028 Forest night 木こりの宿での一泊
「ファナ、疲れたらちゃんと言うんだよ?」
「平気。……それよりさ、さっきみたいなのって誰でもできるの?」
「さっきみたいの?」
「ナイフ持ったおじさんを投げ飛ばしたり、光ったり、魔法を使ったり……」
「ああ、あれね。どうだろう……練習すればできるようになるかもしれないけど」
「ふーん……」
こちらの世界での魔法や魔力についてもあまり詳しくないから迂闊なことは言えない。もし魔力が血筋に大きく影響されるなら、誰でもできるとは言えない。
「リーナはどう? 魔法とか、いつ頃から使えた? あと、身体強化ってどれくらいできる?」
「そうね……初めて使えるようになったのは五歳頃だったかな。最初はちょっとした火の玉を出すとかそんなのばっかりだけど。でも、十歳くらいからは本格的に勉強するようになったわ。……身体強化だけど、全身の筋力を増幅させて身体能力を高める感じ」
……うっ。やっぱりそういうものなのかな。いやまぁ、確かにさっきのやり方は一般的じゃないって自分でも思うけれども。
「私、あんまりよく分かってなくて……えへへ」
「……なんだ、そうなんだ」
ファナはそう言って笑ったが、その表情はどこか寂しげに見えた。
「私にも、教えてよ」
「え?」
「私も、強くなりたい。弟を守るために」
「……弟想いのお姉ちゃんだね」
「私、お姉ちゃんだから」
その言葉に込められた意味に、なんとなく触れてはいけない気がして、ただ相槌を打つように「そうだね」とだけ返した。
「じゃあ、頑張って覚えようね」
「うん!」
ファナが嬉しそうに返事をした。子供心ながらに、強くなりたいんだ……。
「あ、明かりが見えてきたわ」
森に入るとすぐにリーナが言った。目を凝らして前を見ると、確かに人工の明かりが見える。そうしてしばらく歩くと、木こりの宿にたどり着いた。
「ごめんくださーい……」
扉を開けると、カランコロンと鈴の音が鳴る。その音で気づいたのか奥から初老の男性が姿を現した。
「いらっしゃい……おお! これはこれは。夜更けによう来なさった」
男性はにこやかに笑って出迎えてくれる。
「四人で一泊したいんですけど……いいでしょうか?」
「構いませぬよ。一部屋でよろしいかい?」
私が頷くと宿の主人がカウンターの裏から出てくる。案内された部屋はベッドとテーブルがあるだけのシンプルな部屋だった。製材した板張りの壁ではなく、丸太造りの壁が温かみを感じさせる。荷物を置いた後、さきほどの受付に戻る。
「食事はどうされますか?」
食事ありでお願いすることにした。宿泊費は四人部屋ということもあって食事込みでもかなり割安だった。大銅貨3枚を支払って食堂へ案内してもらう。
食堂に入ると、丸テーブルが5つ並んでおり、カウンター席が10席ほどあった。明かりはランプみたいなものが一つと暖炉の炎だけだけど十分に明るい。……ランプと言えば、やっぱり魔法かな。どうやら他にもお客さんがいるようだ。それなりに距離を空けて席に着く。
夕飯はポトフのようなものをいただいた。パンとサラダもついてきてなかなかに満足できる食事だった。すっかり異世界で出される黒くて固いパンにも慣れてしまった。白くて柔らかいふわふわとしたパンを食べたい気持ちはあるが、パンの作り方なんて全く知らないからできないんだよなぁ。
「ファナ、ヘンリー、明日はエヒュラ村まで歩くから今日はもう休もうか」
「うん……もう、眠いし」
リーナとも頷きあって今日はもう就寝することにした。明日こそエヒュラ村に帰ろう。
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