147.応用篇:小説は成長物語

 今回は「成長」について述べました。

 小説は「成長物語」だとしても過言ではありません。

 そこについての見識を広めます。





小説は成長物語


 私小説やノンフィクション小説でない、エンターテインメント要素のある小説は、主人公の成長がテーマとなっています。


 そもそも「主人公がどうなりたい」から始まって「主人公がどうなった」で終わるのが小説です。


 つまり最初は条件が満たせていないけれども、最後には条件を満たしています。

 これは「成長」以外のなにものでもありません。





成長といってもさまざまな形がある

 水野良氏『ロードス島戦記』は主人公のパーンが巻を重ねるごとに強くなっていき、カシュー王らとアシュラムらとともに火竜シューティングスターを討伐してドラゴンスレイヤーの仲間入りを果たします。

 そしてライバルであるアシュラムとの決着へ向けて話が流れていきます。

 これは勇者ものにおける成長の王道パターンです。


 平坂読氏『僕は友達が少ない』通称『はがない』では「友達づくり」が成長の過程になっています。

 主人公の羽瀬川小鷹は最初ヤンキーと勘違いされて敬遠されますが、少しずつ話せる相手が増えていきます。

 この過程がすでに成長ですよね。


 渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』通称『俺ガイル』では主人公の比企谷八幡が超がつくほどのひねくれ者で人付き合いができない人物でした。

 しかし強制的に「奉仕部」へ入部させられてから部長の雪ノ下雪乃とぎこちない会話をしたり、依頼にきた生徒たちと会話したりとじょじょに心が開かれていきます。

 そして八幡なりの方法で問題を解決することで周りの見る目が変わっていくのです。

 その過程で由比ヶ浜結衣から依頼を受けますし、結果的に結衣も「奉仕部」へ入部してきます。

 この八幡の心の開き具合が成長の度合いを示しているのです。





何かに気づかなければ成長しない

 人間ただ漫然と生活しているだけでは成長なんてしません。

 勉強をしたり読書をしたりスポーツをしたりということは、なにかに気づくチャンスではあります。

 でも漫然としていたのでは気づけるはずの事実に気づくことはできないのです。


 勉強をすれば知識が増えます。

 ただし「こんな法則があるのか」と知るだけではダメなのです。

 「こんな法則は、こんな使い方をすればこうなるのではないか」と知識の裏側に気づくことが必要になります。

 要は知識として憶えるだけでなく知恵として応用できなければいけないわけです。


 読書をするのは読んでいて面白いし楽しいからだと思います。

 でもただ「この小説は面白いなあ楽しいなあ」と感じるだけではダメなのです。

 その裏にどういう出来事があって、そこから知識の吸収や感情の揺さぶりを感じるのだということに気づく必要があります。

 とくに小説の書き手は。


 だから読書は「ためになる」のです。

 ただ素読したり読書感想文を書くためだけに読むだけでは足りません。

 なにかに気づいて知識や感情が変化する過程を経ることがたいせつなのです。


 スポーツをするのも同様です。

 ただ漫然と監督やコーチに言われた練習だけをする。

 それでは大成しません。

 どういった練習をするように言われたのか、その裏にどんな意図があるのかまで見通さなければ意味がないのです。


 「コーチが言ったように体のこの部分をこう動かせばもっとよくなるな」という気づきがあるから選手として成長します。

 以上のように、人間は何かに気づかなければ成長しない生き物なのです。



 言われたことだけをただするのではなにも気づきません。

 自分から「この行為をすればなにかに気づくかもしれない」と思いながらするから気づけるのです。

 そのためには、なにをするにも「意味を意識しながら行なう」ことがたいせつになります。


 小説を書くという行為も、ただ空白を埋めるために書く、連載を続けるために書く、というだけではなにも気づけません。

 「ここをこう書くと読み手はどう感じるかな」ということを意識しながら書くのです。

 これだけで一文一行からでもさまざまなことに気づかされます。

 成長の早い書き手はそういう意識づけをして文章を書いているのです。


 もし今までそんなことを考えずに小説を書いてきたのであれば、今からでも遅くありません。

 「ここをこう書くと読み手はどう感じるかな」と意識しながら書いてみましょう。

 そうすればその瞬間からさまざまなことに気づけるのです。





成長としての変化

 成長をしようとあれこれ考えて気づける状況を作るだけで、多くのことに気づきます。

 それで成長すればいいのですが、現状を維持しようとしてしまうのもまた人間です。

 その場合成長は望めませんが、現状からなにかが変化することが稀にあります。


 あることに気づいたのだけど今からそれを行なっても大成しないのではないか。

 そう感じて成長を抑止してしまう機能が脳に備わっています。


 でもこの気づきは人生にとっては有効かもしれない。

 そう思えたなら人はなにかが変化します。


 たとえば「四百メートルを速く走るには無呼吸で走らないといけない」ことに気づいたとします。

 だけど「自分は三千メートル走の選手だから関係ないな」と思えば「四百メートル無呼吸」という気づきは成長につながりません。

 でも「三千メートルのラスト四百メートルを無呼吸で走ったらタイムはどうなるかな」と気づきが変化につながることがままあるのです。


 意識が変化することで緩やかな成長につながります。

 今すぐどうなるものではありませんが長期的に見れば意味がある、つまり成長できるのです。


 この変化は「伏線」として使えます。


 つまり「今すぐどうなるものではないが、長期的に見れば意味がある」のは長い目で見れば確かに意味があるわけです。

 「伏線」として序盤にその気づきをさせてあれば、ある時点に差しかかったときに「エウレカ(わかった)!」となるわけです。


 推理小説はこの「変化」を多投して成立しているジャンルです。


 序盤に与えられたなにげない情報が、ある時点に差しかかったときに重要なヒントとして浮かび上がります。

 そして探偵が「そういうことか」となるわけです。

 犯人が誰なのか、どんなトリックを使ったのかが判明します。


 そして「さぁこれから推理ショーを始めますので関係者を全員集めてくれませんか」と警察にいうわけです。

 『シャーロック・ホームズの冒険』や『名探偵ポワロ』などの推理小説では鉄板の展開になります。





最後に

 今回は「小説は成長物語」ということについて述べてみました。

 小説を読んで主人公がなにかに気づきます。するとそれは主人公を成長させるきっかけとなるのです。

 もしその場で成長できなくてもなにかが変化します。

 変化は長期的に見れば成長の一助です。

 だからできるだけ主人公には多くのことに気づいてもらいたい。


 読み手が主人公に感情移入している状態であれば、主人公の気づきは読み手の気づきにもなります。

 つまりあなたの小説を読めば、読み手は成長してくれるのです。

 まるで読み手の両親になったような気分を味わえるではありませんか。


 一度成長を覚えた読み手は、同じ書き手の他作品も読んでみようと思うものです。

 こういう好循環を作り出せば、ベストセラーも生み出せるかもしれませんね。



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