17話

 家の方にはマスコミの方々が押し掛けて来てなくて気苦労する必要もなく家に入れた。


 マスコミ対応で動画をどうかするか決めていなかったです。


 私は部屋着に着替えて、ソファーに寝そべりとりあえずかなさんとりかさんのチャットを開く。


 "かなさんとりかさんのところにマスコミ来ましたか?"

 "来ましたよぉ。マスコミ対応は思ったよりめんどくさかったですぅ"


 "ひどい目に合いました。あんなに人に囲まれるなんて地獄です。しばらく家から出たくないです"


 りかさんとかなさんの場所にもマスコミ来たのですか、やっぱり動画の影響ですね。近藤さんがけしかけた可能性があったのですが、流石に近藤さんでもマスコミは動かせませんね。


 "りかさん、良く一人で対応出来ましたね。私、茜とわかばちゃんに助けてもらってやっと対応出来ました"

 "ゆかさん、りかは私の後ろに隠れてただけですぅ"

 一人でりかさん庇いながら対応できるかなさんはなにものなんですか。

 かなさん超人説を押していきたいです。


 "そういえばぁ、なんかぁ。つけたバナーで凄いほど儲かってますよぉ"

 "確かに、昼見たとき1000万再生いってましたからね"

 単純計算で0.3倍戻ってくるとして900万円ですか、一人300万円ですかねです。高校生が稼いで良い金額では無い気がします。


 "えっ、これから働かなくていいの?"

 "りかは社会と少しでも関わりをもつためにぃ、働いていた方がいいですぅ。そもそも、そんな大変な仕事じゃないですよねぇ?"

 かなさんってりかさんの仕事内容まで知っているのですか!


 "そうですけど。そうですけど。働きたくないでござる。おっ、テレビでやってますね。かな氏もゆか氏も可愛いく撮れてますね"

 私は急いでテレビをつける。そこには私達を撮った映像が堂々と流れています。


 私のインタビューはまるまるカットされて映像だけです。コメンテーターが私の行動理由をテレビ局の都合が良いように喋ってます。何一つあっていません。


 そのコメンテーター曰く若い子はアイドルになりたいらしいです。そもそも私って精神的には若く無いので当てはまらないですね。


 "私達の写真写すなって言ったのに写ってます"

 "まあ、マスコミですからね"

 "ですねぇ、知り合いの弁護士を紹介しましょうかぁ?多分、マスコミ側はめんどくさいと思ってぇ、泣き寝入りすると考えているのでぇ、鼻面を明かせますよぉ"

 少し、やってみたい。やっぱり、理不尽な大人を倒すという少年の心は忘れてはいけないですね。


 "やった方が良いですかね?"

 "面倒ですからねぇ。私だったらぁ、社会経験のためにやりますかねぇ"


 社会経験ですか、かなさんはしっかりしてます。

 今世では社会とか出たくないので経験はいらないと思います。誰か養ってくれないですかね。


 勿論、私が毎食愛の籠った焼きそばを作ってあげましょう。


 "ゆか氏、ちょっと不味いことになったかもしれない"

 りかさんから匿名掲示板のURLが送られてきた。


 それを開くと私とわかばちゃんが抱きついている写真と今日のマスコミ対応のためにわかばちゃんが私のために壁となっている写真が載っていた。


 そこにはご丁寧にわかばちゃんがアイドルグループピーチのメンバーとして所属していることが書いてあります。


 "百合じゃん"

 "付き合ってんの"

 "不純同性交遊"

 "この女の方、二股かけてるじゃん"

 "友達応援せずに別のアイドル応援するとか最低"

 "これ、絶対やってるでしょ"

 "わかば、女と付き合ってるなんて気持ち悪い"

 "ピーチ内でもこんな感じじゃねぇ"

 付いているコメントには面白がってる発言と悪意のある発言が入り交じっています。

 コメント数は私が見ている間も着々と面白いように増えています。


 "ごめんなさいですぅ、最初に私が楽観視せず消しておけば良かったですぅ"

 "大丈夫です。かなさんのせいじゃないですよ"

 それより、わかばちゃん大丈夫かな?

 私はまあネットの熱が冷めるまで引きこもればいいですかね。あっ、わかばちゃんも誘って二人で一ヶ月くらい怠惰な生活でも送りましょう。


 暇潰しのボードゲームは家に大量に有りますし、わかばちゃんと喋っていても楽しいですから。


 テレビでは、アイドルピーチのメンバーであるわかばに熱愛発生?お相手は同級生の美少女?というテロップで繰り返し報道されていた。


 side 平石わかば


 "匿名掲示板見た? ごめんね。私のせいでわかばちゃんのアイドル活動に影響を与えちゃってごめんね"

 "大丈夫だよ"

 ゆかちゃんの謝罪メールをなるべく罪悪感を与えないようにそっけなく返す。


 "だから、一緒に引きこもらない?"

 "ごめんなさい"

 凄いその申し出を受けたいけど。受けれない…


 匿名掲示板に載せられた私とゆかちゃんの写真は瞬く間にネットの海に拡散され、勿論、ピーチのファンも知ることになった。


 今現在事務所には、説明を求める電話や罵倒の電話、少々の何故か分からないが祝福の電話がひっきりなしにかかってきているらしい。


 大手事務所のため私達が電話をとる訳じゃないので、実際にどの程度の電話がかかっているのかは分からない。


「ごめんなさい」

 私はさゆりと花に謝る。


 私のせいでこれから上に上がれるグループであるピーチを潰してしまうかもしれないのです。


 今まで頑張ってきたさゆりと花に凄い申し訳ない。


 確かに私のアイドル活動はゆかちゃんに楽しんでもらえば良いと思ってた。けど、私のせいでさゆりと花の有名アイドルになるとう夢が潰えるかもしれない。


 この状況で収集を着けずにゆかちゃんと引きこもるのは、私を昔虐めていたやつらよりもよっぽど酷いやつに成り下ってしまいます。



「どうでもいいわ」

 花は興味なさそうにスマートフォンを触りながら言う。


「大丈夫だよ、これからピーチは百合系アイドルで売り出していこう」

 さゆりは私に抱きついてくる。


 少しだけ回された腕の力が強い。


「え」

 花がガチで嫌そうに言う。


「そんなあ」


 二人とも本当にいつもと変わらない調子である。これからのことを考えれば私を恨んでもおかしく無いのに。


「わかばわかってるよな」

 近藤さんがドアを乱暴に開けながら部屋に入ってくる。

 多分、きれている。


 この人が原因の一因で有るのにいい気なものです。

 ゆかちゃんを紹介していなければ、ネットで拡散される前にコンテストが終わり、ゆかちゃん達が拡散される前に消した可能性だってありました。


「わかば、今日のライブでは最初に今回のことを謝罪しろ。そして、ゆかとはたまたま一緒のクラスメイトで、たまたま抱きつかれただけだと言え」


「そうしないと、お前だけじゃない。ピーチのメンバー全員に迷惑かかるんだ。もししなかったら分かってるな」

 近藤さんはそれだけ言うと大きな足音をたてながらどこかにいってしまう。


 ゆかちゃんと友達じゃないなんて絶対言いたく無い。だけど、ピーチのメンバーにこれ以上迷惑をかけるのも違う気がする。


「ピーチさん準備してください」


 私達は舞台袖に向かう。

 その廊下は暗く酷く長いように思える。


 袖から見える観客達は皆私を攻めている気がする。


「これからも三人で支えあってアイドル続けれたら良いと思うな」

 さゆり


「興味無い」

 花


 二人は私の耳に囁くと、指示に従って舞台にあがる。私も二人においてかれないように舞台にあがる。


 観客席には、見たことの無い方やテレビ局の方々も、いつも見えるファンの方に混じっている。


 だけど、大多数のファンの方はいつも通り私達のメンバーの名前を書いたうちわやタオルを見せようしてくる。


 変わんないじゃん。


 いつもどおり。


 少しだけ変わったら全部変わったように見えてしまうそんな感じ。


 私が言ったら変わるかもしれない、けど、私がファンを信じなくてファンも私を信じてくれないと思う。


 メンバー二人からもOKがでた。


 だから。


「私のせいでこのような騒動が引き起こされ多大なる迷惑をかけたことを心からお詫びします」

 同意の声と更なる謝罪要求がそこらから聞こえてくるが全体として大きくない。


「ですが、私は今回のことを後悔はしてません」

 もう戻れない。

 脇目でさゆりと花を見るが、さゆりは手を強く握ってファンの方を向き。花は興味なさそうに照明でも見ている。


「私は小学校の頃に虐められていました。毎日が楽しく無い日々の連続で、人生に絶望していました。自殺というものを知っていたらもしかしたら死んでいたかもしれません」

 会場内は静かになる。

 衝撃の告白だったかな。


「その時に出会ったのが今話題になっている女の子です。私に指した一陣の光であり、私に舞い降りた天使でした」


 ファンの方は食い入るように聞き入ってくれてる。


「そこからの人生は私にとって素晴らしいものになりました。私がアイドルになったのも、私の一番のファンになってくれるというその子の言葉で、私はアイドルになることを決意しました」

 ゆかちゃんは今何考えているのかな。


「だから、私は友人を庇います。友人を庇うのに理由がいりますか?友人を守るために理由を求める人間にはなりたく無いです」

 私の大大大好きなたった一人の友人です。

 もう、一人ぼっちには成りたく無いです。


「抱きついているのもただのスキンシップです。友達同士、それこそ小学生からやっていることです。付き合っているとかそんな事はありません」

 バリバリ抱きつかれると嬉しいけど。


「その女性が別のアイドル押していることはどう思いますか?」

 どこかから声があがる。

 マスコミの方かな。


「友達がひなこさんを押していることに私は何も思いません。だって、彼女が私の一番のファンだって信じてますから。皆様だって、一番好きなもの選べって言われたら困っちゃいますよね。ピーチの誰を選べって言われたら困っちゃいますよね。だから、私は他のアイドルを押すことに文句は有りません。だって、彼女は私のことも一番に考えて、一番に心配して、何より一番に応援してくれる友達であり、ファんなんですから」


「皆様だって、他のアイドル応援しても構いませんよ。だって、私達の一番のファンなんですから」


 私がいうと。


 ファンの方々が


「「「さゆり」」」


「「「花」」」


「「「わかば」」」


「「「「「「「「愛してる!!」」」」」」」」


 会場内に大きく響き渡った。


 いつも通りの会場です。

 もう、恐いものなんか有りません。


「それじゃあ、一曲目。私達の気持ちが籠ったこの歌」

 会場内の全ての照明がこちらを向いた気がした。


「To the sky どうぞ」

 私達の声が会場に響き渡る。

 ファンのコールが会場に響き渡る。


 マイクを強く握る。

 今日のステージも絶対に成功させよう。


「私達の背中には羽がない


 飛べずにまっ逆さまに下に落ちてく


 ただ空を見上げることしかできなかったんだ


 誰もが飛んでいったこの場所で


 私は確かに輝くものを見つけたんだ~


 空へ飛んで


 雲の隙間を抜け


 気持ちいい風をうけ


 暖かい太陽と共に空へ飛んだ


 羽が無くても私は飛ぶ


 今、君に届けたいから

 」






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