51.中級篇:エンターテインメント小説を書こう(中略あり)

 前回が五十回目のコラムだったんですね。そして今日は(『ピクシブ文芸』で)連載を始めて五十日ということになります。

 今回はずばり「エンターテインメント小説を書こう」というテーマです。

(いつものように、今回も『ピクシブ文芸』用に書いた回ですので、中略があります)。





エンターテインメント小説を書こう


 世の評論や文壇のご意見番は「純文学」などのいわゆる「文学小説」を最上だと見なしています。

 ミステリー小説や歴史小説やSF小説やファンタジー小説などのいわゆる「エンターテインメント小説(大衆小説)」やその中高生向けである「ライトノベル」よりも上なのだそうです。





文学小説は狭い世界

 ですが基本的にフィクションレベルがゼロの現代劇である「文学小説」はオリジナルな世界の創造や設定がそもそもありません。

 あっても「この小説はフィクションです」とか「架空の地名です」とか「架空の人物です」とかいう程度のことです。

 現代劇という枠を出られない「文学小説」は、狭い世界の中で描写力を競う程度であることに気づいているのでしょうか。

 まぁ気づいていないからこそいまだに「芥川龍之介賞(芥川賞)」「直木三十五賞(直木賞)」が存在しているのだと思いますが。





大衆小説は広い世界

 その点「エンターテインメント小説(大衆小説)」の世界は広大です。

 オリジナルな世界の創造や設定が求められます。


 これは「文学小説」にはないことで、まったく異なる資質が求められるのです。

 この世にまったくない世界観・技術・魔術・道具(アイテム)・職業などを考え出していかなければなりません。


 ただそこまで完璧なオリジナル小説を書ける人も限られます。

 たいていの大衆小説は何らかの設定に依拠してそこにオリジナルなスパイスを少しだけ振りかけるのです。





ファンタジー小説が主に依拠する原典

 おおかたのファンタジー小説はJ.R.R.トールキン氏『指輪物語』の世界に依拠しています。

 剣と魔法で戦い、エルフやドワーフといった亜人が生活し、何かを求めて旅をする勇者や冒険者。

 この図式がほとんどです。

 これが『指輪物語』の世界観であり、そこから発生したファンタジー小説はすべて『指輪物語』に依拠しています。


 最近になって『指輪物語』から脱却する動きが出てきたところです。

 代表的なところではハワード・フィリップス・ラヴクラフト氏が友人たちと作り上げた小説世界をシェアワールド化した『クトゥルフ神話』に依拠した物語も増えてきました。

 日本ではライトノベルの逢空万太氏『這いよれ! ニャル子さん』がその先鞭をつけた形になっています。


 話が前後しますが「エルフの耳がウサギのように長い」という設定は水野良氏『ロードス島戦記』において挿絵を担当していた出渕裕氏が「エルフ族の耳はとがっています」という言葉だけでデザインした「ディードリット」という女性エルフの姿が元になっています。

 出渕裕氏は別の作品から着想を得たそうです。

 以後日本でエルフ族といえば「ウサギのように長い耳」になったという点で『ロードス島戦記』に依拠したファンタジー作品が増えました。





文学小説は表現力だけで勝負する

 「文学小説」を代表する「純文学」は表現を磨いて話題性がなければ箸にも棒にもかかりません。

 それを厳しい世界と見るか楽な世界と見るかは人によります。

 私は楽な世界に思えて仕方ありません。


 だって「表現を磨いて話題性があれば注目される」わけですよ。

 反面「表現力だけでも書けてしまう」のが「純文学」であり「文学小説」ということになりますからね。

 実際に十九歳で芥川賞を授賞した綿矢りさ氏『蹴りたい背中』は当時相当な衝撃を世の中に与えたのです。

「こんなに若くても芥川賞を獲れるのか」

 つまり表現力と話題性だけが問われる「純文学」だからこそ表現力と話題性だけで受賞できるのです。





大衆小説は「何かが変わっている世界」

 大衆小説ではこうはいきません。

 舞台設定つまり世界観から考え出さなければ書けないのです。

 もちろん現代劇にしてミステリー小説やライトSF小説などを書くこともできます。

 その場合は舞台設定をまったくせず実社会を舞台に書いていけばいいのです。

 ですが多くの大衆小説では現代劇そのままではない「何かが変わっている世界」を舞台にします。


 ライトノベルですが賀東招二氏『フルメタル・パニック!』は「ソ連が存続したまま」で人型兵器「アーム・スレイブ」が登場する現代劇でした。

 二つほど「変わっている世界」となります。フィクションレベルはそれほど高くありません。


 弓弦イズル氏『IS 〈インフィニット・ストラトス〉』は女性にしか反応しない最終兵器「インフィニット・ストラトス」が登場します。

 それに伴い現代世界からかなりの改ざんがなされており、フィクションレベルが高いライトノベルとなりました。





ライトノベルでのファンタジーの守備範囲

 ライトノベルに限れば「ファンタジー」の定義はかなり変わってきています。

 当初は栗本薫氏『グイン・サーガ』や水野良氏『ロードス島戦記』のように、現世界とはまったく異なる世界を舞台にした作品を「ファンタジー」と称していたのです。

 それが現在「ファンタジー」と言えば、いわゆる「異世界転生もの」を指しています。

 『グイン・サーガ』『ロードス島戦記』などは「異世界ファンタジー」と別途区別しなければならなくなったのです。


 「異世界転生もの」は主に小説投稿サイト『小説家になろう』で人気のあるジャンルです。(2022年現在多くは『カクヨム』に移籍しています)。

 ここで連載されて「紙の書籍化」した「異世界転生もの」のライトノベルは数多くあります。

 そのためか『小説家になろう』ではおおかた「異世界転生もの」が上位を占めていました。今でも数が多いですね。

 「異世界転生もの」で一旗揚げようと思えば『小説家になろう』に連載するのが近道と言えます。(現在は『カクヨム』が引き受けています)。





大衆小説は総合芸術

 私は皆様にライトノベルを含むエンターテインメント小説を書いてほしいのです。

 エンターテインメント小説は設定から考えるクセをつけてくれます。

 さまざまなフィクションレベルを設定して書ける小説家は、どんな種類の仕事でも書けるマルチライターになりえます。

 つまり「食いっぱくれが少ない」ということです。


 小説を書いて生活したい人にとって、これは大きなアドバンテージになります。

 そしてさまざまなエンターテインメント小説を書くことで絶えず表現の質を高めていくよう気を配ること。

 それさえ念頭に置いていれば「文学小説」だけを書き続けているときよりも格段に表現力は向上します。

 なぜなら、実際にないものをあるかのように表現しなければエンターテインメント小説になりえないからです。





ないものをあるかのように書く才能

 「ないものをあるかのように書く」

 小説家として、ノンフィクション作品以外のすべての小説において不可欠な才能です。


 純文学では表現だけでそれを書こうとしますが、エンターテインメント小説では設定からアプローチして表現で補います。

 設定さえ巧みなら、表現が多少劣っていても形を成すのがエンターテインメント小説です。

 だからこそ、最初に書くべきはエンターテインメント小説なのです。


 これから小説を書こうと思っている方がいらっしゃったら、相当難しいですが、完全オリジナルのSFやファンタジーなどのエンターテインメント小説から書くことをオススメします。


 何かに依拠しない設定を考えることで頭の中に固有の世界が生まれますし、それを文章にして表現しようと工夫するからです。この繰り返しが最も表現力を高めてくれます。




〜(中略)〜





最後に

 今回は「エンターテインメント小説を書こう」ということについて述べてみました。

 主な目的は「表現力の向上」です。

 それは純文学でも二次創作でもできはするのですが、どうしても制約がかかってきます。

 でもなんでもありのエンターテインメント小説であればそういう制約がほとんどありません。


 書き手が書きたいものを好きなように書ける。


 そのうえで反響を見て読み手にウケる表現や書き方を自ら見出だしていくのです。

 そうすれば確実に「表現力は向上」します。

 後は書き手であるあなたの意気込み次第です。



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