13話

 side 平石わかば


 ゆかちゃんと別れて今からテレビの収録に向かいます。

 本当に憂鬱です。


 今回出演する番組は深夜なのに生放送。

 生放送なのに原稿がほぼ無いのです。


 テレビの前のファンと一緒に試練をクリアーしていく番組です。


 さらに、司会もいません。私達で視聴者を楽しませながら進行しないといけ無いです。

 この企画をとって来た近藤プロデューサーを殴り飛ばしたいです。


「わかば来たか」

 集合時間の15分前ですがさゆりも花も近藤さんも着いてます。

 花が集合時間前に来てるなんて珍しい。いつもぎりぎりに来て、私が来た時間が集合時間だっていう雰囲気を出しているのに。花も緊張しているのかな?


「今回の企画はピーチが主体の番組だ。色々、不満があると思うが、それでもピーチがメインではれる番組はこれしか無かった。だから、申し訳ないと思うが頑張って欲しい」

「大丈夫ですよ。私達なら出来ます。だよね、二人とも」

「うん…」

 これは花凄い緊張してるな。


「…花、今日も最高に可愛いね…。特に今日の髪、凄い気合い入れて巻いてきたでしょ…。…いつもよりふわふわしてる…」

「そんなことないよ」

 花が顔を背ける。


 緊張が解れたかな。これぞ、ゆかちゃん式、誉め殺し緊張取り除き術。私は凄いゆかちゃんにこれやられますから自分でも出来るようになったのです。


 何故か、さゆりがこちらをキラキラした目で見てきます。


「大丈夫そうだな。ピーチなら絶対に成功出来る。頑張ってくれ」

「頑張ります」

「わかったわ」

「…はい」



「始まりました。アイドルの試練に挑め!今日は私達、さゆり」

「花」

「…わかば」

「の、三人組、ピーチが試練を乗り越えていきます。応援宜しくお願いします」

 番組のセットは机の上にあるお題箱のみ。


 凄い低予算な番組です。

 だから、私達が主役をはれるのですが。


「じゃあ、まずはこの私がお題を引きます」

 掛け声と共にさゆりがお題箱の中から紙を取り出した。


「お題は、視聴者からの評価が100越えるまで歌を歌い続けるです!」

 さゆりがお題をよく見えるようにカメラの前で大きく広げる。

「評価はリモコンのボタンを押すことで出来ます」

「…今、押して100にしてもかまいませんよ…」

「連打宜しく」

「わかば、花、一回位、歌おうよ」

 さゆりが言うがもうすでに評価は100越えたらしい。


「…評価100ありがとうございます…」

「まあ、当然でしょ。次いこう」

「ありがとうございます。次、いった方がいいかな?」

「…一曲、歌いましょう…」

「了解」

「よし、新曲のTo the sky聞いてください」

 さゆりは生き生きという。さゆりは本当に歌うのが好きです。歌える場所があるならいつでも歌ってたい感じです。


 花も曲が始まるまではなるべく歌いたくないみたいでしたが、曲が始まると真剣な雰囲気になります。


 私も眠たいですが、頑張っていきましょ。

 なんといっても、お題を解いてるよりも、いつも練習してる歌の方が楽ですからね。


 正直、もう一曲くらい歌っても良いかもしれません。



 その後も、多分、熱心なファンの方が積極的に助けてくれたため。危なげなく終わりました。


「疲れた~。あっ見ようと」

 マネージャーさんに帰りは危ないので送ってもらうのですがテレビの人とプロデューサーと少し話していて楽屋で待機中です。


 花は例の如く、スマホを触ってますが、少し眠そうにうつらうつらしてます。


 さゆりは完全に寝てます。基本的にさゆりがリーダーとして今日の番組の司会みたいなことをやっていたので緊張で疲れたのでしょう。


 私も疲れたので、回復のために今日撮ったゆかちゃんのダンスの動画を見ます。

 ゆかちゃんを見てると癒されます。

 まだ、頑張れる気がします。頑張らないけど。


「ゆかさんはダンスするのか?」

 後ろから近藤さんが話しかけてきます。


「…勝手に人のスマホ覗かないでください…」

 私はスマホを電源を消ししまう。なんとなく、近藤さんの目にゆかちゃんを写らせたく有りません。


「ごめん。いや、ゆかさんが目に入ったから」

 どんなけこの人、ゆかちゃんをアイドルにしたいんですか。この前、ゆかちゃんに聴いたら、公衆の面前で土下座したらしいですし、意味がわかりません。


「…しません…。…ただ、ひなこさんって言うアイドルの企画で踊っているだけです…」

「ひなこさん、………あーあ、どじっこで売り出しているアイドルですか。そんな企画もやっているんですね。ピーチもファンとの交流企画を考えた方が良いかもしれないな」

 流石にクラスの同級生と違って、芸能関係者だけあってひなこさんの名前を知ってますね。


「お疲れ。今日、明日、明後日は何もないからゆっくり休んでくれ」

「…学校が有りますけどね…」

 少しの事務連絡の後、私達はマネージャーの車に乗せられて一軒、一軒家まで送られる。


 私が鍵を開けて家の中に入ると、二階の兄の部屋の電気がまだ、付いています。

 日曜日のこんな時間まで勉強お疲れ様です。

 少しだけ、兄が可哀想に思えた。

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