217.再考篇:時間を決めて書くメリット

 今回は「時間を固定して書く」ことについてです。

 脳は活発に動くべき時間を記憶してしまいます。

 深夜にいくら暗記してもセンター試験で思い出せるとは限らないのです。





時間を決めて書くメリット


 ほとんどの書き手は小説を書くときに時間を気にしません。しかし私は気にすべきだと思っています。

「思いついたときにそのことを書くだけでいいじゃないか」という姿勢で小説を書くと独りよがりな文章になるのです。

 ある部分はひじょうに密な描写がされているのに、ある部分ではひじょうに疎な描写にとどまってしまっている小説を我々はよく読んでいます。

 それは「興に乗ったときに書く」というパターンで書いているかぎり起こりうるのです。

 だから小説の執筆は「何時何分から始めて何時何分に終える」と先に決めておき、毎日のルーチンワークにしてしまいましょう。




脳は活発に動くべき時間を憶えてしまう

 脳は毎日同じ時間に同じような使い方をしていると、使われ方を憶えてしまいます。一種の「刷り込み」ですね。

 ひとつ例を引きましょう。

 毎日深夜まで受験勉強に励んでいる方は多いと思います。しかし入試は深夜に行なわれません。朝から夕方までで終わりです。毎日深夜まで勉強していると「活発に動くべきなのは深夜」と脳自身が憶えてしまいます。肝心の入試のとき、脳が活発に動いてくれず実力を出しきれなくてよい点数がとれなかった。そんな経験をした人もいるでしょう。それは「活発に動くべきなのは深夜」だけでいいやと脳が憶えてしまっているからです。

 だから朝早く起きて頭を使うようにしていれば、入試の際にもベストパフォーマンスを引き出せるようになります。

 そういう意味でも朝に頭を使うことはとても有意義なのです。

 とくに休日は入試の時間帯に合わせてまとめて勉強することで最大限の効果を発揮できます。

 夜になってから勉強しても入試の役にはほとんど立たないでしょう。

 夜に勉強するのなら今日の復習と翌日の予習だけにしておけば、授業で忘れてしまった記憶をしっかりと思い直して記憶に定着させることができます。




時間を決めて書く

 勉強をするのは「朝から夕方まで」だと気づいたとします。だからといって「朝から全力全開でがむしゃらに勉強する」のはオススメしません。

 脳が惰性に陥って記憶と発揮の効率が落ちるからです。

 効率が落ちているのに気づかずに勉強しても、憶えていると思い込んでいるだけで、実はまったく憶えていないという状態に陥ります。

 脳を惰性に陥らないようにする秘訣は、「時間を決めて取り組む」ことです。


 入試に直せば「入試の実施時間にシンクロさせて勉強する」ことでより入試で実力を発揮しやすくなります。

 大学入試センター試験は「事前に何曜日の何時何分から何時何分まではどの科目を試験するのか」を明示してあるのです。

 たとえば平成30年の大学入試センター試験で「国語」の試験は「土曜日の13時00分から14時20分」に行なわれます。

 であれば「国語」を勉強すべき時間は「土曜日の13時00分から14時20分」の枠内です。その80分の間に「国語」の勉強をすれば、入試当日も脳が「国語」の知識を使うべき時間を憶えていて他の科目よりも格段に思い出しやすくなります。

 入試の出来は入試当日よりも、それ以前の勉強の仕方に左右されます。同じ時間帯に集中して勉強することで、本番で実力を出しきれないという事態は避けられるのです。


 小説を書くのも同様。

 毎日「何時何分から何時何分まで小説を書く」と習慣をつければ、毎日決まった時間帯で小説を書くのにふさわしい脳の使われ方となるよう脳自身が憶えてくれるのです。

 そのうえで土曜日・日曜日・祝祭日・休日などでまとまった分量を書きたいなと思っているのなら、そのスケジュールも習慣づけてしまうとよいことがわかりますよね。

 また「時間を決めて書く」と時間制限を設けたことになります。思いついたら都度書いていくスタイルだとあっという間に制限時間に到達するのです。

 あらかじめ「今日はこの場面シーンを書こう」と決めておき、制限時間を目いっぱい使って書くスタイルならなんとか制限時間までに場面シーンを書き終えなきゃと思って緊張感が増します。

 緊張感が増すと集中力はより高まるのです。集中力がより高まれば「脳内に情景をイメージする」力が強くなり、それを「文章に落とし込む」作業にも磨きがかかります。

 ただし焦りすぎて「描写不足」を招かないようにしましょう。

 そう意識していれば結果として「思いついたら都度書いていく」スタイルよりも質の高い文章に仕上がるのです。

 小説を書いているんだけどいまいち文章に満足できない。

 そうお思いならまず「時間を決めて書く」ようにしてみましょう。必ず文章力は上がっていきますよ。




必ず休憩を挟もう

 時間制限があると緊張感が増して集中力がより高まります。しかし仮に「二時間執筆する」として制限時間までになんとか書きあげなきゃと考えて休みなしに書くことはオススメしません。脳は集中を始めてから四十五分を過ぎたあたりから疲れがたまってパフォーマンスが大きく低下していきます。しかし当の本人はまだ疲れていないと感じているのです。でも実際に脳は疲れています。

 だから適宜休憩を挟んで脳の疲れをとりながら書くようにしましょう。制限時間が二時間であれば五十分取り組んだら十五分から二十分ほど休憩を入れ、また五十分取り組むのです。そうすればひじょうに内容の濃い文章に仕上がります。休憩を入れずに二時間取り組むよりも質が高くなるはずです。休憩中は何も考えずにくつろいでくださいね。考えてしまうと休憩になりませんので。




朝二時間、夜一時間なら

 前回のコラムで小説の執筆は取り組み方次第で「朝の二時間で執筆し、夜の一時間で推敲」できると書きました。

 勢いに任せて執筆したほうが、文章に勢いが出て読み手をぐいぐいと惹きつけます。

 ですがその文章はいつか推敲しなければなりません。

 朝の二時間で執筆と推敲を行ない、夜の一時間でまた執筆と推敲を行なうのではいささか慌ただしさが生じてしまいます。

 また執筆と推敲が近すぎるために頭が物語世界に没入したままで冷静な推敲ができません。

「夜の一時間で推敲する」ようにすれば、書いた直後に推敲するよりもいくらか冷静に推敲できるのです。どこの説明と描写が足りないのかうるさいのかが目につきやすくなります。そこを補足または削除していくのです。

 慣れてくれば推敲に費やす時間は少なくなっていきます。そうなったらプロットの展開を手直しするとよいでしょう。

 それまで書いてきたものを振り返り、この展開で進んでいるからこの先の出来事イベントで起こることが急激すぎるなと感じたら直していくようにします。

 小説を書き始める前に確定させてある物語と、実際に執筆している文章とでは書き進めるごとに少しずつズレが生じていくものです。そのズレを修正していく作業をしていくことで、より完璧な小説へと深化していきます。





最後に

 今回は「時間を決めて書くメリット」について述べてみました。

「今日は時間があるから思いついたことを書いていこう」というスタイルでは小説の連載なんてできません。

 つねに時間制限を設けて緊張感が増して集中力がより高くなるようにするのです。そうすれば「脳内に情景をイメージする」力が強くなり、それを「文章に落とし込む」作業にも磨きがかかります。ただし焦りを生じて「描写不足」を招かないようにしましょう。

 そして朝に執筆して夜に推敲するのです。そうすればより完成度の高い小説になります。

 休みの日ができたらまとめて執筆しておけばストックも増えますし、次作の構想も練れて一石二鳥です。

 これからの小説は「時間を決めて書く」。実践していけば必ず文章力は高まります。



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