第5話 きみに会うための440円

 君に会わせる顔がない



 駅に飾られていた絵のタイトルだ。合わせる顔がない、君に直接顔を合わせて会うことができない。その君に対していったい何をしてしまったのか考えてしまう。とてもじゃないが会えない、目をそむけたい、恥ずかしい気持ちが現れている。なんとなく見ているこっちも見ていられなくなる絵だ。特徴的な薄気味悪い目もそれを表している。



 ◯◯◯



 僕は別に彼女が好きだったわけじゃないんだ。偶然見てしまった彼女のらくがき。当時の僕には衝撃的だった。純粋に人には裏の顔があるんだなあと彼女に興味をもった。その日も友だちと笑いながらお弁当を食べている、普通な彼女がひどく別人に見えた。そのことを思い出して、彼女は殻を破ったんだろうなあと思った。同窓会に彼女はいなかった。風のうわさで彼女の名前と絵をかいていると聞いた。それで僕はやっぱり少しくらいはあいたかったのかも知れない。人混みの中、それでも僕にはやっぱり彼女を見つけられなかった。早くここから抜け出そう。



 ◯◯◯



 たまごがある

 日々が割れる

 割ろうとして固くて平らなところに叩きつけている

 食べようとしている

 そんないつもの自分がいる


 ヒビがだんだんと大きくなる

 日々を重ねている

 あの町に行ってみようかなあと思ってから

 まただいぶ時間が過ぎた

 生まれた町でたまごからヒナになって大きくなった

 羽はない

 あっても伸ばせていない

 あの町に行っても何も変わらないことを知っている

 それでもいいのに

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きみに会うための440円 新吉 @bottiti

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