93.実践篇:生活を書く

 今回は「生活を書く」ことについてです。

 世界設定だけで満足していませんか。そこに暮らす人々はどういう生活をしているのでしょうか





生活を書く


 世界設定を作り、そこに住まう生物と社会を決める。それはその世界に生きる人々の暮らしを描写するためです。

 世界設定はしたし生物と社会も決めたのに、そこに息づく人々の生活を描かない。それでは設定が「生きている」とは呼べません。

 そこで今回は「生活」について述べてみます。





国や町の特徴

 書きたい国、書きたい町ではどのような営みが繰り広げられているのでしょうか。

 国が違えば風習も違いますし、人々の営みも異なります。


 為政者がどのように国を治めているのかは治安と経済にかかわるのです。

 為政者の心構えがわかったとして、それが官吏(官僚)によって完全に履行されているのでしょうか。

 清廉な為政者でも官吏に賄賂がまかり通っている国もあります。暴君であっても官吏が民衆の不満を適度に発散させて体制が維持されている国もあるでしょう。

 国家像とは「為政者」と「官吏」による民衆の統治法に左右されるのです。

 だから単純に「この国には暴君がいる」というだけでは民衆の営みを語り尽くすことはできません。



 法律がきちんと遵守されているかという点も見逃せないでしょう。

 為政者が自ら法を破っているのに部下には厳格に法を適用しようとする国も珍しくはありません。

 為政者が清貧を受け入れていても、臣下が不正を働いて蓄財している国も珍しくもないのです。

 また国家間の同盟関係によっても国の治安が左右されます。さらに王国として周辺国を封建している場合もありますし、帝国として周辺国を征圧している場合もありえるのです。

 戦乱の渦中にあるかもしれませんし、場合によってはクーデターが企図されているかもしれません。そうなれば政権は安定を失っているはずです。そういった国情を描けなければ、国を描くことはできません。



 このあたりの機微は中国古典に詳しいので、現実味リアリティーのある国家を描きたければ中国の春秋戦国時代を描いた書物『春秋』『戦国策』を買い揃えて読んでおくとよいでしょう。



 同様に町が違えば習俗も違いますし、やはり人々の営みも異なります。

 町長が為政者に忠実な信徒である町、町長が為政者より慕われている町もあることでしょう。

 中央政府から天下りで町長をやっているのか、いち民衆から叩き上げて町長になったのかでもまた違ってきます。

 またやはり賄賂がまかり通っている可能性もあるのです。



 国にしろ町にしろ、トップが民衆にどれだけ慕われているか、治安がどれほどすぐれているかという点は最低限必要な情報です。

 それだけで街の賑わいが変わってきます。

 街の賑わいがわからない限り、そこで生活している人々を魅力的に書くことはできません。





魔法やテクノロジーの発達度合い

 魔法やテクノロジーがどれだけ社会に根づいているかも重要です。

 それだけで民衆がどれだけ恩恵を受けているのかが決まります。

 各家庭の台所は炎の魔法で火をおこしているかもしれません。

 現代日本のようにガスコンロがあるかもしれません。

 未来ならすべてレンジでチンする時代なんてのもありえるでしょう。


 魔法とテクノロジーはそれだけ人々の営みに影響をおよぼすのです。



 魔法は中国の五行思想「木火土金水」によるものかもしれませんし、西洋の土水風火の四大精霊によるものかもしれません。万能なるマナによって発動される世界もあります。

 また魔術と神術が異なることはよくあることです。

 RPGでも魔法使いと僧侶は別の職業となっていますよね。

 単に「魔法」という言葉に縛られるのではなく、どのような力を用いてそれが行なわれているのか。

 その設定をしておくのも「ファンタジー」では必要なことなのです。



 テクノロジーは基本的に電気と機械によって発達してきました。

 だからSF小説には派手な機械がよく出てきます。


 アンドロイドやロボット、パワードスーツなどはかなり古いSF小説で登場していますが、現在それが実現しつつあります。

 現にパワードスーツは医療分野での活用が模索されている段階です。


 だからといってテクノロジーを単に「電気と機械」によるものだと決めつけるのもあまり面白くはありません。


 魔法で出てきた「万能なるマナ」が動力源かもしれませんし、機械ではなく魔術的な道具のようなものかもしれません。

 そういった新しい発想がこれからの小説には求められています。



「魔法が発達している社会で外宇宙へ進出する」なんていう設定は、文字列を見るだけでワクワクしてきませんか。


 私は外宇宙ではどうやって魔力を確保するのかなど、空想するだけで楽しくて仕方ありません。時間を見つけて小説にしたいくらいです。


 光を魔力の源とするなら、ホワイトホール近辺は大規模な植民が行なわれているのではないでしょうか。

 またどのくらいの光があれば宇宙船を安定して運用できるのか。その境界線というのも設定してみたくなります。



 魔法とテクノロジーは昔から相容れないものとされてきました。

 これはファンタジー小説とSF小説が別ジャンルとして確立してきたからともいえます。

 しかし私たち日本人はその考えが固定観念にすぎないこと知っているのです。



 ゲームのスクウェア(現スクウェア・エニックス)『FINAL FANTASY』シリーズがその端緒でしょうか。


 日本には国教がありません。ある思想に縛られるということがないのです。

 魔法が出てくるからファンタジー、機械が出てくるからSFという単純な思想にも縛られません。

 マンガの鳥山明氏『DRAGON BALL』も主人公ブルマが発明家でSFチックな道具をいくつも作っています。

 そして真ん丸を見ると大猿になる孫悟空や彼の乗る筋斗雲、武器の如意棒などファンタジー要素が登場するのです。


 SFとファンタジーの共存は日本人の得意分野なのかもしれません。


 川原礫氏『ソードアート・オンライン』も、科学技術のVRヴァーチャル・リアリティーの「ナーブ・ギア」を用いて、ファンタジー世界である「ソードアート・オンライン」を生き残る話でしたよね。





衣食住

 住まいも重要ですね。古代日本なら洞穴をそのまま利用するか、竪穴式、高床式、江戸時代なら長屋や屋敷かもしれません。

 西洋でもあばら家であるかお城であるかも重要です。野宿かもしれないし、土壁や白壁、レンガやセメント、鉄筋コンクリート、いっそきわめて強度の高い合金製かもしれません。

 どんな建物に住んでいるかで民衆の豊かさが表されます。



 人々は何を着ているのでしょうか。

 食べ物と同様、異世界で現代日本のような服装をしているとはまず考えられません。

 しかしまったく新しい服装を考えることは難しいのです。

 それができるくらいなら小説を書くよりもファッションデザイナーになったほうが才能を活かせます。

 だから「どこの国のいつの時代に着ていたような服装」という表現が便利に使えます。


 また服装も生活の一部ですから、江戸時代の日本のような社会を土台とする国では和服のようなものを着ているのが普通です。


 大陸で各国が覇を競うような社会なら古代中国の服装も考えられます。

 まぁたいていの異世界ファンタジーは中世ヨーロッパがベースですから、上層階級の女性はドレスを着ていることでしょう。(史実では舞踏会が開かれるようになったのは十六世紀過ぎの近世に入ってからです)。

 そうなれば民衆も中世ヨーロッパの民衆が着ていた服装をしているのが当たり前かもしれません。

 当時の資料をできるだけ集めて、人々がどのような服装を着ていたのかを知ることはとても大切なことなのです。



 人々は何を食べて暮らしているのでしょうか。

 日本のように米であるのか、古代日本や中国のヒエやアワ、西洋のパン、アジアの麺、アフリカのトウモロコシ粉など。

 いずれにしても異世界であれば食べるものも現代とはまったく異なっているはずです。

 米も小麦も存在しないかもしれません。

 飲食物をどう描写するかで、人々が生きているという実感を読み手に与えられます。



 「衣食住」は人々の生活水準を示してくれますし「異世界」であることを強調する要素にもなるのです。

 「異世界」や「SF世界」であれば「衣食住」をどう扱うかで現実味リアリティーも生まれてくるでしょう。





最後に

 今回は「生活を書く」というテーマで述べてみました。

 国や町のあり方、魔法とテクノロジー、衣食住を中心として人々の生活を彩るのが小説の書き方でもあるのです。


 人々をただの「モブ」として捉えるのではなく、主人公たちが活躍する世界を説明するための素材にしてください。

 彼らが「生きている」世界を描かなければ、それを守るための主人公の行動には明確な動機がなくなるのです。



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