第3発 いつでもいっしょだよ

現実世界に舞い降りてからたった数時間の間にも、男の精神は確実に、より強靭で、硬いものになろうとしていた。本来絶倫である男は、精神を開放しきったような気がせずに、むらむらもやもやしていた。男には、突然それまでの道徳習慣を変える・・・・・・などということは到底出来なかった。その夕方、男は皇帝の寝室のベッドに寝転んだ。傍らの椅子に座って、付き添ってくれている天女のベアトリーチェに、思い切って、相談してみた。


男「あの、ベアトリーチェ・・・さん」

天女「なあに?」

男「俺ね、言いにくいんだけど・・・」

天女「何かな?」

男「自分から言うと、変かな? あの、女の子とね・・・」

天女「好きなだけ、ご堪能ください」

男「え?」

天女「ふふ。どんな子がお好きですか?」

男「そうだな・・・」


男は、その昔、中学校の頃、憧れの女の子に告白しようとしたことがある。次の日、学校中の男子という男子、女子という女子から冷やかされて揶揄われて、それ以来高校に入るまで不登校になっていたのだった。高校に入っても根暗になっていた男に友達はできず、そのまま再び不登校になり、卒業して以降も社会人となることはなかったのだ。・・・・・・とは言え、今は世界帝国の皇帝になっているが。

男「そうだな・・・・・・普通の女の子と普通の会話がしたい。そう、俺の同級生たちが普通にしていたように」


天女「そうですか。じゃあ提案です。今から、宮殿を出て、村に向かいませんか?」

男「・・・・・・。」

天女「塾帰りの女の子がたくさんいる時間帯ですよ」

男「ごめん。やっぱ俺、怖いよ。人生やり直したいけど、でも、やり直せないんだ。でも、でも、それ当たり前だよね」

天女「そうね、陛下には性的な教育に先立って、まず恋愛の教育が役に立つかな。でもね、その前に、人間のぬくもりを教えてあげる必要がありそうです」


ベアトリーチェは、皇帝のベッドに入り、男と布団の中で手を繋いだ。そして、男にだけ聞こえる小さな声で、囁いた。

天女「(いいですか、想像して。私たちは中学生同士です。手をつないでデートです。でも、部屋の中の他の女官に見られないよう、手は布団の中に隠しておきましょう)」


ベアトリーチェと男は、本当にただ単に手をつないで、天蓋を一緒に眺め、そして性的な意図もなく、一緒に他愛のない会話を楽しみ、そして寝ることにした。


男が寝返りを打つと、そこに人間の体があるというのは、数十年ぶりのことだった。それにしてもいい香りだ。そして、心地よく柔らかい。男は、ベアトリーチェの胸元に顔を埋め、そして睡魔に落ちた。


その夜、男の精神は夢の中にあって絶頂に達し、そして、早朝に再び勃起した。

男は、男としての野心と、人間としての尊厳を、少しずつ取り戻しつつあった。

ベッドに男の本来持っている清らかな精神が、溢れだしそして流れ出た。


(つづく)

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