第3話 きみに歌うための440円

 君には歌えない



 ついついお釣りが500円になるように考えてしまう。早く貯金箱をいっぱいにしたくて、給料日はついお札を崩してしまう。これではいけない、貯めたいのに使ってしまう。


 そういえばあの約440円スライサー、けっこう楽しい。ゆでたまごを作りながら、子どもの頃を思い出した。共働きの親を待ちながらゆでたまごやらおにぎりやらをテレビの真似をして作っていた。お姉ちゃんが火傷したっけなあ。最近よく小さい頃の思い出が蘇る。あの頃好きだった歌を歌ったりする。好きだけど音痴だからいつも元気いっぱい歌うともう少し静かにと言われた。


 スライスたまごの子はとはいつもいっしょにいた。ただ一緒にいたくて付いて回っていた。その子は歌より絵が好きで、私とたいてい好きなことが合わなかった。それでもよく一緒にいてくれた。駄菓子屋で買いものをした。公園で遊んだ。折り紙もしたしクリスマスケーキも作った。いつからか遊ばなくなって、私は小学校を転校した。その後の彼女がどうなったかはわからない。


 最近わけもなく泣きそうになる。忙しいからストレス発散のために体が気を利かせてくれているんだろうけど。その子の顔はあいまいでぼやけていて、たいして思い出せない。


 あの町に行ってみようかなあ



 わたしときみは出会った

 わたしときみはちょっと違う

 わたしときみはちょっと同じ

 つらいとき一人きりでいないで

 いっしょになこう

 誰もがどこかにいる

 誰かがとなりにいる



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