第16発 天国の門
そんな幸せもつかの間であった。
ある日のこと、オフィーリアは胸をおさえると、そのまま芝生に倒れこんだ。
男「おい、おい、しっかりしろ、な、おい!」
男はオフィーリアの胸をさすったが、オフィーリアは別れの挨拶も出来ぬままに、息絶えた。
元々、体が弱かったのだ。この"真の世界"でもきっと無理をしていたのだった。
男がオフィーリアとのえっちを躊躇っていたのは、単にオフィーリアのガードが堅いからではなく、むしろ、こころの底からオフィーリアの心臓の病を労わってのことであった。
生きる希望を失った男は、剣を自らに突きつけた。
オフィーリアの亡き骸を抱きしめながら。
オフィーリアが目を覚ますと、そこはまた、天国の入り口だった。
天使「あなたは死にました。神様のもとに召されたのです」
オフィーリア「またですか・・・私」
天使「あ、それと、骨太の煉獄創生プログラムは失敗したんです」
オフィーリア「・・・・・・。氷河期世代は、もう救われないのですか?」
天使「そう、悲観しないで。20代新入社員が年収600万とかザラの時代に、取り残された感があるよね?」
オフィーリア「本来なら白馬の王子様になるハズだった男性たちが、大量に資金難に陥り」
天使「ええ。そして、本来ならいっぱい仕事を覚えて、いっぱい稼いで、いっぱい恋をしてたハズね」
オフィーリア「そして、恋をしていたはずの男性が恋を諦めて・・・」
天使「白馬の王子様を待望する女性たちの前に現れないんだよね。いつまでも」
オフィーリア「そんな人いっぱい居ますよね。正社員でさえ首切り目前、みんな2000万円なんてどうやって・・・」
天使「そう、君たちの世代の多くの人たちが、運が悪くてそうなった」
オフィーリア「・・・・・・。」
天使「それとね、政策実行開始から3年間経ってしまったので、煉獄は閉鎖します」
オフィーリア「私は、神の御許に行くのですね・・・」
天使「まった!! 天国の門は貯蓄が2000万円以上の者しか通せぬ!!」
オフィーリア「は?」
天使「悪いね。煉獄閉鎖後、天国に行けぬ者は、現代日本に戻ってもらうよ?」
オフィーリア「???」
天使「たらい回しでごめん! 受け皿がないんだ!」
天使は気まずくなって、会話をいきなり打ち切って、オフィーリアを現代日本に強制送還した。
同様に、男のほうも再び地獄の門を追い返された。
世界皇帝としての3年間の職務経験は、勤続年数に算定されなかったのだ。
まるで夢のような、真の世界(煉獄)における3年間の集中プログラムは幕を閉じた。二人はそれぞれ、現代日本に押し戻された。
しかしこの2人にとって、この3年間は無駄ではなかったように思える。
それまでの全人生が無駄ではなかったのと同様に。
日本への片道列車で相席した二人は、再会を喜んだ。
車窓を見ながら、男は次のようなことを言った。
”仕事が無いと、社会性もお金も身につかないし、広い世界を井戸の中から見続けることになる。守るべき女が居ないと、その心は砂漠で延々と生きる意味を問い続けることになる。そもそも女の体を征服する喜びを一度も味わうことのなかった人生は砂漠それ自体だ。まさにそれが俺の人生だった”・・・と。
それを聞いた女性(=オフィーリア)は、男の頬を思いっきりはたいた。
そして、かつて書いてあった一通の手紙を男に手渡し、別の号車へと歩いて行った。
女性は、男の身勝手な弱音に心の底から激怒していた。
男は罪な生き物である。この男が”男性”ではなく”男”と呼ばれているのも、それが理由だ。男の罪とは、女性の心の可憐なる崇高さと凛とした気高さに永遠に気づけないことなのだ。気づけないのだ。気づけない、・・・永遠に?
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