19話

「お姉ちゃん、起きてー」

 いつも通りの茜の声です。


 今日はなんと悲しいことに、引きこもり生活を引退して通常の高校生活に戻ります。茜に怒られた時並みに悲しいです。


 もう家の周りも学校の周りにもマスコミはいなくなりました。そもそも、四日後には完全にマスコミは撤収していましたが念のために一週間引きこもっていました。念のためですよ。


 この時代、情報は鮮度が命です。一週間前のニュースなんて興味持つ人は殆どいません。


 なのでいつも通り家に向かいに来てくれたわかばちゃんと会いました。


「わかばちゃん、おはよう」

「………ゆかちゃん、おはよう」

 わかばちゃんはあくびをしながら挨拶します。

 凄い眠そうで少しふらふら歩いています。


 わかばちゃんのグループピーチは、わかばちゃんのあの格好いい発表がテレビで流されて更にのりに載ってます。怪我の功名ですね。


 ピーチの新曲であるTo the skyは一日のダウンロードランキングで堂々の3位以内を六日くらい連続で取っています。


 そして、次の新曲に向けてわかばちゃんは今必至に練習中なのです。ここ一週間の間ぐうたらしていた私と全然違いますね。


 わかばちゃんにボードゲーム誘っても断られ続けて悲しかったです。


 これから私の肩書きはアイドルピーチのメンバーわかばちゃんの大親友という素晴らしいものになります。誰にでもマウントとれます。なので誰にでもマウントとっていきます。


 というわけ何で、会うのはわかばちゃんと一週間ぶりなのです。

 わかばちゃん成分を補給するために抱きつきたいのですが流石に自重しましょう。また、ネットで炎上は嫌です。


「ゆかちゃん成分補給」

 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、わかばちゃんが抱きついて来ます。

 ということは

「わかばちゃん成分補給」

「「えへへ」」

 癒されます。私の荒んだ心が流されます。


「…いつも通りで大丈夫だよ、ゆかちゃん…。…いつも通りの方が嬉しいな…」

「了解」

 という事で、今日もいつもと変わらない一日が幕を開けるのです。



 となったら良かったんですが。

 そう、私は一週間引きこもりました。ゆかちゃんも学校に迷惑をかけないため、一週間学校に行っていません。まあ、ゆかちゃんの場合はマスコミが離れたのが一昨日くらいだそうです。流石芸能人です。


 私達は何もクラスメイトに説明せずに一週間学校行かなかった訳です。例えニュースで概要が説明されても本人から聞きたくなるのが人のさがです。


 で、結果はご覧の通りクラスメイトに囲まれています。


「わかばちゃん、アイドルやってるんだ」

「わかばちゃん、無茶苦茶可愛い」

「私もわかばちゃんのファンになる」

「わかばちゃん、歌ってよ」

「わかばちゃんとゆかちゃんの二人の恋を私も応援すから」

「恋は障害を乗り越えてこそなんぼだよ」

「お似合いだね」

「結婚式呼んでよ」

「今から、結婚式のリハーサルやる?」


 何で、最初はわかばちゃんのアイドルの応援しようといういい話だったのに、最後には私とわかばちゃんの結婚の話しになるの!


 わかばちゃんは顔を真っ赤にしながらうつ向いて、手を強く握りしめてきているですけど。


「えーと、結婚式は色々と早いかなー」

 訂正しないと不味いです。


「早いってことは」

「まだ、付き合って浅いの?」

「いや…」

「もう、チューしたの?」

「きゃあー」

 女子のクラスメイトは目を生き生きさせながら話し掛けてきます。


 やはり、女の子は恋の話しは全然食い付きかたが違いすぎます。こっちの話しを聞いてくれません。辛いでふ。


 わかばちゃんが注目されている今なら、頓挫したアイドル研究会を作れるかもしれません。


「みんな、アイドル研究会作ったら入らない」

「「「………」」」



「朝礼始めるから席について」

 先生が入ってくる。


 囲んでいた子達は席に戻る。


 悲しい。



「あー、集まると思ったのに」

 わかばちゃんにみんな興味津々だったのにー

「…まあ、また地道に頑張ろうよ…」

「三年生誘うしかないのかな。けど、大学受験にもうそろそろ本腰いれないといけない時期でしょ」

 私とわかばちゃんは昼ご飯中だらだらと喋っています。

 朝礼の時間に先生によって前に立たされて事件の概要をみんなに説明させられたので、もう囲んで来る子はいません。


「えーと、少しいいかな」

 髪を三つ編みにして目がねをかけた。これぞ文学少女といったクラスメイト、ひかりちゃんが話しかけてきます。


「何、ひかりちゃん」

「私、アイドル同好会入るよ」

「本当?」

 私は立ち上がってひかりちゃんの手を掴み胸の前まで持っていく。


「うん」

「これから宜しく」

「…宜しくお願いします…」

 これでメンバーが三人です。

 一歩前進です。


「…後二人と顧問だね…、…顧問が難しそう…」

「だよね。顧問か」

 アイドルオタクの先生なんて聞いたことないからな。先生をドルオタにした方が早い気がします。


「別にわざわざ、学校側から同好会を認めてもらわなくても良いんじゃないですか?」

「…確かに、そうすれ五人集めなくていいですね…」

「ひかりちゃん、わかばちゃん、それは駄目だよ。オタ活するためには部屋がいる。部屋が無いと、誰かに見られてこの人達頭おかしいのではないかと思われるよ」

 そして、クラスの中でたださえ浮いているのにもっと浮くことになってしまう。


 それは駄目です。


「後、部室あった方が部屋でだらだら出来るよ」

「…それが、本音なんじゃ…」

 わかばちゃんが疑いの目でこちらを見てくる。


 ソンナコトナイヨ


「良いですね。だらだら、私も部室があるのは大賛成です」

 何故かひかりちゃんは食い付き気味に言う。


「という事で、顧問とメンバー引き続き探そう」

「「…おー」」

 ひかりちゃんが入ってくれたお陰でなんとなくだけど同好会ぽくなってきた気がする。

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