123.応用篇:自分が読みたいものと想定外を書く

 最も早くあなたの小説を読むのは、書き手であるあなた自身です。

「自分が読みたいものを書く」ことで、最低ひとりの読み手を確保できます。

 書きたいものがウケない人は「自分が読みたいものを書く」ようにしましょう。

 また書き手自身がウケるとは思わなかったものがウケることもあります。

 その場合はウケる路線に乗り換えるのも悪くはないのです。





自分が読みたいものと想定外を書く


「自分の書きたいものを書く」のがいちばんです。

 しかしそれは他の人が読みたがる「テーマ」を持っているのでしょうか。

 ひょっとすると「自分の書きたいもの」は「他の人が読みたがらないもの」かもしれません。

 そうなると、いくら「自分の書きたいものを書いた」ところで需要なんてどこにもないこともあります。





自分の読みたいものを知っていますか

 小説を書こうとしている人は、たいてい他の人が書いた小説を読んで感動したから「自分も書いてみたい」と思ったはずです。

 その小説は自分のどこに引っかかって感動したのでしょうか。

 自分はどんな物語を読みたいと思っているのでしょうか。

 まずそれを知ることが肝心です。


 少なくとも自分というたったひとりの読み手が欲する「小説」がどんなものかわかります。


 藤川桂介氏『宇宙皇子』のような壮大な歴史伝奇の物語が好き。

 竹河聖氏『風の大陸』や栗本薫氏『グイン・サーガ』のような大河ロマンが好き。

 水野良氏『ロードス島戦記』のような英雄譚が好き。

 神坂一氏『スレイヤーズ』のような破天荒さが好き。

 田中芳樹氏『銀河英雄伝説』『アルスラーン戦記』のような群像劇や戦争が好き。

 谷川流氏『涼宮ハルヒの憂鬱』のようなドタバタコメディが好き。

 笹本祐一氏『ARIEL』や賀東招二氏『フルメタル・パニック!』のように巨大ロボットが出てくるものが好き。

 伏見つかさ氏『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』『エロマンガ先生』のような妹萌えが好き。

 サー・アーサー・コナン・ドイル氏『シャーロック・ホームズの冒険』のような推理ものが好き。

 マンガの大場つぐみ氏&小畑健氏『DEATH NOTE』のような心理バトルが好き。

 渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』のようなひねくれたじれったさが好き。


 人によって読んで感動した小説のジャンルも書き方も異なっているはずです。

 それを知ることで、最低でも「書き手であるあなたが読んでみたい小説」がどんなものであるのかが見えてきます。





書き手本人のために書いてみる

 自分が読みたいものがわかれば、まずは自分のために小説を書いてみましょう。

 小説を書いているとき、最初の読者となるのは書き手自身です。

 書いていてあなたが「この小説は楽しいなぁ」と感じない小説を書き上げても、他の読み手が「この小説は楽しいなぁ」とは思ってくれません。

 書いている本人が楽しくないものを、他の人が楽しいと感じることなどまずないでしょう。

 書いている本人が「楽しい」と感じる小説なら、あなたに感性の近い読み手には確実にウケます。


 どんな文豪も、とりあえず書き進め、読み返してみて良い感じに思えたなら続きを書くのです。

 悪い感じに思えたならそこまで書いてきた原稿用紙を丸めてくずかごにポイと放り込みます。

 最初の読者が自分であることをわきまえていたから、彼らは自分の納得が行く原稿を仕上げていったのです。


 だからまず書き手であるあなた自身が「楽しい」と思える作品を書いてください。

 そうすればどんなに少数派であっても必ずフォロワーさんが集まってきます。





書き手の意図と異なる評価も

 たまに『DRAGON BALL』の「天下一武道会編」のように書いていた本人が思っていた以上に人気が出てしまうこともあるにはあります。

 ですがこれはひじょうに稀なケースです。


 「天下一武道会編」があまりに好評を博したため、その後の『週刊少年ジャンプ』誌上では同じようなバトル大会が数多くの作品に組み込まれてしまいました。

 たとえば冨樫義博氏『幽☆遊☆白書』や宮下あきら氏『魁!!男塾』のようにです。

 その風潮が正しかったのかどうかはわかりませんが、現在も尾田栄一郎氏『ONE PIECE』や冨樫義博氏『HUNTER×HUNTER』といった長期連載マンガが似たような形をとっていました。

 そのため「終わらせたくても終われない」状態に陥っているのです。


 そういえば『DRAGON BALL』も「終わらせたくても終われない」作品になって終わるまでに全42巻かかってしまいましたね。





意図的に取り入れた場合

 それに比べてスポーツマンガは意図的に「天下一武道会編」が取り込まれています。

 たとえばバスケットボールを扱った井上雄彦氏『SLAM DUNK』はインターハイ出場を目指して戦い、インターハイでまた大会を戦いました。意図的に対戦が組まれていたため、連載終了までに全31巻かかりました。

 同じくバスケットボールを扱った近作である藤巻忠俊氏『黒子のバスケ』もインターハイを目指して戦い、ウィンターカップ優勝までを描きました。こちらも連載終了までに全30巻を要したのです。

 サッカーでは現在も誌面を変えて連載が続いている高橋陽一氏『キャプテン翼』が代表的でしょう。

 とにかく大会を戦ってそのほとんどが決勝まで行くため、どんどん試合が増えていきます。

 『週刊少年ジャンプ』誌上で続いた連載だけを見ても『キャプテン翼』『ボクは岬太郎』『ワールドユース特別編』『ワールドユース編』のすべてを合わせて単行本が全57巻に達しています。


 『週刊少年マガジン』で二十年以上連載が続いている森川ジョージ氏『はじめの一歩』も、複数の魅力的な登場人物たちがボクシングの試合を繰り広げるため、現在単行本118巻まで出ていますが終わる気配がまったくありません。

(2019年5月時点で124巻まで発売されています)。

 『週刊少年サンデー』で二十年以上連載している青山剛昌氏『名探偵コナン』は「事件を推理して解決させる」という推理ものであるがゆえに、物語本編である「黒の組織を壊滅させる」というテーマがなおざりにされています。

 たくさんの登場人物が出てきて事件を起こし、それをコナンが解決していきます。現在単行本93巻まで出ていますが、こちらも終わる気配がありません。

(2019年5月時点で96巻まで発売されています)。

 このように、意図的に取り入れて連載が長期化するマンガはひじょうに多いのです。


 少女マンガですが美内すずえ氏『ガラスの仮面』も主人公・北島マヤとライバルである姫川亜弓との「紅天女」をめぐる戦いが主軸なため、なかなか終わりませんよね。

 これら長期マンガは「誰かと対決する」形だから「天下一武道会編」を取り込むことができました。

 しかしそれが本当によかったのでしょうか。


 囲碁を扱ったほったゆみ氏&小畑健氏『ヒカルの碁』は終了までに全23巻かかっています。

 しかし本来なら藤原佐為が自分の中にいることに気づいて塔矢アキラとの対決が描かれた第17巻で終われた物語なのです。

 アニメ化が決まって急遽「北斗杯編」が継ぎ足され、結果なんとも締まらない終わり方になってしまいました。

 その反省からか大場つぐみ氏&小畑健氏『バクマン。』で主人公のサイコーとシュージンがアニメ化の決まった作品で「いちばんいい終わり方をさせてくれ」と担当編集さんに直談判しています。

 『ヒカルの碁』も終わらせてほしかったんだなと読み手に透けて見えました。


 このように「誰かと対決する」形は終わらせ方がとても難しくなります。

 『SLAM DUNK』のように突然終了させてしまう手もありますが、このような唐突な終わらせ方は現在ではあまり見られなくなりました。

 そのためにズルズルと連載が長引いていく悪循環が生み出されたのです。





小説に当てはめると

 これは小説にも当てはまります。

 田中芳樹氏『アルスラーン戦記』や栗本薫氏『グイン・サーガ』は「誰かと戦う」戦記ものであるがゆえに連載が長期化してしまいました。

 戦う相手がいるかぎり連載をやめるわけにはいかないのです。


 そしてとうとう『グイン・サーガ』は作者死亡により完結することなく宙ぶらりんになりました。

 現在は複数の書き手が連載を引き継いでいます。

 この体制で本当に完結できるのかすらわかりませんが。


 ですので連載小説を書いている人で、とにかく連載を引っ張るだけ引っ張りたい人は「誰かと戦う」形にもっていくことがオススメです。

 これなら無理なく長期連載が可能になります。


 ただ、一度そうしてしまうと終わらせ方に苦労するでしょう。

 終わらせ方を先に決めておいてから「誰かと戦う」形を始めればその点もクリアできるはずです。





最後に

 今回は「自分が読みたいものを書く」ことについて述べてみました。

 あなたが書いている小説の最初の読み手は、書き手であるあなた自身です。

 あなたが満足しない物語を読み手が満足してくれるかなんてわかるはずがありません。おそらく満足してくれないでしょう。

 だったらあなた自身が読みたいものを書けばいいのです。

 そうすれば、少なくともあなたは満足します。

 あなたと価値観が近い人もまた満足できるのです。


 そのうえで、とくに連載小説では書き手が想定していなかった読み手の反響に耳を傾けてみましょう。

 『DRAGON BALL』の「天下一武道会編」のように書き手が意図しなかったウケの良い要素がわかり、それを忠実になぞることで好評価を得ることもできます。

 きちんと対処できればランキングに台頭するでしょうし、「紙の書籍化」が見えてくるかもしれません。


 まずは「自分の読みたいものを書く」こと。

 そして「読み手の反響に耳を傾ける」ことです。

 そうすれば前途が明るく開けてきます。



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