125.応用篇:詰め込みすぎない

 アイデアはいつも突然降ってきます。

 そのたびに今書いている小説に取り込んでいったら、内容が支離滅裂になった。

 そう思われる作品が結構目につきます。

 そこで「詰め込みすぎない」ことを述べてみました。





詰め込みすぎない


 「小説を書く」という作業はとても楽しいものです。

 ふと思いついたアイデアを頭の中で発想し連想し妄想していく。

 物語の形に仕立て上げて「あらすじ」と「プロット」を創っていきます。

 しっかりとした「プロット」が仕上がったら映画やドラマのト書き、またはアニメの絵コンテのようなものをこしらえて準備が万端に整うのです。

 そうやって緻密でスキのない物語が生み出されます。





新しいアイデアはいつでも生まれてくる

 しかし実際にPCやスマートフォンで小説を書いていると「あれも書きたい」「これも書きたい」とアイデアが次々と湧いて出てくることがよくあります。

(注:2022年現在、私は依然としてMacユーザーでスマートフォンはiPhoneSE2を使っています)。

 物語を文章に変換していく過程で脳内イメージがより鮮明になり、発想・連想・妄想が刺激されて「新しいアイデア」が生まれてしまうのです。


 「新しいアイデア」はとても魅惑的な表情を持っています。

 今書いているこの小説に「新しいアイデア」を入れればもっとワクワク・ハラハラ・ドキドキする小説になるのではないか。

 そう思ってしまうのです。


 しかし待ってください。


 その「新しいアイデア」を入れてしまったら、当初の「テーマ」がズレてしまいませんか。

 今手を入れている物語の「テーマ」にふさわしいアイデアなのであれば取り入れても「テーマ」や大きな流れが変わることはまずありません。

 ただし「この魅惑的なアイデアが閃いたから早く書きたい」という理由だけで、物語に似つかわしくないアイデアを混ぜてしまわないようにしましょう。


 ひとつの物語に「テーマ」はひとつでじゅうぶんなのです。

 あれもこれもをやってしまうと「テーマ」がブレたり何を言いたいのかわからなくなったりします。





テーマは一つに絞る

 小説には「テーマ」があります。

 それはたったひとつの「テーマ」です。


 複数あっては読み手が混乱してしまいます。

 「なにを言いたい小説なのかわからない」状態に陥るのです。

 「テーマ」がひとつだから、バトル小説なら読み手は「この小説は『対になる存在』に勝とうとすることが『テーマ』なんだな」と判断できます。


 恋愛小説なら「この小説は『対になる存在』と両想いになろうとすることが『テーマ』なんだな」と判断できるのです。

 「テーマ」が純粋すぎるほど、読み手を惹きつけます。

 純粋な「テーマ」にはムダがないからです。

 余計な感情がなく、ただひたすらに追い求める姿勢。それが人々の心を打ちます。





あしたのジョー

 昭和を代表する名マンガの高森朝雄氏(梶原一騎氏)&ちばてつや氏『あしたのジョー』は、主人公・矢吹丈が「『対になる存在』である力石徹に勝つ」ことを当初のテーマに掲げていました。

 トレーナーの丹下段平と二人三脚でボクシング人生を歩み始めます。

 そして念願であった力石戦で苦闘の末敗北しますが、試合後過酷な減量がもとで力石はリング上で死んでしまったのです。

 これで最初の「テーマ」であった「力石に勝つ」ことが果たされずに終わります。


 丈の純粋なまでにただひたすら追い求めた力石の死により、彼はボクサーとして戦う意義を失ってしまったのです。

 その後丈は顔を殴れないボクサーになりました。

 しかし力石の所属ジムのオーナーとなった白木葉子のマッチングにより、それをなんとか克服したのです。

 そして好敵手カルロス・リベラなどとの戦いを経て、世界タイトルを目指すようになります。

 しかしその頃からパンチ・ドランカー症状が表出してきます。


 危険を顧みずタイトルマッチに挑み、チャンピオンのホセ・メンドーサと死闘の末、丈は判定負けをしますが全力を出し切って真っ白に燃え尽きたのです。

 ここですっぱりと連載が終了しました。

 その後の丈の生死などについてはいっさい言及されていません。

 これは丈の生死が「テーマ」ではなかったことの現れなのです。

 ボクシングという競技に魅入られ、それに人生のすべてを捧げ、もうこれ以上ないほど燃え尽きるまで戦えた。

 その姿勢こそが力石戦以後に読み手へ示された「テーマ」だったのです。


 どんなスポーツでも勉強や受験でも戦闘でも、やり残したことがないくらい全力を出し尽くすことの大切さを読み手に教えてくれています。

 結果よりも過程がたいせつなのです。

 結末よりも「テーマ」が大事なのです。





銀河英雄伝説

 田中芳樹氏『銀河英雄伝説』は現在藤崎竜氏によってマンガ化が開始されています。そしてアニメ化も決まっているのです(すでに第一シーズンの放送は終了し、2019年5月時点では劇場版三作のアナウンスがありました)。

 ですので先々のことをあまり深く書けません。大まかなアウトラインだけならいいかなと思い一項として取り上げることにしました。


 主人公は銀河帝国所属のラインハルト・フォン・ローエングラム、「対になる存在」は自由惑星同盟所属のヤン・ウェンリー。

 ラインハルトの抱える「テーマ」は盟友ジークフリード・キルヒアイスと共に目指した「銀河を手に入れる」ことです。

 そのためには銀河帝国の皇帝になる必要があります。

 そして現在の皇帝であるフリードリヒ四世を倒せば姉のアンネローゼ・フォン・グリューネワルトを救い出すことにもなるのです。

 つまり「銀河を手に入れる」というひとつの純粋な「テーマ」を貫くことで物語に強固な芯が出来あがりました。


 ある日フリードリヒ四世が自然死します。

 となれば姉アンネローゼは晴れて自由の身となり、フリードリヒ四世を倒してアンネローゼを救い出すというエピソードがいちおうの完結を見たのです。

 その後巻き起こった後継者争いにおいてラインハルトは国務尚書リヒテンラーデ公爵と組んで、リップシュタット陣営との内戦を開始します。

 内戦に専念するためにラインハルトと幕僚のオーベルシュタインは自由惑星同盟に内乱を誘発させてヤン艦隊をイゼルローン要塞から帝国領内へ侵攻してこないように手を打っていたのです。


 ヤンは内乱を予測していて対策をビュコック元帥に授けていましたが防ぐことはできず、結局ラインハルトの思惑に乗せられることになりました。

 リップシュタット陣営を打ち倒して銀河帝国の内戦は終結しますが、ここで悲劇が起こります。

 これによりラインハルトは大きな損失を被ってしまったのです。

 しかしラインハルトの部下たちはこの機に乗じてリヒテンラーデ一派を排除し、帝国でラインハルトの独裁権を確立します。

 そして同じく内乱を収拾したヤンとの本格的な戦いの火蓋が切って落とされたのです。

 「銀河を手に入れる」というラインハルトの純粋な「テーマ」を貫き通すために。

 ここまでが新書二巻の出来事です。『銀河英雄伝説』は本伝で新書十巻、外伝で新書五巻が販売されています。ラインハルトの「銀河を手に入れる」物語はまだまだ続くのです。





ひとつの純粋なテーマ

 物語には「ひとつの純粋な『テーマ』」があればいいのです。

 それだけで物語はこうも面白くなります。


 賀東招二氏『フルメタル・パニック!』では主人公の相良宗介は「千鳥かなめをガードする」任務を負っているのです。

 これで「テーマ」とも言えるでしょう。

 それが次第に任務から別のものへと変わっていくことになります。


 川原礫氏『ソードアート・オンライン』では主人公キリトの「デスゲームにおいてたいせつな人を守る」という純粋な「テーマ」で貫かれているのです。

 だから感動が生まれます。


 平成のライトノベルでも、人気が出ているものはほとんどすべてが「ひとつの純粋な『テーマ』」で構成されているのです。

 あなたが夢中になって書き手を志すに至った名作の「テーマ」はなんだったのでしょうか。

 一度振り返ってみてください。

 きっと「ひとつの純粋な『テーマ』」で貫かれていたはずですよ。





最後に

 今回は「詰め込みすぎない」ことについて述べてみました。


 前半は「アイデアを詰め込みすぎない」こと、後半は「テーマを詰め込みすぎない」ことを書きました。


 「いいアイデアが浮かんだから、今書いている小説に組み入れちゃえ」とやった結果、「テーマ」が増えたりブレたりしたのでは台無しなのです。

 そんなアイデアは「いいアイデア」とはいえません。

 今後書くであろう小説のために「ネタ帳」と「箱書き」に書いてストックしておくべきなのです。


 「テーマ」は「ひとつの純粋な」ものだけでじゅうぶん。

 そのほうが物語の芯が強固になります。

 「テーマ」が増えたりブレたりするようなエピソードやシーンなど要りません。


 連載小説も同様です。

 当初掲げていた「テーマ」から別の「テーマ」に乗り換えるのは「あり」ですが、二つを並走させてはなりません。

 それでも連載しているとどうしても「テーマ」に絡めた「エピソード」が思い浮かばず、「テーマ」から逸脱した「エピソード」が出来てしまうことがあるものです。

 そんな「エピソード」は読み手にウケません。

 なのに「できるだけ長く連載したい」から「テーマ」に関係ない「エピソード」を小説投稿サイトで書く人が多いのが実情です。


 「読者サービスのために入れる」という理由があるのならいいのですが、たいていは「その場の思いつき」で書いてあります。

 連載を続けたいがために「その場の思いつき」に頼るようでは底が知れるというものです。



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