28. :出来事に付いて回る「なぜ」

 主人公は「出来事イベント」を経験して良くも悪くも成長していきます。

 今回はそこに絡む「なぜ」についてのお話です。

 書き手は「伏せておきたい」と思いますが、読み手はどう思っているのでしょうか。





出来事イベントに付いて回る「なぜ」


 「主人公がどうなりたい」から始まって「出来事イベント」の積み重ねを経て成長し「主人公がどうなった」かを見せるのが小説です。


 最初の「どうなりたい」と最後の「どうなった」が同一である必要はありません。違っているくらいがちょうどよいとも言えます。


 さすがに百八十度真逆を行くのは読み手を置いてけぼりにしてしまうので注意してください。



 主人公の前に立ちはだかる「出来事イベント」には必ず「なぜ」が付いて回ります。

 「なぜ出来事イベントを起こしたのか」または「なぜ出来事イベントが起きたのか」。

 あなたは小説でそれをきちんと説明していますか。


 書き手はのちのちを考えて伏せておきたいものです。

 でも読み手はどう思っているのでしょうか。


 その「なぜ」が知りたくてたまりません。

 書き手から提示されないと、読み手が勝手に想像して「なぜ」の答えを考え出そうとします。

 その結果読み手の考えた答えが書き手の思い描いている答えと違っていたら。


 たいていの書き手は「出来事イベント」だけを起こして読み手が欲する「なぜ」の情報に答えていないのが実情です。





なぜ出来事イベントを起こしたのか

 「なぜ出来事イベントを起こしたのか」のほうは主人公側から出来事を生じさせているので、いくらか説明されていることもあります。

 ですが本当にその理由で主人公が「出来事イベントを起こした」のかについて答えていない作品が多いのです。

 そういう書き手は佳境クライマックスに到達してから「実は多重人格で」とか「世界を脅かしていたのは実は主人公のほうで」とかを明かし始めます。


「ちょっと待って。ここまで読んできたけど、そんな真相の欠片はひとつも目にしてこなかったけど」

 読み手がそう怒りたくなる小説が実に多いのです。


 主人公側から「出来事イベントを起こした」のなら主人公が「なぜ出来事イベントを起こした」のか、書き手は読み手にきちんと事情を説明する「義務」があります。

 これを明かさずに小説を書き続けていこうとすると、読み手は「なにを書こうとしているのか、何を書きたいのかさっぱりわからない」と思うのです。これでは読み手がどんどん離れていってしまいます。




主人公の心は読み手の心とつながっている

 読み手は主人公に感情移入して「疑似体験」するために小説を読んでいます。

 なのに肝心の主人公の本心がわからない。

 これでどこまで読み手を深く感情移入させられるとお思いですか。


 主人公の心は読み手の心とつながっています。

 読み手としては主人公の心の内を「何も隠さず」すべて書いてほしいのです。

 なればこそ読み手は主人公に、より深く感情移入できます。

 没入すればするほど主人公に愛着が湧いてくるのです。


 どうしても隠しておきたいものがある。

 それが小説の根底に流れる最重要なことなんだ。


 書き手がそう思うのでしたら、主人公の心からそういったものをいっさい無くして「まったく知らない」状態にしてください。


 主人公が心の底から「知らない」と言っているのですから、読み手も「知らない」状態を共有できます。

 そして物語が佳境クライマックスを迎えたとき、それまで「出来事イベントを起こして」いた「なぜ」が明かされるのです。


 知らなかった主人公も驚きますし、シンクロして読み手も驚きます。

 没入していなければこうはなりません。


 しかしそのような「なぜ」の答えは本当に物語の根幹を担っていますか。

 そう考えれば、やはり「なぜ出来事イベントを起こしたのか」を主人公が明らかにすることに理がありますよね。





なぜ出来事イベントが起きたのか

 では「なぜ出来事イベントが起きたのか」のほうはどうでしょうか。

 主人公が出来事イベントに巻き込まれるタイプです。


 「出来事イベントが起きた」の「なぜ」は主人公にはわからないから読み手も知る必要がない。

 だから「なぜ」を書く必要がない、というわけにはいきません。


 読み手は主人公の心に没入していますが、読み手自身のことのように主人公の心配もまたしています。

 そこで本来「主人公にはわからない」情報でも読み手に開示してみましょう。


 するとどうなるか。

 主人公の知らない情報を読み手が得たことで「主人公! これはヤツの仕業よ! 早く気づいて!」とハラハラ・ドキドキしてきます。「お願い、早く気づいて!」と思いながら主人公の行動を見つめていく。

 没入しているから、よりいっそう心配してしまうのです。

 もう気になって気になって仕方がない。


 読み手が主人公でもありその親でもあるかのように思えてくる。

 より主人公に愛着が湧いてきます。

 利用しない手はないですよね。

 こういった構造を「秘密の共有」と言います。主人公にはわからない「秘密」を読み手と語り手が共有するという意味です。





「なぜ」は積極的に明かすべき

 ということで「起こした」にしろ「起きた」にしろ「出来事イベント」に関する「なぜ」は読み手に明かしておいたほうが効果が高いのです。

 佳境クライマックスまで引っ張れる「なぜ」はひとつあるかないかです。

 あまり引っ張りすぎると途中で飽きられます。

 効果が薄れる前に明かしておけば、読み手は没入して「疑似体験」しつつ、そこから「主人公応援モード」が加わっていきます。


 佳境クライマックスで大どんでん返しをしたいからできるだけ謎を残しておきたい、と考えていると連載が続くごとに読み手が減っていきます。

 ところどころで謎を明かしながら進めていきましょう。


 読み手は「この『なぜ』はいつ明かしてくれるかな」と期待しながら読み進めてくれるようになります。

 そうしておいてまた新たな「なぜ」を作っていけば数珠つなぎに「なぜ」が連鎖していき、不自然でない長期連載も可能になるのです。


 そこまで計算して書けば、あなたの小説もよりさらにワクワク・ハラハラ・ドキドキするものになるでしょう。





最後に

 今回は「出来事イベントに付いて回る『なぜ』」について述べました。

 出来事には理由があります。

 その理由を明らかにしないと、読み手の読後感は低くなるのです。


 「続きが読みたくなる」小説は、しっかりとその理由「なぜ」に答えています。

 あなたの書く小説でも、積極的に「なぜ」を明かしていきましょう。


 でも物語を推進させる力になっている「なぜ」の扱いには細心の注意を払ってください。


 最悪読み手の興味が切れるか、完全なネタバラシになるかしてしまいます。


 譲れない一線以外はすべてオープンにしていきましょう。



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