024 market お買い物
「着いたー!!」
村を出て徒歩三時間半ほど。無事にミャルセットの街に到着した。異世界言語の変換は未だによく分からないけれど、ここはきっとマーケットが語源になっていそうだ。ミャルセットはこの大陸でもかなり中心部にあるらしく、ここから西には私たちが来たエヒュラ村、南東にはウィッタリアという甜菜糖を作っている村、北には職人が集まる村があり、さらに東にはここルーラック王国の王都があるとのこと。
つまり東西南北のすべてがどこかしらの街へと通ずるここはまさにマーケットを設けるためにあるような場所ということだ。
「……前にさ、エヒュラ村がどうやって現金を得ているか聞いた時に、村からミャルセットまで健脚な人が一日かけて着くって言ってなかったっけ?」
「それは売るために麦や野菜をたーんと積んだ荷車を引くからだよ。村にはあまり馬がいないから、結局は人力が一番なんだよね。そうすると流石にこんな速さで来られないわ」
それもそうか。にしても人が多い。レゾリックは特殊な状況だったから仕方ないとはいえ、ここまで人の多い街を歩くのはこの世界に来て初めて……というか、前の世界を含めてもかーなーり久々だ。迷子になっていそうだ。
「リーナ……手、繋いで――いない!?」
ここは恥をしのんで多少は慣れているであろうリーナに手を引いてもらおうと思っていたのに、気づけばそこにリーナの姿はない。なんてことだ、このままじゃリーナが誘拐されてしまうかもしれない。こちらの世界の風俗事情は知らないけど、あれだけ綺麗で発育のいい女の子だ。きっとそういうお店に売られてあられもない恰好で――待てよ、この世界は入浴文化が盛んで……まさかそういうお風呂もあってリーナが!
「ライカ、ソーセージ売ってたから買ってきちゃった!」
「そうソーセージ! そのたわわで挟んで……ってリーナ!! もう、迷子になったかと思って……心配かけないでよ」
駆け寄ってきたリーナが串に刺されたソーセージを一本差し出してくる。
「なぁに、ライカったら寂しくなっちゃったの? じゃあ、手をつないであげるわ」
「……お願いしようと思ってたからいいけど、なんか……恥ずかしいよ」
口ではそう言いつつもリーナと手をつなぐ。柔らかいけれど、ところどころ乾燥やマメっぽい部分があり、働き者の手っていう感じだ。美容とかそういうものの知識がどの水準か分からないけれど、温泉の文化があるくらいだから保湿の概念は広まっているのかな。アロエとかあったら、手に塗るジェルみたいなものが作られているかも。見つけたらリーナにプレゼントしてあげたいなあ。
「取り敢えず種とか苗を見に行こうか。こっちよ」
案内されたのは植物が多数売られている区画だった。一応、シスターとして薬草の栽培をしている身としては、肥料とか種とか気になるものは多かったのだが、肥料は重いし種もすでに植えている品種の種ばかりだったので私としては特に用事がなかった。
一方リーナの方は……。
「これを五つとこれも五つ、あとそれは三つ。……あれも三つ買うから多少はまけてくれるわよね?」
「……嬢ちゃん、いい目利きしてるな。わかった、大銅貨二枚だ」
「ありがとう!」
リーナに何の種や苗を買ったのか尋ねる。正直、こちらの世界の食文化というか野菜事情は未だによく分かっていない。葉物野菜はあるようだが、果実系の野菜があるのかはまだ分からない。
「芋の苗が二種類と、根菜の種、それから豆の種だね。草原の覇者に農地をめちゃくちゃにされちゃったから、そういう土壌でも育つ強い野菜が必要だったの」
なるほどなぁ。戦争中にサツマイモを育てるのと同じ話か。芋といえば個人的にはサツマイモよりジャガイモ派なんだけど……こういう中世ヨーロッパ風でもないんだけど、異世界でジャガイモってやっぱり邪道なのか、前の世界では食することがなかった。まぁ実際、有毒植物だし育てがたいものかもしれない。どんな芋が収穫できるのかは、もう少し先の楽しみにしておこう。
「じゃあ次は鉄製農機具がある区画に行こうか。ひょっとしたらライカの手甲も見つかるかもね」
「あるかなぁ?」
戦いのための武器だ。使わないに越したことないが、必要になる時がくるかもしれない。ひとまず、再びリーナを手をつないで歩きだすのだった。
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