強さってなんだろう」と思ったときにボクシング新人王を獲った鷹村守と出会い、ボクシングの道へと進むのです。

 対して矢吹丈は少年院で悪さしていたところをボクサーである力石徹と出会い、ボクシングの道へと進みます。


 このような違いを出すのが「主人公で遊ぶ」ということです。ここでどれだけひねった主人公を出せるかでパクリかパクリじゃないかが決まります。




主人公はどうなりたいかで遊ぶ

 「誰がなにをする話」なのかが決まりました。

 そこから誰つまり「主人公がどうなりたい」かを決めていきましょう。


『ウイングマン』なら「本物の正義のヒーローになりたい」ですし、『DEATH NOTE』なら「新世界の神になりたい」、『ONE PIECE』なら「海賊王になりたい」です。マンガの鳥山明氏『DRAGON BALL』なら「オラより強ぇヤツと戦いてぇ」ですし、『あしたのジョー』なら「力石徹に勝ちたい」です。


「主人公がどうなりたい」かは必ず明確でなければなりません。

 漠然とした「主人公がどうなりたい」では物語を書いていく途中で主人公のキャラがブレまくります。

 どんな物語にも主人公はいますし、その主人公は「どうなりたい」という願望を抱いているものです。

 だから主人公がなりたいものは初めのうちから明確でなければなりません。

 ただし物語が進んでいって結末で必ずそうなれるとは限らないのです。

 もちろんきちんとそうなっていると理想的ではあります。

『ウイングマン』なら佳境クライマックスで「本物の正義のヒーロー」になります。当初の願いは結実したのです。話の結末エンディングはそこからカタルシスを生み出しています。名作はカタルシスを感じさせるものが多いのが特徴です。


 カタルシスとは広義では「読後感」のことですが、本来は悲劇を観ることで感情が揺すぶられることを指します。『DEATH NOTE』の終わり方もカタルシスを感じさせるものでした。

 ライトノベルでは基本的にハッピー・エンドが求められているため、カタルシスとは少し無縁なところにいます。

 バッド・エンドを迎えるのであれば「バッドエンド」という「キーワード」をあえて付けることがひとつの習わしになっているのもそのためです。




遊びで出来あがった企画書を書き出そう

 ありきたりな「企画書」だなと感じてもいいので、とにかくたくさんの「企画書」を立てて遊んでみてください。

 そのうち「これで小説を書きたい」と思える「企画書」に巡り会えるでしょう。


「主人公がボクシングで強さとは何かを見つけようとする話」という企画は26字。

「高校でいじめられっ子だった主人公が自分を助けてくれたボクサーに憧れて自分もボクサーになりたいと思い、同じジムに入って会長からボクシングの基礎を教わり、試合を戦いながら『強さってなんだろう』という疑問の答えを探す話」が『はじめの一歩』です。106字を使いました。

「主人公が、書いたことが現実になるノートを手に入れた話」は26字。

「全国模試一位の天才高校生が、名前を書かれた人間は必ず死ぬ死神のノートを手に入れて犯罪者を次々と殺していき、彼を追う正体不明で世界一の名探偵と対決しながら名探偵を出し抜いて新世界の神を目指す話」が『DEATH NOTE』です。95文字を使いました。


 小説を書こうと思ってまったく書けなかった人が百文字前後の「企画書」を創れるようになったのです。こういう膨らませ方を続け、エピソードをいくつか作ることで、三百枚も十万字も怖くなくなります。


 小説を書く過程で最も面白いのがこの「企画書創り遊び」です。

ここで「こんな物語があったら私なら絶対読みたい!」と思う「企画書」が作れたら「小説を書きたい!」と強く思えてきます。

 書きたくなるような「企画書」がないのに「小説を書きたい」と思うのは、種を植えていないのに土へ水を撒いているようなものです。まったく意味がありません。

 小説投稿サイトでたくさんの小説を読んでみて「あ、こんな小説を私も書いてみたい」と感じて、読んた皆が似たような「企画」を使って投稿することで一大ムーブメントを生み出すことがあります。

 とくに『小説家になろう』ではよく起こるのです。読み手の数が桁違いなので、フォロワーの数も桁違いだからこそでしょう。





最後に

 今回は「遊び感覚で始めてみよう」というテーマで「企画書」から入る方法を述べてみました。

「企画」に関しては過去に何度も繰り返していますが、それでもいざ「小説を書こう」と思った途端に思考が停止してしまうことがよくあるのです。

 そんなときは「企画書創り遊び」をしてみましょう。

 さまざまな作品からインスピレーションを受けて「なにをする話」なのかを決め、「主人公」の人物像をできるだけオリジナリティーのあるものにし、その「主人公がどうなりたい」のかを決めてみるのです。

 これをたくさんこなせば、そのうちひとつくらいは「こんな小説を読みたい!」と思うものが生まれます。

 そこから小説の第一歩を踏み出せるのではないでしょうか。



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