10話ライブは成功しなきゃ意味がない

 ひなこたんとの握手会が終わって疲れていたのかよく眠れました。


 昨日の今日で今日はわかばちゃんのライブです。


 正直、諭吉さんがやばい勢いで飛んでいきます。

 最終手段は父親へのおねだりですが、あまりしすぎるとお父さんのお小遣いがなくなってしまい可哀想なので考えものです。


 一様、私の高校では、バイトは許可制となっていて、バイトをする時には学校に申請書を提出しないといけませんが、申請すれば変なバイトでは無い限り申請が通らないことは有りません。


 なので、バイトしても良いのですが、正直、働きたくないでござる。誰かに養って欲しいです。


 美人のお姉さん希望です。


 ともかく、わかばちゃんのライブに行きましょう。

 場所は前と同じ地下劇場です。


 開始1時間前ですが、地下劇場は殆ど空きが有りません。

 今回は左見ても、前見ても、右見ても、後ろ見ても、下見てもって。


 おっさんが転んでる。


「大丈夫ですか?」

「あ、あ大丈夫です。 ありがとうございます。 って君は!?」

 おっさんが私の顔見ると驚愕の表情を浮かべる。


 この人、どっかで見たこと有るな。


「ゆかちゃん~」

 パフ。

 後ろから、みやこさんの甘い香りと心地よいおっぱいに包まれる。天国やー。


「あれ、そこに倒れている人って、ピーチのプロデューサーになった近藤 敦さんですよね」

 近藤 敦、わかばちゃんから名前聞いたんだっけ?


「はい、そうです。よく知ってますね」

 近藤さんは埃を払いながら立ち上がる。


 周りのおっさん達は興味津々でこちらを見てくる。


「凄いでしょ。私、ピーチのことならなーんでも知ってますから、まだ、新任のプロデューサーになんて負けませんよ」

 みやこさんの抱きつく力がほんの少しだけ強くなる。


「ありがとうございます。新参ものの私が言うのもなんなんですが、貴女のようなファンがいるおかげでピーチはここまでこれました。私も微力ながら精一杯努力していくのでこれからもピーチの応援宜しくお願いします」

 近藤さんが綺麗にお辞儀をする。


 熱血だー。

 あっ、この人、前に土下座してきた人か。

 わかばちゃんもプロデューサーがこの人になって大変そうだな。今度、一杯甘やかしてあげよう。


「まあ、合格かな」

 みやこさんがぼそっという。


「君もこの前のことはすまなかった。今日は楽しんでいって欲しい」

 近藤さんは私の方にも一礼すると裏方に消えていった。


「そういえば、最初、知り合いみたいな雰囲気出してだけど知っていたの?」

 みやこさんが耳元で囁く。


 みやこさんの息が耳にあたり、むず痒いような気持ちような奇妙な感覚が感じられる。


「前、アイドルにならないかってスカウトされただけですよ。すぐに断りましたけど」

「ふうーん。了解」

 みやこさんは私から離れてしまう。てんごくや あーーてんごくが おっぱいが。


「もうすぐピーチのライブ始まるよ。今日も頑張っていこう」

 みやこさんが笑う。


「はい」

 さあ、頑張ってわかばちゃん応援しよう!




 side 平石わかば


「プロデューサーまだかな」

「逃げたんじゃないですか?」

 さゆりがそわそわして、花は興味無さそうに髪を弄っている。


 プロデューサーの近藤さんは、マネージャーさんが間違えて新曲の入っていないCDを持ってきてしまったためにそれをとりに戻っている。


 正直、今日、新曲を歌わなければこの一週間、何のためにゆかちゃんとの会瀬の時間を減らしてきたのか意味がわかりません。


 どうせならゆかちゃんに一週間の努力を見せてもらい明日学校で誉めて欲しいです。


「すいません、待たせました」

 近藤さんが息を切らしながは舞台裏に駆け込んでくる。何故かスーツはよれよれです。


 音響さんに謝りながらCDを渡し、こちらにくる。


「すまん。待たせた」

「大丈夫ですよ。間に合ってますし」

 開演2分前、本当にぎりぎりです。

 チキンレースでもやっているのでしょうか?


「時間が無いから手短に言う。君達は一週間、私の無茶振りに良く耐えてくれた」

 無茶振りっていうことわかってたんだ。


「だけど、君達がこれから羽ばたいていくためには必要なことだったんだ。昨日、新曲を含めたCDの発売が決まった」

「君達のファーストシングルだ。今日のライブがこのCDの売り上げを左右すると言っても過言ではない。CDの売り上げがピーチの活動を左右する。だから頑張ってきてくれ」

 近藤さんはいつも以上に真剣な顔で言う。


「わかりました。ファンのためにも頑張ってきますね。そして、そのためにも笑顔が大切です」

 さゆりちゃんがあえて真剣な雰囲気をぶち壊すために顔を崩しながら笑う。


「ああ」


「じゃあ、ピーチ、行くよ?」

 さゆりちゃんが私と花をみる。


 私達は頷く。


 決められた場所に立つ。


 会場に響く、重低音のブザー音。


 幕があがる。


 シーリングライトの光が眩しい。


 ゆかちゃんは?


 後ろの方、みやこさんっていう方と一緒にいる。


 曲がフェードインしながら始まる。


 新曲、一週間の努力の成果。正直、まだ完璧では無いと思うけど。


「ピーチの新曲、To the sky 聴いてください」


 会場にバックミュージックが充満する。


 いこう。


 ゆかちゃんに喜んでもらえるように。


 その過程でファンの方が楽しんでくれるなら良いと思う。





 やりきった!

 舞台の光が消え幕が閉じていく。


 サスペンションライトがともる。


 さゆりが花と私の方を向く。


「花、可愛いかったよ!」

「ありがとう」

 花はぷいとそっぽを向く。


「わかばもゆかちゃんが見て満足できる出来だったと思うよ」

「…ありがとう…」


 さゆりは本当、私達のこと気にかけてくれるんです。最初はリーダーとしての責任感からかなと思ってたけど、元の性格みたいです。


「さゆりも上手だったぞ」

 気づかなかったけど、近藤さんが近くにいた。


「ありがとうございます」

 さゆりがほんわかに笑う。


 ちゃんと、さゆりを褒めてくれるところは前のプロデューサーよりも評価高いですね。


 花と私じゃ。さゆりのこと恥ずかしく褒めれないのです。


「本当に今回は良い出来だった。俺が保証する。これなら、CD.の売り上げは良いところまでいくぞ」

「ありがとうございます」

「ここからの仕事は俺の仕事だ任せろ」

 近藤さんは胸に手をおく。

 ここからの仕事ってなに?



「…近藤さん、なんかいきこんでたけど、なんかなるのかな?…」

「わかんないし、私、興味ないし」

 花はいつも通り、自撮りしてSNSにあげている。


 ライブの打ち上げの席にたくさんの人がやって来ている。少しだけ、こんなに人を巻き込んでゆかちゃんをよろこばすことのみを目的にしているって少し罪悪感が有る。


 まあ、隣の花と、料理をキラキラとした目で見つめているさゆりを見ているとどうでも良くなるが。


 ポケットに入れていたスマートフォンがバイブを鳴らす。


 わっ、ゆかちゃんから称賛のメッセージが来ている。


「ゆかさんからか?」

「「えっ」」

「いやいや、先ほどさゆりがゆかって言う名前を言ってたからなんとくだ」

 さゆりが失敗したって感じで頭を抱える。


 これは不味いのかな?

 ゆかちゃん女の子だし大丈夫だと思ってたけど。


「大丈夫ですよ。ゆかちゃん、凄い美少女で、目鼻立ちぱっちりしている。女の子で…わかばちゃんが好きな女の子で…」

「ちょちょ」

「一旦、落ち着きなさい。さゆり」

「花」

「プロデューサーはゆかちゃんの親友です。何も問題ないですよね」

 花、頼りになる。


「いやいや、すまない。別にファンとの接触はあまりして欲しくは無いが、元々の親友で有るし、節度を守ってくれればそこまで言うつもりもない。芸能人だって人間だからな」

「良かった」

「さゆり、あなたが勝手に慌てて、勝手に暴露したんだからね。わかばに謝りなさいよ」


「ごめん、わかば」

「…別に、良いよ…」

 そもそも、ゆかちゃんと一緒にいれないならアイドル止めますし。


「すまないな。CD持ってくる途中、ファンのゆかっていう子に会ってたから、その子かなと思っただけだ」

「…今日のライブに来てた女性の方はほんの数人しかいないので、多分、近藤さんが言っている子で間違い無いです」

 ゆかちゃんから聞いた、ピーチのファンの女の子にゆかっていう名前の子はゆかちゃんしかいないと思います。


「すまない。こんなことを頼むのも何だが、ゆかっていう子を紹介してはくれないだろうか。あの子なら楽々とトップアイドルになれる。ひいてはアイドル業界全体の活性化にもなる」

 近藤さんが土下座している。


「…えーと…」

 この人、何言ってるんだろう。


「最低ね。あんなけど私達を持ち上げる発言をしておいて、可愛い子がいたらさっさと乗り換えるなんて」

 花はもう興味がなくなったのかスマホを触っている。


「一緒に、トップアイドルを目指そうって言ったのは嘘だったんだですか?」

 さゆりが泣きそうになってる。


「…最低…」

 良くわかんないけど。


 正直、ゆかちゃんはアイドルになる気無さそうですし、こんな戯言いう人に大大大~切なゆかちゃんを渡せません。


「すまない、別に俺はゆかさんにアイドルになって欲しいだけだ。君達をトップアイドルにするっていう約束は忘れてない。君達ならトップアイドルになれるからだ…」

 近藤さんがおろおろと言葉を紡ぐ。


「近藤さーん、司会やってくださーい」

 近藤さんはまだ何か言いたそうだったがマネージャーに連れさられた。


「最低ね」

 花がぽっつと呟く。


 花がここまで酷く言うの珍しいな。もしかして、近藤さんに期待していたのかな?


「…どうせ、プロデューサーが誰だろうと変わんないしどうでも良いじゃん」

「近藤さんは頑張っているようだし、そこまで言うのは」

「どうせ形だけよ」



「初めまして、ピーチのプロデューサーを務めさせてもらってます近藤 敦です」

 近藤さんがみんなの前に立つ。


「皆さんのおかげで、今回のライブは成功する事ができました。本当にありがとうございます」

 まばらな拍手がなる。


「この成功により、CDの発売、更には、テレビからのお誘いも今、受けております」

 えっ、テレビ出演の話なんて一度も聞いたこと無いけど。

 さゆりも花もびっくりしている。


「これも、ひとえに皆様からの尽力やファンからの応援のおかげです。ありがとうございます」

 拍手が起きる。


「ピーチのこれからの未来を祈って、乾杯!」

「「「乾杯」」」


 この後、謝りにきた近藤さんに、高級焼き肉をおごってもらうことを条件に手打ちにした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る