第2話 きみが悪いめの440円

 気味が悪いわ、あの目



 なんとなく気持ちが悪くて、僕は絵を見続けることができなかった。


 駅にはたくさんの人がいて、僕ももちろんその中の一人だ。最寄り駅から440円でこの人通りの多い駅になる。僕はたいてい切符を買う。切符は近い将来なくなってしまうのだろうと思うとなんだか悲しくなる。人混みにのまれるのは嫌いだ。好きな人なんていないと思っていたがそんなこともないことを最近知った。人の波にのまれていないと安心できないそうだ。またライブやイベントの波が好きな人もいるらしい。不特定多数が密集して、高いところから見れば行列は一本の蛇のようで。バラバラだとゴミのようで、気味が悪い。

 僕があまり好きではない人混みの中に、しかもこんなに混むと分かっていたのに足を運んだのにはわけがある。この駅に以前仲が良かった子が絵を飾ると聞いたからだ。小学生の頃よく絵が上手くて、賞をもらっていた。あまり派手ではないが友だちも少なくない、優しくて普通の子。風のうわさでここに絵が飾られることを知った。僕には芸術的なものを見る美的センスなんてない。そんなには遠くないし、タダだから見てあげようなんて気持ちでここまで来た。

 絵はたくさんあった。その子の絵はもちろんその中の一つだ。名前は変わっていなくて、名字は変わっていたけれどその子のものだとすぐ分かった。中学校の頃、美術部だった彼女の絵を見たことがあった。


 それとまったく同じ絵だったから

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る