22. :読み手が求めるもの

 読み手は何を求めて小説を読み、そして買うのでしょうか。


 本来小説は書き手が自由に書いてよいものです。

 でも自由に書いた小説が読み手から高い評価を得られることは稀でしょう。

 試しにあなたが今まで自由に書いた小説で、読み手から高評価を得られた作品はありますか。


 読み手がいるから小説は読まれ、そして買われていきます。

 そこで「読み手が求めるもの」を明らかにすればミスマッチも防げるのではないでしょうか。





読み手が求めるもの


 小説は自由です。なんでも自由に書いてよい。でも本当になんでも自由に書いてよいのでしょうか。

 書き手は小説で本当になんでも書けてしまいます。書けてしまいすぎて書きすぎるくらいに。


 でも立ち止まって考えてみましょう。

 あなたが小説を書こうとしている目的はなんですか。

 最終的には「小説を書いてお金を得る」ではないでしょうか。


 そのために必要なのは「小説が出版社を経て紙の書籍になる」ことです。(最近では電子書籍もありますが)(2022年では「カクヨムロイヤルティプログラム」でPVの広告収入を還元するものもあります)。

 同人誌なら自費で印刷して即売会で売る手もあります。


 商業にしろ同人誌にしろ、あなたの小説を買ってくれる読み手がいなければ、いくら書いて刷ってもお金にはなりません。


 読み手が買ってくれる小説を書く。

 これが書き手が負う最大の責務です。買ってくれなければお金にはなりませんからね。





一生には限りがある

 人間の一生は短いです。

 八〇歳まで生きるとして、人間には二万九二一九日しかありません。

 これは七〇万一二六〇時間であり、四二〇七万五六四八分、二五億二四五三万八八八〇秒です。

 そのうち三分の一は寝ていますし、三分の一は仕事や勉強をしています。

 さらに移動もあるし食事やトイレやお風呂にも時間を費やすため、一日で自由になる時間はほんのわずかです。


 その貴重な時間を割いてあなたは小説を書いていますし、読み手は小説を読みます。

 なんの得にもならないことに使ってしまうのは実に惜しいですよね。





読み手が買いたい小説とは

 小説を書く人は「自分の創った物語を誰かに読んでもらいたい」とつねに思っています。

 その結果として「お金を稼げればいいな」とも思うのです。

 書き手が小説でお金を稼ぐためには、その小説を読み手が買ってくれなければなりません。


 では「読み手が買いたい小説」とはなんでしょうか。

 これを考えておくことは書き手の将来を左右します。


 プロの文筆家になるか同人作家になるかただ趣味で誰にも読まれない小説を書くか。そのいずれか。(今は「カクヨムロイヤルティプログラム」でこう聞く収入をリワードとして還元してくれますが)。


 端的に言えば「読み手が買いたい小説」とは「先が気になる小説」です。


 読み手は書店であなたの小説を選び、まず冒頭部分を試し読みします。

 ここでどれだけ読み手の心を掴み「先が気になる」と思わせられるか。

 これがとても重要です。


 第一印象の悪い小説なのにそれを買って読み進めようと思う読み手はまずいません。いたらかなり奇特な方です。

 お金と時間のムダを承知で買ってくれるわけですから。


「周囲で話題になっている」から買ってくれる読み手も存在します。

 でもそれは「他の読み手が『いい小説だ』と勧めてくれたから」買っているのです。他の読み手を満足させられないのに特定の読み手を満足させるなどできやしません。

 読み手は幾千万もいます。そのうちのひとりに買ってもらえればいいわけではありません。





先が気になる小説とは

 読み手が買いたくなる「先が気になる小説」はどういうものでしょうか。


 主人公が自分に似ている、主人公に憧れる、好きなタイプのキャラが出てくる、舞台設定が好みだなどいろいろありますよね。


 小説の冒頭で以上のいずれかひとつでも読み手の心を掴むことができたら。

 「先が気になる小説」になります。

 そのためには「書き出し」が重要です。

 「書き出し」についてはコラムNo.19「書き出しと風景描写」の回で書き及んでいますので、未読でしたらぜひお読みくださいませ。





主人公がこうなりたいと思っていることを書く

 読み手をぐいぐいと小説世界に引き込みたいなら「読み手が欲している情報」を必ず書きましょう。

 ある程度書き足りなくても「想像でどうにかなる」とは思わないでください。


 情報が不足していると、読み手は自分なりに想像して解釈することになります。

 かなり煩わしい作業です。これが続くと読み続けていられないほどに。


 読み手を惹きつける書き手の小説は、必ず「読み手が欲している情報」を余さず書き記しています。

 とくに冒頭で「主人公がこうなりたい」と思うものを明確に提示しています。

 そして「主人公がどうなった」かを書くのが小説です。


 冒頭で「主人公がこうなりたい」と思っていることと「主人公がどうなった」とは異なっていてかまいません。

 一致すれば大団円ですし、異なっていても読み手の意表を突いた終わり方ができます。



 とにかく冒頭で「主人公がこうなりたい」と思うものを明確に提示しましょう。

 「強いやつに勝ちたい」とか「海賊王になりたい」とか「意中の異性をものにしたい」とか。いろいろ考えられますよね。


 この「主人公がこうなりたい」こそ「読み手が欲している情報」の最たるものです。

 読み手は「主人公がこうなりたい」と思っていることを前提として小説を読み始めます。





読み手が欲している情報のみを書く

 読み手は意外と心が狭いです。


 「主人公がこうなりたい」と思っていることに関係する文章はスラスラと読んでくれます。

 関係ない文章が出てくるとそこを読み飛ばします。たとえ詳細に書かれていたとしてもです。


 よって読み手が要求する文章が続いていれば「深く読み込める小説」だと認識してくれます。かなりの高評価を得られるのです。


 しかし読み手が欲しない文章が続いてしまうと「内容の薄い小説」だと判断されます。

 そう思われたら最後、もうその小説は読まれなくなるのです。


 いかに「書き出し」を工夫して読み手の購買心に火をつけても「内容の薄い小説」と断じたら、読み手はもう二度とその書き手の小説は買いません。

 時間とお金のムダですからね。


 読み手が欲している情報つまり「主人公がこうなりたい」という目標に関係する文章以外は蛇足でしかありません。


 とくに速読ができる読み手は会話文を中心に読みつつ、地の文の漢字を拾って場面シーンのイメージにつなげています。つまり地の文は会話文を補う情報以外を求めていません。

 地の文をいかに巧みに書いたとしても、速読ができる読み手はそこを読まないのです。


 物語には主人公が「なぜそうなりたいのか」「そうなるために何を克服しなければならないのか」「そうなるために犠牲にしなければならないものは」といった情報が不可欠なのです。



 人は理由もなしに行動することはまずありません。

 「主人公がこうなりたい」と思う動機がないのに物語を進められるはずもないのです。


 小説全体は「主人公がどうなった」かに向けて書きます。

 その対として「書き出し」で「主人公はこうなりたい」を書くのです。


 これが面白そうだと思えば、多少文章が拙くても読み手は興味を持ってくれます。試し読みをさらに続ける意欲が湧くのです。

 そして書かれている文章がまさに「なぜそうなりたいのか」「そうなるために何を克服しなければならないのか」「そうなるために犠牲にしなければならないものは」といった情報に満ちていたら。


 その情報がさらに読み手の心を捕らえられれば、あなたの小説を間違いなく買ってくれます。仮に読み手の心を捕らえられなくても、その一本だけで「書き手切り」はしません。


 別のシリーズを書いたとき、読み手は「今度はどんな物語かな」とまた試し読みしてくれます。小説をお金に変えたければ、読み手に「書き手切り」だけはさせないことです。「書き手切り」されるようになったら、ペンネーム(ハンドルネーム)を変えなければならなくなります。そうなると一から出直しして信用をかちえる必要に迫られるのです。

(「カクヨムロイヤルティプログラム」があるので、余計に「書き手切り」は恐怖の対象になります。できるだけフォロワーを積み上げることが、安定したPVと広告収入が得られるのです。)





最後に

 今回は「読み手が求めるもの」について論じました。


 書き手は「主人公がどうなった」かを伝えるために小説を書きます。

 読み手は「主人公はこうなりたい」という願望が最終的にどうなるのかを期待して小説を読みます。


 書き手と読み手の意識の違いを、書き手は必ず把握しておきましょう。

 結果だけを追い求める小説は性急に過ぎます。


 「主人公はこうなりたい」の観点から小説を書くのです。自ずと読み手が欲する情報を余さず書き記せます。

 書き手の独りよがりにならないよう、読み手の立場から小説を書くクセをつけてください。

 この場面シーンではどんな情報が求められているのか絶えずチェックする。

 不可欠な情報は余さず書き、無関係な情報はひとつ残さず削っていく。


 そういう心構えで書いていれば、あなたの小説は必ず進歩ステップアップしていきますよ。



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