第5話
「はい、これ」
「なんですか?」
白銀の町を歩きながら、彩葉は分厚い本を手渡してきたので、受け取る。
表紙は黒と白のシンプルなもので、題名も書かれていない。見た目だけではいまいち内容がつかめないので、まずはめくってみる。
中身に目を通すより先に、となりにいる彩葉が説明を始めた。
「それはね、勇者と魔王の物語のベースなのよ」
「実在してたんですか?」
「当たり前よ。これだけ多くの人に親しまれたものだもの」
「そういうものなんですか」
とはいえ、オリジナルの劇というほうが珍しいくらいだ。この間見た舞台も面白かったし、原作が存在してもおかしくない。元より真白はオリジナルの舞台には全く期待しておらず、つまらないと感じるタイプだった。したがって、多少なりとも楽しめた魔王と勇者の物語には、基となった話があると見て、間違いはない。
ひとまず、ペラペラとページをめくる。斜め読みしてみたものの、うまく文章が頭に入ってこない。文章自体は何語か分からないなりに、スイスイ頭に入ってくる。書かれている内容は分かるのに、置いてけぼりを食らったような気分で、ついていけない。
「要約すると、勇者と魔王の悲劇の恋よ。相思相愛の二人は、立場の違いから殺し合うことになるってわけなの」
「それは知ってますけど、つまり、こうですか? 今回のイベントでは物語を再現するもよし、原作とは異なる結末を迎えても構わないという」
「さあね。くわしくは分からないけれど、自由というのは確かなんじゃない」
ふーんと内心でつぶやきつつ、前を向く。すっかり原作を読む気は失せていた。
「中央へも行けたら面白いことになりそうなのにね」
不意に彩葉がそんなことをつぶやいた。
「中央?」
「そうよ。地図を見せたでしょう。私たちの国はね、東西南北に分かれていて、庶民はそこに暮らしているの。ごく一部の選ばれた者・もしくは最初から住んでいた人だけが入れるのが、中央なの。東から入れるのだけど、基本的に関係を遮断しているから、難しいのよね」
「ちなみに彩葉は、入ったことは?」
「あるわよ」
当然のように答えられて、少しばかり気が抜ける。だけど、花咲彩葉のような大女優にとっては選ばれし者に該当するくらい、造作もないのだろう。一般人の十倍くらいの年収を誇っていそうだし、納得できなくもない。
「って、あら? 解放されてるわね?」
「なにがですか?」
「地図を見て。ほら、なにか気づかない?」
タブレットを突きつけられる。
液晶に地図が大きく映っている。四つに分かれた地方と中央にある丸いエリアも視界に飛び込む。その、前者と後者を隔てているはずの壁の一部が取り払われていた。
「つまり、中央にも参加者はいるということにならない?」
「え、まあ」
よく分からないが、間違っていはいないだろうと確認しつつ、控えめにうなずく。
「中央に行ってみない?」
「え、いいんですか?」
「解放されているのだもの。行ってみる価値はあるわ」
自分は選ばれし者ではないという自覚があるため、躊躇(ちゅうちょ)する。
「でも、変ね。中央の門って、国王の許可がなければ開かない仕様になってるのよ。いくらイベントのためといっても、そんなことをするのかしら?」
「どういうことですか? くわしく」
「えっとね。中央にはいちおう表向きの王様がいるのよ。周囲との壁を作ったのは、彼のせいだから、その彼が許可しない限り、開かないってわけ」
「なるほど。でも、さすがにイベントだから、気を利かしたんじゃないですか? そうでなければ、参加者も楽しめませんし」
なんとなく予想を口にしてみたけれど、彩葉は表情を曇らせたまま首を傾げる。
「だとしてもあっさりと解除するとは思えないの。ほら、あの人って頑固だから、自分が間違っていたとしても、貫き通す人なのよ」
へー、と興味のなさそうな顔で、真白はぽかんと口を開く。
「まあ、あなたには関係のない話だから、聞き流して」
彼女にそうと言われたからには、受け入れよう。彼は先ほどの話は聞かなかったことにした。
それから二人は前へ進むことに集中して、東を目指す。いくら門が開いているとはいえ、その門が東の地区にしかないため、中央に入るにはそちらを経由する必要があった。
長い坂道を上って、川にかかる橋を渡る。青黒い山にかかる雪を眺めながら、ちょっとした観光気分で足を動かす。できるのなら写真にして保存したい光景もあったが、生憎(あいにく)と現在は持ち合わせていない。田舎とはいえ、雪は珍しくて見どころはある。流れる川の水もきれいだし、飲んでみたい気もした。水道の水もおいしかったし、川の水もきっと清らかな味がするのだろうと予想できる。
「見つけたわよ」
そのとき、殺気だった声が前方から響く。
ゆるくなっていた雰囲気が一気に引き締まって、真白も背筋を正す。歩いていた足を止めて、真っすぐに前方を見つめる。山のように長い坂道の頂点に、水色の巻き毛を持った女性が仁王立ちしていた。つり上がった緑色の瞳には明確な敵意を感じる。刺々しいラズベリー色のインナーを隠すように、優雅な孔雀色のロングコートをはおって、足にはチョコレート色のブーツをはいていた。目は赤く充血していて、なにが彼女をそこまで駆り立てるのかよく分からない。
「だいたいの予想はつくけど、あんたはどの役職についたわけ? さっさと教えなさいよ」
腕を組んで上から目線に尋ねられて、真白は動揺を見せる。もっとも、質問を繰り出された先は彼ではなく、となりにいる彩葉だ。平凡で冴えない見た目をした少年の姿は、相手の視界にすら入っていない。
「私? ただの協力者よ」
素直に答えると、途端に女性――龍神ミドリはよろける。
「はあ? 嘘でしょ。あんたが勇者もしくは聖女でないとしたら、いったい誰が?」
「勇者なら、ここにいる彼よ」
声を荒げて狼狽(ろうばい)する彼女へ向かって、彩葉はあっさりと言い放つ。
緑色の瞳の、怒気のこもった視線が少年を貫く。急に標的が自分へと移ったような気がして、真白は萎縮する。目をつけられたらただでは済まないという感覚があって、怖気づいたように後退る。
「そう、こんなやつが勇者ね。世も末だわ」
「仕方ないじゃない。ランダムで決定するのだもの」
「だからって、こんなやつに勇者役を突きつけるのはおかしいでしょうが。神託というやつなんでしょうが、納得できるはずがないってもんよ」
風に吹かれて、水色の巻き毛が荒ぶっている。
イラ立って仕方がないというように足で地面をたたくと、ヒールの音があたりに響く。
「つぶしてやるわ。今、ここで」
眉間にシワを寄せて、眉と目をつり上げる。
濃いメイクも相まって、こちらを射殺そうとする彼女の顔は、たいへん威圧的だ。鬼気迫ってもいて、なにをしでかすか分からない勢いでもある。一刻も早く逃げなければ、命が危ない。真白はダラダラと汗をかきながら、逃げ出す機会をうかがう。現状、口を開けばその唇ごと斬られるのではないかと感じるし、身動きすらできずにいる。
「待って。あなたの役職は? それによっては展開も変わるでしょう?」
「は。魔王軍の一味よ。そっちが世界の平和を守る勇者一行、こっちは敵。おかしいとは思わない? まあ、これであんたらをつぶす口実ができたってことだし、さっさとひれ伏しなさい」
朱色の唇がつり上がって、目を大きく見開いた彼女は、片手を前に出して指を広げる。
「ちょ、まさか。こんなところで……!」
「いいじゃない。あんたらを全滅させてしまえば、目撃者はいなくなる。いくら人に見られるリスクを負ったところで、潰してしまえばいいだけよ」
キョロキョロと首を動かしながら説得するように訴える少年の意見を、前方にいる女性は鼻で笑う。
いま一度、緑色の瞳の中心に存在する縦長の瞳孔を視界に入れる。いつ見ても、人間離れした目だ。やはり、彼女は魔性の類なのだろうか。たいへん現実離れした発想ではあるものの、なにやら様子が変だ。今あるこの世界がアニメやゲームの中のようなところだとしたら、人間以外の種族がいてもおかしくはない。
彼女がなにをするのかは分からないが、ろくなことをしないであることは、予想がつく。なんとしてでも、相手が攻撃に転ずる前に逃げなければならない。
同じ場所に留まっていることすらできそうになくて、落ち着かない気持ちでいる少年に対して、となりにいる少女は冷静だ。全てを受け入れる気でいるのか、それでもうまく逃れられる算段があるのか、なんの崩れのない端正な顔と表情のまま、相手を見据えている。
「今は無理よ。私が死ぬときではないもの」
「抜かしなさい。そうやって、自分のほうが上と主張する気?」
冷めた目をする少女とは対照的に、女性は甲高い声で叫ぶ。その様子は相手の意見を全く聞き入れる気はなさそうで、話し合いも通用しないようにも見えた。
「そうじゃないの」
彩葉は首を横に振る。オパール色のさらっとした髪も揺れて、背中にかかった。
「今は死なない。そう、決定づけられているだけなのよ」
青白磁の空を背景に、涼しげに答える。
一方で、怒りが頂点に達したのか、相手は顔を真っ赤にする。一度前に出した手を握って拳を作って、また広げた。今度はより力強く、なにか見えないものをつかもうとするかのように、勢いにまかせて。
刹那(せつな)、コートの裾から細長い物体が大量に飛び出す。最初はそれがなんなのか理解できなかったけれど、物体に存在する瞳と縦長の瞳孔を見て、蛇だと認識する。蛇は大きな口を開けて、一人の少女を狙う。
危ない! と、叫ぼうとした。とっさにかばって、助けようともした。
けれども、少年の心配は杞憂(きゆう)に終わる。なぜなら、蛇が突撃し、襲おうとした直前に、攻撃が見えないバリアによって弾かれたからだ。
なにが起きているのか、分からなかった。
少女がなにをしたのかすらも。
それは相手も同じようで、赤く充血した目を大きく見開いて、ショックを受けたように腕を下ろす。するすると蛇が引いて、なにごともなかったかのように消失する。
「あんたいったい、なによ。どんなトリックを使った? 潔く、白状しなさい」
「大したことはなにもしてないわ。でも、言った通りよ。私は今は殺せない。つまり、そういうこと」
「分からない。分からないわ。あんたの正体も、なにもかも……!」
女性は情けなく頭を抱えて、うずくまる。そこには舞台に立つ女優としての気迫も、オーラもない。ただ、惨めなだけだ。
自分ではどうにもならないという現実にさらされながらも、彼女はまだ、あきらめない。顔を上げて、刃のような眼光を相手へ向ける。されども、少女の態度も変わらない。肩から力を抜いた体勢で立って、ゆるく髪を耳にかける姿には、余裕がある。そこには普段の弱々しげな雰囲気は、欠片もない。
「やっぱりこうなったか」
そのとき、はるか後方でニヒルな声がした。
売りかえると、下のほうから男性の影が坂を上って、こちらに近づく。清潔感のない、くすんだ服を身に着けた男だ。途中に転がっている石を蹴り飛ばしているところを見る限り、態度も悪い。体自体は真白よりは鍛えているようだが、不健康そうな見た目をしている。顔面には胡散臭い笑みを張り付けているし、どことなく退廃的な雰囲気も感じた。
「相変わらずのようだな、龍神ミドリ。そっちのお嬢ちゃんと比べりゃ、嫉妬(しっと)すらする必要がないくらい、差が離れてるっていうのにな」
醜悪な声に、坂の上にいる女性は両手をさする。彼女の皮膚には鳥肌が浮かぶ。それを鎮めるように後ずさりして、生理的に受け付けないというように眉をひそめる。
「あんたみたいなやつ、よくもノコノコと人前に出てきたものね。恥を知りなさい」
「おいおい、ひでぇ言い方だな。お前も俺と大差ねぇだろ。今まさに、人を殺そうとしていたんだからな」
顎(あご)を引いて、軽蔑の眼差しを向ける女性へ、男はふてぶてしく言葉を返す。
「不細工が。ああ、お前はとんでもない愚(おろ)か者だ。そのイミテーションの宝石はなんだ? それで、着飾ったつもりか? んなことしようが、お前の価値がさらに下がるだけだっていうのによ」
「な……!」
痛いところを突かれたというように、ミドリは硬直する。
宝石がイミテーションだという事実に、真白は初めて気づく。普段彼女が身につけている蘇芳(すおう)と紫紺の宝石には、今見返すと、確かに違和感がある。色が違うというか、言われてみると確かに価値が低そうだ。龍神ミドリは自分の持っているアクセサリーの価値が低いことに、気づいた上で身につけていたのだろうか。
「最低最悪の人間はとっととトンズラしちまいな。お前みたいな悪魔はこの世に必要ないのさ。自身の容姿や性格にコンプレックスを感じて他人を攻撃する暇があったら、自分を殺しちまえばいい」
「どの口が、私に向かって……!」
「そりゃあ、どうも。俺は確かにろくでなしだ。だが、自分よりも汚いものを見て、それよりはマシだと思いこんでいるようだが、甘いな。俺とお前は大差ないと言っただろ。比較している時点で、同類なのさ」
薄笑いを浮かべる男に対して、彼女はぐぬぬと唇を震わす。
しばらくの間彼女は反論の言葉を探していたようだが、最終的にはあきらめる。
「いいわ。出ていったやろうじゃない。そのかわり、言っておくけど、あんたこそ、さっさとくたばりなさい。そのほうが世の中のためになるわよ」
険しく目を尖らせて、鋭い眼光で相手をにらむ。
しかれども、明らかに悪そうな顔をした男性は気にも止めずに、薄笑いを浮かべるだけだ。
それからミドリは去って、坂の中腹あたりに、真白たちは残された。先ほどのやり取りを傍観していたこともあって、気まずい雰囲気だ。なにより、近くにいる男性が得体が知れなくて、どうにも信用ができない。
真白が警戒を解けずにいると、急に彩葉が動き出す。
「あなた、もしかして、私を助けてくれたの?」
不潔な外見をした男性の手を迷わず取ると、彼女は相手の目をしっかりと見て、話しかける。
「お礼を言いたいわ。彼女を追い払うなんて、すごいことをしたのね」
「別に大したことじゃないよ、お嬢ちゃん。あの女はメンタルが弱い。砂みてぇにあっさりと崩れちまうのさ。そこを突けばいい」
「なるほど。でも、あまりいじめすぎるのもよくないと思うわ。私、彼女のことは嫌っていないもの」
「そうかい。俺にとっちゃ、どうでもいいが。わざわざあの女によくしようとは思わんしな」
目の前に絶世の美少女がいるにも関わらず、無反応な男性の精神はどうなっているのだろうか。通常であれば邪な感情の一つは表に出てきそうなものだが、冷静なままだ。
「とりあえず、お礼でもしたんだろ? だったら、簡単だ。俺に金一封を渡しな」
やはり、よからぬことを考えていた。
もしも、色香に惑わされない体質だとしたら褒めてもよかったところだが、それとは別に金の亡者であるのなら、前言撤回をする。
「ああ、それはいけないわ。別にあげてしまったもいいけれど、それであなたが調子に乗るといけないもの」
「へー、そうかい。利口なこって」
柔和な笑みを浮かべて答えを返す少女は、特に気を害した様子はない。相手のほうもがっかりしたという態度ではなく、力の抜けた声で話をしている。
「ところであなた、役職は? もしかして、協力者? そのためにこちらに接近してきたの?」
「ああ、そうだ。ったく、世も末だせ。俺のような人間が正義のヒーローのお供だとはな」
チラリと、こちらへ視線が向く。
「ちなみに俺の名は涅(くろつち)影丸だ。名字の漢字はPCじゃ変換できないが、涅色っていうだろ? 川底にたまる泥って意味だそうだ。まあ、適当に呼んでくれや」
彼の影のある顔を視界に入れると、身が縮む。この、明らかに怪しい人間と一緒に行動をすれと言っているのだろうか。嫌な予感しかしなくて、動揺してしまう。なにしろ、相手は普通の人間ではなさそうだし、下手をすると犯罪者の可能性がある。
「えっと、その……本当に?」
「そうみたい。だから、これからは彼と一緒に物語を進めましょう」
彩葉があっさりと答えを出すから、少年は落胆してしまう。
とはいえ、彼女がそう言うのだから仕方がない。真白は運命を受け入れて、従うことにした。
「んで、お前らはどこへ行くつもりだ?」
「いまのところは東よ。でも、物語の通りに進める方法がよく分からないのよ」
「それなら簡単だ。敵を倒せばいい。悲恋だなんだはこのさいどうでもいい。魔王を倒して話は終了。それだけだ」
「それはちょっと、味がないわね」
彩葉が顔をしかめる。真白も彼女に同意するように、何度もうなずく。
「どうせなら、もっとドラマチックな展開にしたいじゃない」
「台本があれば話は別だがな。今回はそれがない」
それは確かに。口には到底出せそうにないので、心の中で同意する。
今のところ、真白は会話に加わろうとは思ってはいるものの、割り込む勇気が出ずにただの背景と化している。いずれは存在自体が薄れて消えてしまうのではないかと思うほどの空気だ。できれば友達も作りたいし仲良くやっていきたいところだが、どうしてもコミュニケーション能力が欠けている。たとえ話せたとしても、会話が続き自信がない。彼としても、二人の会話を眺めているほうが気が楽だった。
以降の道程は順調だ。今のところは和やかにやっていけている。真白が口を挟まなかったというのもあるが、少なくとも敵意を向けられてはいない。このまま仲良くはいかずとも、平穏にことが運んでいかないものなのだろうか。
いちおう、敵が現れなかったわけではない。それどころか頻繁に、敵の組織と思しきワッペンをつけた住民が姿を現す。彼らは雪国の寒さにイライラした様子を見せつつも、悪役を演じてくれた。倒れ役もこなして、魔王に関する情報をいくつも落としていく。そのたびに情報は頭を抜けていったけれど、彩葉はきちんとメモを取ってくれていたようだ。
「えーと、魔王のスペックは……。素でダイヤモンドのような硬さで、ありとあらゆる者を支配する能力を持っているそうよ。ええ、本当、誰も勝てないというレベルの強さ」
「うわ……明らかな超人じゃないですか。なんですか、ダイヤモンドの硬度って」
実際に対面したときの情景を思い浮かべて、真白は顔をしかめる。
「だいたいは原作の設定のコピーペーストだろうが。くだらねぇ。実際は違うだろ。少なくともダイヤモンドの硬さはない」
「まあ、人間ならありえないわ。だけど、これくらい盛ったほうが物語的には面白くなるんじゃない?」
「いや、勘弁してほしいんですけど。勝てる気がしませんよ。もしかして、全部僕が倒す必要があるんですか?」
現在、勇者役を押しつけられた少年は気が気ではなかった。
なお、彩葉は相変わらずゆったりとした態度で、明るく答える。
「普通ならきっちり倒されてくれるわ。だから安心して。本気で戦うわけではないのだから」
それは分かっている。あと、それはそれで問題がある。どうにも今回の旅は茶番にしか思えない。全てがやらせであると考えると、緊張感もなにもあったものではなかった。
とはいえ、ゲームのクリアに限って言うと心配することはなにもないだろう。仲間も増えたし、順調だ。あとは、魔王の居場所を突き止めるだけだ。
そう思ったとき、ちょうど前方に森が見えてくる。あれは、東と北を隔てる壁のようなものだ。引き返そうかと思ったのだが、ここまできてしまったからには進むしかないだろう。なにより、普段利用していた橋が破壊されていると聞く。仕方がないため、東へ進むためにはこちらを通るしかなくなった。
森に入る。涼やかな空気を肌に感じる。これぞ、森林浴というものか。
そうした中、霧が立ち込めてくる。周りが見えない。気がつくと、真白は一人になっていた。途端に彼の心はどよめく。急に心細くなった。先ほどまで明るい雰囲気だったにも関わらず、急に暗雲が立ち込めてくる。
真白は彼らの姿を探す。森をさまよいながら、引き返そうとする。されども、道に迷って、自分がどこにいるのかが分からない。これでは、合流するよりも先に森の中で野垂れ死ぬ。少年はタブレットを取り出して、液晶の中で地図を開く。現在地は確認した。かといっって、相手の姿の捜索は困難を極める。結局、仲間を発見できないまま、夜になった。
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