OMG─オカルトマニアガール─

「え、エクトプラズム!?」

「そうなの……」


すっかりテンションが下がってしまった陸式さんだったが、『に【秘密】を打ち明ける』と決めたから、と全てを白状してくれた。彼女おかしきさんいわく、彼女は【緊張がピークに達するとエクトプラズムを吐く】という特異体質持ちらしい。

要は彼女は緊張すると無意識に幽霊を呼んで口から物質化させてしまう能力者なのである。


「これだからずっと親しい友達っていなくて……『私、オカルトマニアです』だなんて言えないじゃん。絶対気味悪がられるのが関の山だもん」


だから僕がオカルトマニアだと言った時驚いていたのか。同種の人間がいる事にも、その一般的でない趣味を公言出来る奴がいる事にも。


「……槐棠君なら言えるかなって思ってた。言えたには言えたけど……結局吐いちゃった……」

「僕は嬉しかったよ?オカルトを愛してやまないのが僕だけじゃ無かったのがさ」


と、チャイムが鳴る。

話し込んでいるうちに、あっという間に時間が過ぎていたのであった。


「……それじゃあ、また放課後にでも」

「あ……うん……」


小走りで教室から出ていく制服の背中を、駆けていく度揺れるスカートの裾を、僕はただ見ていた。




教室に戻ると、他クラスから友人を呼んで集団で弁当を食っていたクラスメイト──相変わらず名前が分からない──に机を使われていた。だが肝心の『ここ僕の席だから云々』が口から出てこない。結局黙って突っ立ったままいると、気味悪がりつつも避けてくれた。僕だって本当はこんなの嫌だけど。


午後の授業はまるで頭に入らなかった。

陸式さんとの約束がどうもチラついて仕方なくなっていったのだ。

昼飯を食べた直後で眠気もあったが、確実に陸式さんの陽キャオーラにあてられて僕はおかしくなっていたのだ。多分。


そして帰りのホームルームが終わって、僕は教室を早々に去った。待ち合わせ場所が分からないので、とりあえず昼と同じ空き教室で待つことにしたのだ。


「あ、槐棠君!」


陸式さんが教室にやって来たのは、それから数分と経たぬうちであった。


「槐棠君ってさ、色々あるオカルトの中でもどれが1番好き?私はやっぱりアトランティスの存在かなぁ。南極説推しなんだ〜」

「僕は大西洋だと思うけどなぁ……。でも僕が1番好きなのはアトランティスじゃなくてタイムトラベラーかな。胡散臭いようにも思えるけれど、実はもう技術は完成しているかも……って考えたらゾクゾクするんだ」

「分かる。分かるけれど、何か気になる事でもあるの?」

「────過去に行ってみたいんだ。やり直せたら良いなぁ、って思う事だらけで」


しまった、気まずい雰囲気にしてしまった。

2人の間に沈黙が流れる。


「…………行けるとして、本当に行きたい?過去に行ったとして、何も変わらなかったら?その時、槐棠くんはどうするの?」


まるでその結果を見てきたかの様な口振りで、陸式さんは僕に詰め寄る。そうして欲しくない、と目で訴えながら。


「……なんだか怖くなるなぁ。あんまり真剣な表情してそういう事言うんだもん」

「だって、せっかくみつけたオカルト仲間を無くしちゃうの、嫌だし」

「陸式さん……」


彼女いない歴が年齢の僕にとって、陸式さんのその言葉は刺激が強過ぎた。女の子と話す機会すらまともになかったから、余計に衝撃が強いのである。

彼女が僕なんかの事をとして認識してくれているというだけで相当に嬉しい事だし、そもそもクラスでの立ち位置が違い過ぎる彼女が僕と話してくれるというだけでも、とても畏れ多い事だと僕は思っている。やはり彼女の事を、同じオカルトマニアとしてよりはとして見ている節が僕にはある様であった。


僕がそんな思索に耽っていると、彼女は僕の顔を覗いてきた。『どうしたの?』と心配の言葉を添えて、大粒の瞳で上目遣いをしながらだ。


「眉間にシワ寄ってるよ?そんな顔してたら老けちゃうよ」

「ごめんごめん、考え事してたんだ」

「ねぇ、……私の顔を見て?」


陸式さんがまた声のトーンを真面目モードに戻す。

彼女の顔も、先ほどと同様真剣で、そうまじまじと見つめられると僕は気恥ずかしくなってしまう。

……こうして彼女の顔をじっくり見るのは初めてだが、やはり可愛い。パッチリした目もそうだが、髪の毛も唇も艶やかで、肌もキメが細かくて、性格も飛び抜けて爽やかで、太陽みたいに温かく輝いていて……素敵だと思う点を挙げ出したらキリが無い。

そんな美少女と視線を合わせ続ける事の、なんと筆舌に尽くせぬ緊張感と多幸感か。僕の理性は陸式さんによって暴発寸前にまで追い込まれていた。


「私と……私と、新しい部活作らない!?」


彼女の緊張した声色で伝えられた言葉は、幸か不幸か、またもや僕にとって願っても無い素敵な提案だったのである。

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