創設!現代怪奇研究部!!(後編)

「……え、部員もっといなきゃ駄目なんですか!?」

「えぇ、規則にも書いてあるじゃ〜ん。『部』として新設するのに必要な人数は最低でも5人。それ以下は同好会だよぉ??」


このヌメッとした喋り方の男性は顧問(予定)の鳴幌なるほろ先生である。

独特の口調と的確かつ易しい指導で女子からの人気が凄いらしい。


「本当だ。『本校部の創設及び運営は、5人以上の部員及び1人以上の顧問が所属する事を原則とし、その部内規則等は本校則に違反しないもののみ効力を維持するものである。なお、上規定に満たないものは部活動としての支援金請求、及び一切の活動を認めない』って、校則にしっかり書いてある!!」

「困ったな…………もう1年の大半は部活決めちゃったみたいだよぉ。残ってる生徒達も、あまり都合良くないみたいだし……。

あ、そうだ。……勇気はあるかい?」


先生が意地悪そうにニヤつく。なにか策があるらしい。




「は〜い新入生以外の皆ぁ、鳴幌に注目してねぇ〜、今からちょっとお知らせがあるんだよなぁ。

はい、こちらは【現代怪奇研究部】の面々だよぉ。まだ設立もしてない出来立てホヤホヤのこの部活、鳴幌が顧問やってるんだなぁ〜。……人数足りなくて、設立前から廃部の危機なんだよなぁ悲しい悲しい。つーわけだ、放課後やる事ないけどとりあえずなんか参加したいって帰宅部諸君!!俺んトコ来ないか?なんてね!後輩達助けたら、先輩として株が上がるぞぉ……?今なら可愛い女子部員が2人も付いてくる!!」


……完璧に悪徳商売だコレ。

僕は頭を抱えて絶望に打ちひしがれた。この様じゃ先生の話をまともに受け止めては貰えていないだろう。


「ありがとうございます先生!これで部員が増えますね!!」


陸式さんは相変わらずめげていなかった。その前向き加減たるや、本当に大丈夫かも知れないとさえ思ってしまう程である。

だが僕には現実もしっかり見えていた。彼女の力を以てしても、この絶望的苦境は変わりそうにない。せめて、興味だけでも持ってもらえたら良いのだが────。


「……部内で、お茶など飲めますか?」


やけにおっとりした声が突然にかけられる。僕はまだ顔もみないうちに、その声が福音に思えて仕方なかった。


「あ、はい。怪奇現象や超常現象を調べて、対策を考えたりする部活なので。

ミーティングとかありますけど、基本各自のペースで、って感じです!」

「そうですか、それなら……あら失礼、私とした事がまだ名乗っていませんでした!!

2年C組の朱鷺棟ときむね朱賀しゅかと言います。駅前のお茶屋さんが私の家です、ご贔屓ひいきに」


駅前────というと長年駅前に店を構える【日本茶のしゅろ】か。……僕はそこまで考えて驚愕した。【しゅろ】というと破茶滅茶に高いが死ぬほど美味い、と有名な茶屋ではないか。厳格な4代目の主人と流行に敏い女将が生み出す新感覚の和スイーツは、全国規模で売られている雑誌にも特集が掲載されるほどの人気である。……という事は、朱賀先輩はそこの娘さんなのか!?通りで他の生徒と比べて醸し出している雰囲気が違う訳だ。


「お茶屋さんというのにはですね、昔からその地に根付いているせいなのか、と〜っても力場が強いんです。……私が言っている意味、怪奇を専門とするあなた方なら充分に分かりますね?」

「……空間が歪んだり、霊が寄りやすい」


後ろで仄嶺さんが『ひぅっ!!』とビビり声を挙げた。本当にが苦手なんだなぁ。


「あなた方のお力に、多少はなれる様な気がします。……で、いい加減出て来たらどうですか?柱の影でコソコソ聞き耳を立てているさん?」


空耳かもだが、本当に『ドキッ』と聞こえた様な気がする。そこに誰かいるのだろうか……と考えていると、本当に柱の影から1人の男子学生が現れた。朱鷺棟さんの感知力は尋常ではないな。


「あっれぇ〜お前3年のじゃないのぉ〜。今日もパシリかい?」

「ち、違ぇよ鳴幌!俺の名前は御景みかげ!!後輩にまで呼ばわりは嫌だからな!!」


あ、この先輩フラグ立てちゃったよ。僕は何となく、御景先輩の進む未来を悟った。


「えぇっと御景先輩?先輩3年って事は秋には受験か就職かですよね?部活なんか入って大丈夫ですか?」

「真面目だなぁ後輩くん。だが安心しろ、俺の就職先は実家だから問題無い!」


何でも御景先輩の実家は県外にあるガラス工房らしいのだが、卒業後はそこで訓練を積んでガラス細工職人になるという。


「親父が現役のうちに、盗める技は盗んでおくんだ。といっても、既にある基本の紋様を組み合わせるだけなんだけどな」


そう言って、持っていたスクラップノートを見せてくれる御景先輩。父親と思しき男性が集中してグラスを作る様子が掲載された新聞の切り抜きでページが埋められている。


「いつか俺も、親父みたいになるんだ。……でもその前に、多少は世の中のあれこれを知っておきたくてさ。だから知識を増やせそうな部活を探してたんだ」

「────やったねお前さん達ぃ。これで部活が作れるんじゃないかぁ?」


鳴幌先生に言われて気が付いた。陸式さんと仄嶺さん、朱鷺棟先輩に御景先輩────そして僕。要件である5人は揃ったのだ。


「……で、顧問が鳴幌と……。はい、これでお前さん達は【現代怪奇研究部】部員になりました。おめっとさんだねぇ。で、部長さんは誰だ?」

陸式さん以外が全員、陸式さんを指差す。陸式さんだけ、何故か僕の方を指差しているではないか。


「────え?」

「だから私は、槐棠くんを部長に推したかったけれど……多数決で私だね!」


……仄嶺さんの視線が痛い。僕はなるべく彼女の方を見ない様にしてその場をやり過ごした。




────その翌日。


「……で、1年生ながら部活の創設をしに来た、と」

「はい!この部活動は今後必要になる事が十分に見込めると、お手元の資料からもお分かり頂けると思います」


クラスメイト達の目の前で生輿おいこし先生を説得する陸式さんの姿があった。


「……要件は全部満たしてるな。まぁ3年の御景がいるのは不思議だけど……いいか。

【現代怪奇研究部】、設立して良いぞ。部室は書類通り、3階図書室で」

「はい!ありがとうございます!」


かくしてこの部活は設立された。僕達の怪奇にまみれた日常が、やっと始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る