77.実践篇:書き出しの書き方

 書き出しにはいつも悩みます。

 そこで「冒頭をショートショートにしてみる」ご提案です。





書き出しの書き方


 会話文は楽です。とにかくキャラの性格がわかるように「声」をそのまま書けばいい。

 それで話がテンポよくつながっていくのならなおさらです。

 もう会話文だけで小説を書き上げたくなるくらいに。

 でも会話文だけの小説というのはそれはそれでなかなか難しいものです。





会話文だけの小説

 そんな小説も無いことはありません。

 一人称視点の場合、カメラは主人公当人に付いていますから、自分の心情や他人の見た目などを「独白(独り言)」のように書けます。

 この部分は主人公が自分で語っているようなものなので、地の文が会話文のようになってしまうことはじゅうぶんありえるのです。

 夏目漱石氏『吾輩は猫である』が好例でしょう。


 三人称視点の場合そうはいきません。

 誰かの語り口をそのまま地の文に書いてしまえば、その話している人がカメラを持つ一人称視点になってしまうからです。





三人称視点の小説

 三人称視点や会話文だけでない一人称視点においては会話文の間に「の文」が立って、声の主の動作や心情やクセなどを書き表すと状況や仕草などが読み手に伝わります。

 ライトノベルでは会話文をいかに読ませるかが重要です。

 それを阻害しない程度に「地の文」を挟まなければいけません。


 会話のテンポを止めないで「地の文」を書くのはかなり技術が必要です。

 一文字も無駄にできません。

 必然的にライトノベルの「地の文」はショートショートの文体に近くなっていきます。




文学小説は狭苦しい

 文学小説の「地の文」はとにかく描写と比喩に力を入れるのが特徴です。

 とくに比喩に秀でていないと「すぐれた文学小説」とは認めてもらえません。

 つまりライトノベルのように会話文を主体とする書き方は文壇で認めてもらえないのです。


 エンターテインメント小説(大衆小説)も基本は文学小説と同じです。文学小説と大衆小説を分けているのは「テーマ」が人間の持つ一面をシリアスに見せているか、「舞台」は現在現実かといったところにあります。


 「現在現実を舞台に、人間の持つ一面をシリアスに書き表した小説」が文学小説ということになります。

 「舞台」により時代小説やSF小説は文学小説に入りませんし、ライトノベルで主流のファンタジー小説だって入りません。ミステリー小説なら条件をクリアできそうですが、推理する楽しみを与える時点で「テーマ」にあるシリアスとはいえず文学小説から外されてしまいます。

 それほどに文学小説は狭苦しい分野です。

 文壇で名を残し、あわよくばテレビの情報バラエティ番組にコメンテーターとして呼ばれたいような人だけが目指すものに成り下がっています。

 大衆小説をよく書く私としてはやはり狭苦しい印象を受けるのが文学小説なのです。





書き出しはショートショートで

 前述したとおり、ライトノベルの「地の文」はショートショートの「地の文」に近しくなります。

 実はそれだけでなく、他のすべての小説は基本的に「書き出し」がショートショートの形になっているのです。

 なぜでしょう。

 冒頭の短い文章の中で出来事イベントが起こり、それが解決される必要があるからです。

 短い文章の中で出来事が起きて解決される。それはまさしくショートショートになりますよね。


 そうやって冒頭を読ませたらそれが一回の投稿ぶんを読ませ、ひとつの章を読ませる力になる。

 それができて初めて読み手に一作を通して読まれるのです。

 冒頭でのショートショートの力量が一作を決めると言ってもよいでしょう。


 だから小説では「書き出し」が重要だと言われるのです。





ショートショートでない書き出し

 冒頭がショートショートの形をしていない小説は、すでに名の通った書き手の新作か、人気のある小説の続編かだけです。

 つまり「読み手が期待した状態で冒頭を読んでくれる」から冒頭で展開がいくら冗漫でダレても誰も文句を言いません。

 推理小説の人気作家で「殺人事件が書籍の半分を過ぎてから起きた」なんてことも実際にあったそうです。

 小説を書いたことのある人からすれば「前半は何をしていたのか」と疑いたくなりますよね。





ショートショートな書き出し

 ショートショートに必要な条件は「斬新なアイデア」で「意外な結末」を迎える「短編小説よりも短い分量」であることです。

 筋書きがしっかりしているものを含めるときがありますが、小説はすべからく筋書きがしっかりしていなければなりませんから、特段ショートショートだからという条件とは言えません。


 ではショートショートはどう書けばよいのか。

 ここで株式会社キノブックス刊・田丸雅智氏著『たった40分で誰でも必ず小説が書ける超ショートショート講座』に記された「田丸式メソッド」を使ってショートショートの書き方をお示し致します。

 内容が気になったらぜひ原著を購入して座右の書に加えてください。きっとお役に立ちますよ。

 以降は「田丸式メソッド」を応用して小説の書き出しをショートショートにする手はずを見てみます。





「田丸式メソッド」によるショートショート作り

 まず「テーマ」が必要です。小説にはその作品全体を通しての「テーマ」と、エピソード単体の「テーマ」の二つがあります。

 ここではエピソードの「テーマ」となる物事が必要になるのです。

 しかしエピソードの「テーマ」だけでは「斬新なアイデア」にも「意外な結末」にもなりません。


 ここに「斬新さ」と「意外性」を加える必要があります。

 そのためには何か「小道具」を用いるのが手っ取り早い。

 名詞で指し表されるものならなんでも構いません。

 それも「テーマ」から離れるだけ離れたまったく接点のなさそうな「小道具」です。

 「相合傘」を第一章の「テーマ」となる物事に据えたとして小道具に工具の「ペンチ」を使ったらどうでしょう。

 何か関係があるのか、と思いますよね。

 この段階で「斬新さ」が生じているのです。


 「テーマ」と「小道具」が揃いました。ではそこからどうやって「意外な結末」へと導くのか。「連想ゲーム」です。


 まず「ペンチ」から考えられる・発想できるものをできるだけ多く「連想」してください。「工具」「銀色」「光り輝く」「金属を曲げられる」「鈍器として使える」「工事現場」「日曜大工」「油臭い」などなど、発想できるものを可能なかぎり多く書き出すのです。

 そしてこの中から「テーマ」と「連想したもの」を組み合わせて、普段まったく考えもしない、考えられない組み合わせを考えます。


 「工具の相合傘」「銀色の相合傘」「光り輝く相合傘」「金属を曲げられる相合傘」「鈍器として使える相合傘」「工事現場の相合傘」「日曜大工の相合傘」「油臭い相合傘」などですね。

 「連想+テーマ」の順だけでなく「テーマ+連想」の順でもよく、順番にはこだらないでください。


 こうして出来上がった「考えられもしなかった組み合わせ」が出来事イベントの軸になるのです。

 さらに「連想ゲーム」は続きます。


 この軸はどんなものですか。端的に説明してください。

 それによって「いつ」「どこで」「どんなときに」どんな良いことがありますか。いくつか思い浮かぶはずなのでそれを書いてみましょう。

 さらに「いつ」「どこで」「どんなときに」どんな悪いことがありますか。

 また良いことで挙げなかったどんなことがありますか。

 この裏表をどれだけひねり出せるかがショートショートでは最も大事なものになるのです。


 「鈍器として使える相合傘」を例にとればどんなものかは「盗難防止のため10kgの重さがある相合傘」のように説明したと仮定します。

 良いこと・悪いこととしてはざっと「誰かを殴り倒せる」「筋トレになる」「重しにできる」「南京錠を壊せる」「水に沈む」「すぐに腕が痺れてしまう」などが考えられますね。


 これを取捨選択して簡単な文章を作ってみましょう。ただし「会話文」を入れず「説明と描写」だけをしてください。


 なお文字数に制限はありません。二百字でもいいですし二千字でもいいです。これが小説の書き出しの素案になります。

 素案がまとまったら、小説の体をなすように会話文も加えてさらに書き込みを増やし、物語になるよう「箱書き」を作って書き改めてください。

 そうして出来あがったものが「エピソードの書き出し」になるのです。


 ここからさらに話を展開していって作品の「テーマ」と章の「テーマ」を踏まえつつエピソードを紡いでいきましょう。





最後に

 今回はあくまで「ショートショートを小説の書き出しにしよう」という私なりの提案で書いてあります。

 ショートショートのもっと詳しい作り方を知りたい方はぜひ原著を購入してください。

「小説の書き方」を著した本はどんなものであれ、きっとあなたのお役に立つはずですよ。



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