027 turning 帰路

「何があったのか、説明してくれるよね」


 リーナと合流して、開口一番にそう言われた。スリだって言って走り出して追いかけた女の子に加えて、さらに幼い男の子まで連れて戻ってきたのだから。とはいえ、その声色は平坦で……怒ってはいない、のかな?


「あ、あれ……その……あ、あんまり怒ってないんですか……?」

「怒っているわ。どうして私をおいてどこかに行っちゃうの。もう……ちゃんと説明してよね」


 ……やっぱり怒ってた。さてと、何をどう説明したものやら。にしても、置いてけぼりにされたから怒っているっていうのが、なんだかむしょうに可愛く思えてしまう。


「えっと、まずね……この子がファナでこっちがヘンリー。二人は姉弟なんだけど親はいなくて……スラムの怖いおじさんにお金を持ってくるよう脅されてたの。そうだよね?」


 私がそう言うと、ファナが頷く。


「リーナお姉さん、さっきはごめんなさい」


 ファナは賢い子で、目の前にいるリーナがさっきスリを働いた相手だと認識できているようだ。


「それで、ファナだけでも連れて帰ろうと思ったんだけど、ヘンリーが病気だから出ていかないって言うじゃん? だから、ポーション飲ませて治療だけはしておこうと思って、そうしてあげたら……」

「怖いおじさんが来て、ライカがぼっこぼこにしたの!!」


 ヘンリーが興奮気味にそう言うと、私とリーナは苦笑するばかり。こういう事情で取り敢えず二人とも連れてきたと言ったら、リーナもしょうがないなぁと言いつつ納得してくれた。


「それで、これからどうするの?」

「とりあえず、この二人を村に連れて行こうと思う。村のみんなも喜ぶだろうし」


 あれだけボコボコにした以上、ミャルセットの街を出てなおも追ってくるようなことはないだろうけど……できれば今すぐにでも街を離れたいところだ。


「そうね。じゃあ、行きましょうか。ほら、手を繋いで」


 こうして、ファナとヘンリーの手を取って私たちはエヒュラ村に歩き出した。道すがらにファナが話しかけてくる。


「あの、変なお姉さん……」

「変なって言わないの。私はライカ。分かった?」

「うん。ねぇ、ライカ。私たちどこで暮らすの?」

「私とリーナが住んでる村だよ。平和でのんびりとした、いいところ」


 ファナは考え込むようなそぶりを見せた。新天地にきっと不安もあるのだろう。ヘンリーは病み上がりだし、あまりペースは上げられない。

 行きは休憩も含めて三時間半、どたばた騒ぎのせいもあってけっこう日が傾いてきている。あまりゆっくり進んでは夜になってしまうが……。


「ライカ、すこし急いだ方がいいかしら?」


 私の思考を読んだかのようにリーナが言った。


「まぁ……できればそうしたいことろではあるけれど」


 そう答えつつファナとヘンリーを見る。既に歩き始めて三十分ほど、ミャルセットで購入した荷物もあり進みは悪い。


「少し遠回りになるけれど、あっちの森に木こりをしている人がいて、その人が宿もやってるんだ。そっちを目指そう」


 リーナの提案は安全策だった。私も賛成だ、人も増えて荷物も多い。あげく夜は気温も下がる。できれば野営よりも、建物内で休めた方がいい。

 ……そういえば、スリの一件で忘れてしまったが、私が使う食器を買いそびれてしまった。……それはおいおい、一人で買いにくるとして。


「ファナ、ヘンリー、村に着くのは明日になっちゃうけど、頑張って歩ける?」

「うん」

「頑張るよ」


 二人の返事を聞いて、私たちは街道から細い分かれ道に入って木こりの宿を目指した。

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