創設!現代怪奇研究部!!(中編)
僕は陸式さんからクラスの名簿(陸式さんのお手製)を受け取り、数時間かけて頭に叩き込んだ。この日も授業は頭に入らなかった。
朝、僕に詰め寄ってきたクラスメイトは
で、奥邑は単に僕の事が根暗で気に食わなかったらしい。それで周りに合わせて僕を非難しただけなのだという。それはそれで酷い奴だな。
でもこれではっきりした。奥邑は黒幕じゃないという事が。
「……結局誰なんだ、僕を陥れようとした奴は……」
僕が頭を悩ませていると、ふと遠くから僕を睨む視線に気が付いた。あんまりされる回数が多いから敏感に反応出来るのかも知れない。
それはクラスメイトの女子だった。確か名前は…………
「……
「……ッ!!」
僕が彼女の存在に気付くや否や、ハッとして逃げ出す仄嶺さん。いかにも怪しい。
僕は訝しんで、彼女を追う。幸い、彼女の逃げそうな先は名簿から察する事が出来た。
誰もいない書架の先に、仄嶺さんはいた。
「……なんでここまで来たの」
「仄嶺さんだよね、僕を陥れたの」
「なんの話かさっぱり」
「じゃ何で僕を見るなり逃げ出すのさ?」
彼女は黙って辞書に目を落とす。どうやら僕に言えない理由があるらしい。
「……?」
ふと、僕は彼女の挙動に違和感を覚えた。辞書を読んでいるはずなのに、彼女の視線は絶えずキョロキョロと動いている。大量の字の羅列を読む速度でない事は明らかだった。
「……それ、辞書じゃないね?」
「…………!!」
彼女は観念したのか、辞書で隠していたもう一冊を僕に見せてくれた。
まっピンクの表紙には『契約の接吻-聖マギア学園生徒会記・11-』という題字に加え、学生と思しき2人の女子がキスするギリギリまで顔を近づけているイラストが施されている。その2人の顔は、陸式さんと仄嶺さんに瓜二つだ……!!
「まさか……」
「その通りよ、悪い?私、アンタが嫌いなの。陸式さん……ドラニフェリア様の隣にいるのは私のはずだったのに……アンタが!居場所を奪った!!」
感情が昂ぶって、仄嶺さんは目に涙を浮かべる。
「私は陸式さんのマルクェナになって、彼女の全てをサポートするつもりだった……身も心も、文字通り全てを!!それなのにアンタは何なの!?私の居るべき位置を奪い、彼女の笑顔も寵愛も欲しいままにして!!」
「そんなつもりじゃ……」
「いいえそんなつもりよ、男の分際で【運命】を壊さないで頂戴ッ!!?……これ以上私の陸式さんに近づくなら合法的手段で社会的に抹殺してやるから!!」
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっ!!?
僕はあまりにキツい仕打ちに『そりゃないよ』と
「そうねぇ……まずは風紀が乱れる要因にオカルトを挙げて、オカルトマニアをこの高校から排斥しようかしら?陸式さんの洗脳は私の愛で解いて差し上げれば……」
もう、男なんかに陸式さんを奪われない。
相当な男子ヘイトっぷりである。陸式さんがこの姿の仄嶺さんを見たら一体なんと言うだろうか?
「兎に角、もうこの高校にアンタの居場所は無いわ。陸式さんの事、忘れるなら話は別だけどね」
「……そんなの、出来る訳ない」
「聞き間違いした?私には『出来ない』って聞こえたんだけど?」
「あぁそう言ったよ。忘れるなんて出来っこない」
陸式さんの笑顔が忘れられないのは仄嶺さんだって同じはずだ。僕も彼女も、陸式さんの笑顔にあてられて魅了された1人なのだから。
「……そう。思ったより陸式さんにゾッコンなのねアンタ」
「僕にとって高校初の友達だからな」
「ふん、まぁその感性だけは認めたげるわ」
やっぱりキツい。だが陸式さんが好きという気持ちは共通の様である。
「……陸式さんと、出来る限り一緒にいたい?」
「何で当然至極の自然の摂理を、さもアンタが始めて発見したみたいに言う訳?」
「陸式さん、部活作るんだってさ」
僕の【切り札】の威力は如何程だっただろうか?彼女の顔を見ると、予想とは違って『ありえない』と言う様な表情をしているではないか。
「何で私の知らない陸式さんの近況をアンタが知ってるのよ!?あぁ、アンタさてはカマ
かけようとしたわね!良い度胸してるじゃないの!!」
「何でそうなるんだよ!?」
僕のコミュ力ではここまでが限界だ。ここからどうやって切り返していけば良いか、僕には手段が思い浮かばなかった。
「……あれ、仄嶺さん!それに槐棠くんも!!」
「お、おおおお陸式さんッッ!?」
今、僕には陸式さんが救世主に見える……。僕の学校生活崩壊の危機を脱する好機を、彼女なら作り出せる。対して仄嶺さんの態度の豹変っぷりと言ったら、僕の目には魔王に見えて仕方ない…………。
「陸式さん、部活作るのは本当?今、槐棠くんから聞いたんだけど……」
「あぁ本当だよ!良かったら一緒にやらない?」
仄嶺さんの表情が一気に明るく輝き出す。こうして見ると仄嶺さんもキレのある美形だな……性格面で、僕は受け付けないけれど。
「……で、槐棠くんも一緒に?」
「そりゃそうだよ!私より詳しいんだもん、オカルト」
「…………オカルト?」
「うん、オカルト!もしかして仄嶺さんもオカルトマニア?」
さっみまでキラキラしていた表情が輝きを失って、みるみる青褪めていく。震える彼女の唇から発せられたのは、陸式さんも僕も驚きの事実だった。
「私…………お化けは大の苦手なのよぉ!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます