008 On my road 悩める少女
綿の手ぬぐいで身体を拭き、水気をはらうと私はリーナが用意してくれた貫頭衣をかぶる。ノーブラノーパンの生活にすっかり慣れてしまったなぁ。まぁ、慣れたと言ってもやはり足下はスースーするのだけれど。
前の世界には謎技術のせいかブラジャーやショーツがあったものの、ブラジャーはサイズ的な意味で、ショーツはトイレ後の後始末の都合上、着用する機会には恵まれなかった。下着なんてトイレの後すぐに臀部を洗えるだけの水や布を使える王侯貴族のファッションなのだ。
一般市民や旅人、冒険者にとってはトイレットペーパーがない世界ということもあり、トイレの後はノーパンの方がいいのだ。それは前の世界もこの世界も同じだった。魔王討伐直前期の私、よくよく考えたらばっちかったなぁ。
それにしても……。自分とリーナの格好を見比べて、言わずにはいられなかった。
「はっきり聞かせてもらうけどさ、どうしてリーナの胸はそんなに大きいの?」
リーナが着ると胸に布を取られて短くそれこそ腿までしか隠れないのに、私が着たらばっちり膝下丈だ。格差を感じずにはいられない。ともすればリューンより小さいのではないかと不安に駆られてしまう。
「え?」
「リーナだけじゃない。ミュラもそうだし、村の女性わりとみんな大きいよね」
正直、平均的にあれだけ大きかったら私が初対面の時に子供扱いされたのも、百歩譲れば理解できるように思えてくるほどだ。リーナなら許してくれそうだから、その胸をそっと持ち上げてみた。温かくて柔らかい。というか、生成りの貫頭衣ではともすれば肌が透けてしまいかねない。揉んでしまいたい衝動を辛うじて抑えこみ、ゆっくりと手を離す。
「ちょっと、シスター・ライカ……もう」
「あと、ライカって呼んでくれていいからね?」
草原の覇者を倒したとき、感極まっていたのか一度だけ呼んでくれた時、何故か分からないけれど無性に嬉しかった。きっと久々にそう呼ばれたからだと思う。最初の転生は端から聖女として招かれた体での転生だったから、誰もが私に対してかしこまったような態度だったから、対等な付き合いが出来ることが嬉しいのかもしれない。
「ライカがそう言うならそうするね。それから、胸のことはよく分からないわ。村に立ち寄る女性の中には華奢な人もいたし、気にすることないわ」
私の頭を撫でるリーナ。なんだか子供扱いされてしまった気がするけれど、こればかりはリーナの言葉を信じるしかない。前の世界では身体が成長していなかったけれど、今度は天寿を全うするよう言われて転生したんだから、きっと成長するはず。そう自分に言い聞かせて脱衣所を後にする。
昨晩は呑めや歌えやの大騒ぎだったから、村人もあまり起きていないのかまだまだ静けさを感じる。前の世界にも時計がなかったから、すっかり体内時計での生活になってしまっている。
「ひとまず朝食にしましょう。お腹はどれくらい空いている?」
「あんまり、かな。昨日たくさん食べたから」
村長邸の食堂は厨房一体型でいわゆるダイニングキッチンといった様相だ。
「昨日のスープが少し残っているから、食べちゃおうか」
リーナが薪に魔法で点火すると、寸胴に入ったスープをかき混ぜる。火の番をしながら、リーナはお昼に行われるであろう一大イベントについて教えてくれた。
「昨日、草原の覇者は美味しいっていう話をしたでしょう? 解体はお昼にやるんだけど、そこから先は忙しいよ。毛皮の処理、肉の加工、骨だって細工に使うし、内蔵は肥料になるの。……畑の多くが荒らされたり、壕にするために自ら掘ったりしたから、それも再建しないと」
木綿や麦を育てることで村は発展してきたのだと、今朝の入浴時に聞いていたが、それらの畑を復活させるのにどれだけの時間がかかるだろうか。それに働き手だってきっと……。やるせなさを少し感じつつ、それでいてリーナの目にはこの先への希望が輝いて見えた。
だからこそ、かもしれないが……この先の自分の身の振り方を考えてしまう。スローライフを、なんて思っていたけれどそもそもスローライフを送ったことがないのだからどう暮らしていいのか分からない。あと、村長へ自己紹介する時に旅人を名乗ってしまったからなあとも思う。
「どうしたのライカ? 難しい顔して」
「んーと、この先どうしようかなって思ってさ」
リーナが大鍋を火から離す。あの細腕でどうやったら持ち上げられるんだろうなんて思ってしまう。中身は減ってきているのだろうけれど、そもそも鍋が熱そうという問題が気になってしまう。そんな私の疑問をよそに、リーナは昨晩同様に木の器にスープをよそう。
「ほら、食べよう」
木の匙を手渡され、手を合わせる。リーナが不思議そうな表情をしたので、これは私のふるさとでのお祈りなんだと言った。二度も転生させられているけれど、私はやっぱりどこへ行こうと日本人なんだ。そう自覚している。
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