31. :文学小説と大衆小説とライトノベルと
今回は文学小説とライトノベルは何が違うのか。
なぜライトノベルは芥川龍之介賞・直木三十五賞を獲れないのか。
そのあたりを考証してみました。
「文学小説」「大衆小説」「ライトノベル」のどれを狙うべきでしょうか。
文学小説と大衆小説とライトノベルと
ここでは一般的に「文学」と呼ばれる小説を「文学小説」と表記します。
「文学小説」と「大衆小説」と「ライトノベル」との違いはなんでしょうか。
そもそも「文学小説」とはどういう小説を指して言うのでしょうか。
そして現状で総販売部数が上回っている「ライトノベル」がなぜ「芥川龍之介賞(芥川賞)」「直木三十五賞(直木賞)」を授かれないのでしょうか。
大衆小説とは
「大衆小説」は「娯楽小説」「エンターテインメント小説(エンタメ小説)」とも呼ばれます。
読み手をハラハラさせたりドキドキさせたりワクワクさせたりする。そんな小説が「大衆小説」なのです。
主にミステリー、サスペンス、ホラー、サイエンス・フィクション(SF)、幻想(ファンタジー)、恋愛、エロティックの各ジャンル小説を総称していいます。
これらはすべて読み手に「ワクワク・ハラハラ・ドキドキ」のいずれかまたはいくつかを提供しているのが特徴です。
これらは出版各社において「賞レース」があり、応募作の中から将来の書き手を選りすぐる登竜門となっています。
また各ジャンルにおいて「ミステリー大賞」のような「賞レース」もあります。
しかし「芥川賞」や「直木賞」にこれらは候補作としてノミネートされることはまずありません。
その代わりに書店員などで選ぶ「本屋大賞」では積極的にノミネートされ、多くの受賞作を輩出しています。
ライトノベルとは
「ライトノベル」は一般に中高生以上を読み手の対象とした「大衆小説」を指します。つまり「大衆小説」の一部です。(2022年においては中年男子が読むものになっています)。
「大衆小説」の一部ですからこちらも同様に「ワクワク・ハラハラ・ドキドキ」のいずれかまたはいくつかを読み手に提供しています。
「ライトノベル」は「大衆小説」と同様にミステリー、サスペンス、ホラー、SF、ファンタジー、恋愛、エロティックの各ジャンルがあります。
出版各社ごとに「賞レース」があり、それがライトノベルの書き手の登竜門となっている状況は「大衆小説」と同様です。
また「芥川賞」「直木賞」にノミネートされないのも「大衆小説」と同様。
その代わり「大衆小説」の「本屋大賞」とは別に、「ライトノベル」の各ジャンルすべてをまとめた書籍『このライトノベルがすごい!』の順位を争うことになります。
他の小説と異なるのは、インターネットの小説投稿サイトで人気が出た小説は「ライトノベル」として「紙の書籍化」する可能性があることです。
文学小説とは
では肝心の「文学小説」とはなんでしょうか。
それは「ライトノベル」を含めた「大衆小説」ではない小説全般を指します。
そして読み手に「ワクワク・ハラハラ・ドキドキ」を提供しない小説です。
「そんなものが面白いのか?」と思われるでしょうが、読み手を「面白がらせる小説」はそもそも「文学小説」ではありません。
主にノンフィクション・私小説・歴史・フィクションの各ジャンルの小説が「文学小説」に分類されます。
またこれまで出たジャンル以外の小説はすべて「文学小説」となるのです。
これらは「文壇で権威がある」とされる『新潮』や『文藝』など五つの文芸雑誌に掲載され、それを単行本化して「賞レース」に入ることになります。
そしてこの「文学小説」だけが「芥川賞」「直木賞」へのノミネートが許され、その中でしか受賞されることはありません。
芥川賞・直木賞の価値は
「芥川賞」「直木賞」はすでに文芸雑誌を発刊する出版社の宣伝目的でしか機能していません。すでにかつての権威はないのです。
本来「純文学」をノミネートしていたのは「芥川賞」でしたが、いつからか「直木賞」が「純文学」の賞とされています。
「芥川賞」は巷で話題になった新人作品の論功行賞の意味合いが強くなっているのです。もはや純粋に「文学性」を判断基準にしていません。
確かに「芥川賞」「直木賞」を受賞すれば単行本は数十万部は確実に出荷されていきます。
その点では「商業的に」価値はあるのでしょう。
過去最大のヒットは「第153回芥川龍之介賞」受賞作・又吉直樹氏『火花』で、書籍だけで二百万部(執筆当時。2019年1月時点で三百万部)を超える出荷部数を記録しています。
人気お笑いコンビ「ピース」の一人が書いた小説だということで話題になり、多くの人がその話題に釣られて購入していったのです。
しかし『火花』を読んでもそれほど「ワクワク・ハラハラ・ドキドキ」は得られませんし、それほど「面白くもありません」。だって「文学小説」なのですから。
なぜ文学小説は面白くないのか
そこで改めて「文学小説」の定義を示します。
読み手を「面白がらせる小説」ではない小説が「文学小説」なのです。
なぜ「読み手を面白がらせない小説」が「文学小説」と呼ばれるのでしょうか。
それは「人間や社会の本質を追求して考えさせてくれる」のが「文学小説」だとされているからです。文壇ではそう定義されています。
そこに「ワクワク・ハラハラ・ドキドキ」といった要素を持ち込むのは邪道である。
そう「文壇で権威のある人たち」が思っているから「文学小説」は「面白くない」のです。
「考えさせる」小説が求められるから「面白い」なんて関係ないと思われています。
商業的に見て
「文学小説」は商業的に見てかなり厳しいのが現状です。通常は数千部売れればいいほうだと言われています。
「芥川賞」「直木賞」を受賞すれば数十万部が出荷されていきます。そうなればじゅうぶん利益が出せてはいるのです。
ですが同じ書き手が二作目・三作目と刊行していくのはかなりの時間待たされます。それは出版各社が抱える書き手の数が多すぎるからです。
そして出版不況によって出版各社には経済的な体力がありません。
「お抱えの書き手を食わせていく」ことが必須であるため、一人の作家がいくら大ヒットを飛ばしても次作の出版権利は数年待たなければなりません。
書き手によっては複数の出版社と契約して年に数作発刊していく作家もいます。
そのくらい「文学小説」の書き手は商業的に見て台所事情が苦しいのです。
それに比べて「大衆小説」は大ヒットを出した書き手が優先して出版権利を確保できます。
書き手の意欲次第で年に三、四冊は発刊できます。
しかしヒットを飛ばせなくなった書き手はすぐ契約を解除されてしまうのも「大衆小説」の世界だと思ってください。
つまり「売れ続けるかぎりはいくらでも出させてくれるが、売れなくなったらすぐに切り捨てられる」わけです。
西村京太郎氏や田中芳樹氏や冲方丁氏や西尾維新氏などは書けば書くだけ売れていきますから、新作が途切れることなく出版されていきますよね。
これが「ライトノベル」となればさらに異彩を放つのです。
現在「ライトノベル」は出版各社の大賞にノミネートされるか、小説投稿サイトで話題になっているかした書き手に出版のオファーが来ます。
そこから担当編集さんと二人三脚で作品を完成させ、出版まで漕ぎ着けるのだそうです。
「ライトノベル」は中高生以上が主要ターゲット層であるため商業的にヒットの見込みが立てやすい。(現在は中年男性がターゲットなのでさらに経済的な支えがあります)。
とくに小説投稿サイト発の作品は売上見通しが立てやすいのです。
ターゲット層はすぐに成長していってしまうので、年に三、四冊のペースで新刊を出していかなければ販売機会を失ってしまいます。
そのつもりで書き手が続刊を書き続けるよう担当編集さんが張りつくのです。
そして売れているかぎりはその続刊を矢継ぎ早に投入して利益を確保していきます。
売れなくなったら早々に「連載を終わらせてくれ」と言われて強制的に「連載終了」です。
しかし一発大当たりを出せばアニメ化・マンガ化・ドラマ化などのメディアミックス戦略を立てやすいのも「ライトノベル」の特徴でしょう。
そのときの波及効果を考えれば「芥川賞」「直木賞」を狙うよりも簡単に儲けを出せます。
商業的に見て出版各社の利益を最も安定させるのが「ライトノベル」なのです。
だから近年多くの出版社が「ライトノベル」市場に参入してきました。そのため飽和しているはずの市場なのに撤退するレーベルが少ないのも「ライトノベル」市場の特徴です。
いずれに挑戦すべきか
「文学小説」「大衆小説」「ライトノベル」にはそれぞれに特徴があります。
宝くじのように「大賞が獲れれば大儲けで文壇に名が残る」のが「文学小説」。
「読者が買ってくれれば大儲けで名が知れる」のが「大衆小説」。
「売れるうちに売れるだけ売れ」なのが「ライトノベル」です。
いずれに挑戦するべきかは、その人の嗜好によって決めるべきですが、執筆速度でも選ぶべきでしょう。
筆の遅い書き手が「ライトノベル」に進出しても、毎月百冊ほどの新作が出版される「ライトノベル」市場では読み手に存在を忘れられてしまいます。
それでも一年に一冊は出せるのなら「大衆小説」を選びましょう。
二、三年はかかると思うのでしたら「文学小説」で一発逆転の大バクチに出てください。
最後に
今回は「文学小説」「大衆小説」「ライトノベル」の違いについて述べてみました。
「ライトノベル」は当たればすぐにメディアミックス戦略が組めるため、出版社は費用の回収と利益の積み上げが容易になります。書き手も原作者として原作小説の印税が見込めます。(原作使用料は微々たるものです)。
「芥川賞」「直木賞」を狙わずとも同等の収益を上げることも可能なのです。
あとは書き手であるあなたの心構えひとつです。
いずれかに狙いを定めてオリジナル作品を書きまくりましょう。
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