212.再考篇:屁理屈を突き通せ

 今回は「屁理屈」についてです。「開き直り」とも言います。

 ムダに設定に凝ると必ずなにがしかの矛盾が発生します。

 それを読み手から指摘されたらどうすればよいのでしょうか。





屁理屈を突き通せ


 小説投稿サイトに作品をアップロードすると「ここはこうでなければおかしい」「これは物理法則を無視している」といった類いのご指摘を受けることが多々あります。

 しかし小説の書き手はあくまでもあなたです。

 そのあなたが創った世界において、外部の人間が修正を要求するのは、人の家に土足で踏み入っても意に介さないのと同じだといえます。

 果たして指摘された点を修正すべきなのでしょうか。




指摘を修正しないと指摘した人は離れていく

 大前提として、指摘した人は「こうであるべきだ」という考え・自説があります。そして書き手へそれに沿った訂正を要求してくるのです。

 もし訂正や修正をしなければどうなるのでしょうか。指摘してきた人はまず間違いなくあなたの小説のフォロワーから外れます。

 せっかく掴んだフォロワーを手放しなくない。書き手であれば誰でもそう思います。

 かといって、指摘された点が物語の進行上どうしても動かせないときもあるはずです。

 指摘を受けて訂正するか物語の進行を優先するか、ひじょうに悩ましい。




サイレント・マジョリティー

 アイドルグループ・欅坂46に『サイレント・マジョリティー』という歌があります。今回は別に歌について語りたいわけではありません。タイトルになっている「サイレント・マジョリティー」について述べていきます。

 そもそも「サイレント・マジョリティー」とは「声なき多数派」という意味合いです。

 あなたの作品には指摘してきたフォロワーの他にも読み手は大勢いますよね。その他の読み手が「サイレント・マジョリティー」なのです。

 つまり「こうであるべきだ」と言っている人が百人の読み手のうちひとりだけだった場合があります。残り九十九人は「指摘するほどでもない」と思っているか「普通に楽しんで読めるけど」と思っている方々です。

 中には「指摘したいけど気が引けるな」という人もいるでしょう。

 フォロワーのひとりから指摘を受けて無条件に内容を訂正や修正するのは「サイレント・マジョリティー」の存在を考えていません。

 もちろん数多くのフォロワーからツッコまれると書き手はかなり焦ります。

 そういうときは訂正や修正に応じるべきです。

 でもたったひとりから指摘を受けただけなら、訂正や修正を安易に行なうべきではありません。




フォロワーの何割が指摘していますか

 訂正や修正の見極めは「フォロワーの何割が指摘しているのか」を把握するところから始めるべきです。

 仮に声を上げずフォロワーから外れていく人が増えていくようでしたら「サイレント・マジョリティー」は訂正や修正を要請しているということです。

 その際は何を差し置いても訂正や修正を行なわなければなりません。

 小説投稿サイトに作品をアップロードするというのは「サイレント・マジョリティー」との駆け引きが行なわれることを示唆しています。

 もちろんいちいち指摘してくる「ノイジー・マイノリティー」つまり「声高な少数派」の存在はときに「サイレント・マジョリティー」の代弁者となることもあるのです。

 でも「ノイジー・マイノリティー」が本当に「サイレント・マジョリティー」の代弁をしているかはじゅうぶんに読み返して、書き手であるあなたが判断してください。

 どうしてもご自分で判断がつかないときは知人に読んでもらって率直な意見を聞きましょう。もちろん知人が「サイレント・マジョリティー」の代弁者というわけではないのですが、ひとつの目安にはなるでしょう。

 ツッコまれたら訂正や修正をすべきかどうか。この見極めひとつで小説投稿サイトでのし上がれるか没落していくかが決まります。




フォロワーの減り具合を指針とする

 書いた直後に指摘を受けても、すぐに読み返さないでください。書いた直後はまだ作品世界に没入している状態であり、冷静に判断することができないからです。

 できれば翌日か二日後を目安にして指摘された点を客観的に判断しましょう。その間にフォロワーさんの数が減っていたら、その減り具合が全体の何割かを見極めてください。

 書き手としてどうしても見過ごせない割合なら必ず手早く訂正や修正をすべきです。でも百人のフォロワーさんがいて、減ったのが一人二人程度ならとくに気にする必要はありません。

 ただしすぐに「サイレント・マジョリティー」が納得するような説明や展開をする必要はあります。「ノイジー・マイノリティー」の意見を「サイレント・マジョリティー」も見ているからです。

「ノイジー・マイノリティー」から「こうであるべきだ」と指摘されたら、その答えを書き手は速やかに次回投稿に混ぜておく必要があります。そうすれば「サイレント・マジョリティー」も納得するのです。




屁理屈をこねる

 書き手にとって最大の権限は「物語世界のすべてを創造できる」点です。

 そして「ノイジー・マイノリティー」からの指摘は、あなたの「小説世界」において根幹を揺るがすようなものでしょうか。それとも「物語世界」の設定のひとつに瑕疵かしがあったのでしょうか。場合によっては言いがかりかもしれません。

 いずれの場合でも書き手が持つ権限を損ねるものではないのです。


 書き手の権限を行使してフォロワーさんからの指摘に対処するには「屁理屈をこねる」ことです。

 これは一種の「開き直り」なので、指摘してきた「ノイジー・マイノリティー」は離れていくかもしれません。

 しかしその他大勢の「サイレント・マジョリティー」を「こういう世界だからこんなことが起こるんですね」と納得させることができます。

 そもそもこの小説を書いたのはあなたであって、指摘してきた「ノイジー・マイノリティー」ではないのです。

 そこを履き違えて「指摘されたから直さなきゃ」と焦ってしまうのがいちばんよくありません。

 指摘をまったく無視しろと言っているわけではないのです。

 そういう指摘に対してどれだけ説得力のある「屁理屈をこねる」ことができるかどうか。それが書き手の度量なのです。

 そしてどうしても「屁理屈をこねる」ことができないときだけ指摘を受け入れて訂正や修正をしましょう。




設定が細かいほど指摘されやすい

 そもそも指摘を受けるのは世界を詳しく創り込んで細かな設定があるとき、つまり「舞台先」で物語を創るときです。

 であれば、最初から世界を詳しく創り込む必要はありません。

「舞台先」で創る場合であっても、ある程度設定にたるみを残しておきましょう。

 指摘されることも少なくなりますし、指摘されても都度設定を定めていくようにすれば物語が破綻せずに済みます。

 それでも「舞台先」の人は設定を創り込みたくなるものです。ですので「そこまで細かく設定すると読み手がついてこられませんよ」と指摘しておきます。

 そもそも三百枚を書くのに微細な設定はまず要りません。その細部をひとつも漏らさず原稿用紙に書き込めば、それは「小説」ではなく「設定資料集」でしかないのです。




屁理屈を突き通せ

 設定の瑕疵かしについては「こういう設定です」と開き直って「屁理屈を突き通す」ことでほとんどが解決します。

 たとえば一人称視点で書いているのに、向かい合っている相手の考えていることがわかる描写をしたとしましょう。そうなれば必ず指摘されます。「主人公がなぜ他人の考えていることがわかるのか」と。

 そのときは「主人公には相手の心がある程度わかる能力がある」であったり「身振り手振り顔つき、つまり挙動からそう察せられたのです」であったりと「屁理屈」を述べるのです。

 前者の場合は「超能力を持った主人公」になってしまうのでSF要素が入り込んでしまいます。

 その点後者は「誰でも他人の挙動からある程度感情を読み取る力はある」と読み手の皆さんがわかっているので「超能力」抜きでも設定に瑕疵かしは生じません。この後者が「屁理屈」なのです。


 一度ついた「屁理屈」はその後の地の文でもたびたび用いて、さも「この小説はこういう設定なんです」という雰囲気を生み出しましょう。

 つまり一度ついた「屁理屈を突き通せ」というわけです。


 田中芳樹氏『銀河英雄伝説』において、艦隊戦は宇宙空間で行なわれます。

 ただしイゼルローン要塞が存在するイゼルローン回廊以外の戦場には高さ方向の陣形が組まれていません。

 すべて地球の地上で行なわれるいくさと同様、平面に布陣して戦います。そんなことがありえるのでしょうか。

 宇宙空間には重力がありません。そうなると当然上下という感覚がなくなるのです。だから敵陣と自陣とが九十度傾いて布陣することだってありえるはず。でもなぜか敵味方が平面上で布陣して戦争をしています。

 これに対する氏の回答が「銀河標準面」という考え方です。つまり銀河には明確な面が存在していて、そこに布陣するのが当たり前。

 イゼルローン回廊においてラインハルトとヤン・ウェンリーとの最終決戦が行なわれます。同盟軍が上下に進撃することで帝国軍の虚を突いてラインハルト本陣に肉薄する展開がありました。

 このときになってようやく上下の高さが活かされたのです。しかしそれ以後の戦いは前例同様に平面上で行なわれています。

 中国史に詳しい氏の戦術は平面上の戦闘における知識は山のようにあったはずです。

 ですが「前例のない立体的な戦術は想像しえない」という判断があったものと思われます。

 『銀河英雄伝説』における「屁理屈(銀河標準面)」を突き通した格好です。





最後に

 今回は「屁理屈を突き通せ」ということについて述べてみました。

 小説を書いているとき、とくに連載しているときは、フォロワーさんからさまざまな指摘を受けることがあります。

 指摘されたからとそのすべてを修正してしないでください。誰の小説なのかわからなくなります。

 指摘を受けたときには「この小説ではこういう設定なんです」と開き直って「屁理屈」を突き通せば、フォロワーもある程度納得してくれます。

 そもそも小説は楽しく読めれば「なんでもあり」です。

 変に読み手に媚びる必要はありません。



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