Lovin soph
笹師匠
第0章:僕にも春が来ました
陰キャにも優しい陸式さん
高校って不思議な世界だ。
大人でも子供でも無くて、中途半端に責任を求められる。
成長し切った奴とそうでない奴とがごったになって共生しようとして、失敗すると大揉めする。
平和主義者の僕はそうはなりたくないから、入学してから3日経つ今日まで、同級生はおろか隣の人にも声を掛けてすらいない。……それどころか、顔すら見ていない。
だけど今日は空気がやけに違った。
何というか……美味しかったのだ。
何かいい事があれば良いな……なんて儚い希望を胸の
「ねぇ……君隣の席の
隣の席──彼女の名前は何だったっけ。
というか、いい事が起こった。
高校生活最初で、もしかしたら最後かも知れない、そんないい事が起こってしまった。
「隣いいかな。一緒にお昼食べようよ」
僕の運ツキてしまわないだろうか……と不安になってしまうほどの僥倖だった。あまりの嬉しさと気恥しさで彼女の顔が見られない。
「ねえ、私に顔見せてよ。『お互いを知ろうと歩み寄る事、それは高校でも大学でも、果てには社会に出ても重要な事です』って校長先生も言ってたでしょ?」
確かに入学式で言っていた。僕は彼女に言われるまで忘れていたけれど。
このまま顔を上げなければいつまでも追随して来そうな雰囲気だったから、僕はゆっくりと顔を上げる。目元まで前髪の伸びた、寝癖すら整えていない無精の現れた顔を。
「────へえ。思ってたよりタイプかも」
「……えっ」
「ふふっ、ニブちんだなぁ」
そこには僕を見て微笑む少女がいた。
照れか日差しか、笑顔がとても眩しい。
「私、
「……でも覚えやすい」
「優しいね」
彼女────陸式さんはまた微笑む。
眉を寄せて、少し哀しそうに。
「……さ、お弁当食べよ?私お腹減っちゃった!」
本当に可愛いなぁ……僕なんかと話していて良いのだろうか。多分彼女にとって、僕とのこの時間は得にはならない。クラスにいる女子と少しでも多く話した方が彼女にとっては余程いい事のはずだからだ。
だけど僕と陸式さんは一緒に弁当を食べた。彼女は手作りの3色そぼろを美味しそうに頬張って食べていた。僕のは妹が僕に対して千の呪詛を込めながら(?)作った愛『妹』弁当である。特製だし巻き玉子が筆舌に尽くし難い美味さだった。
「ところでさぁ。槐棠君って趣味は?」
あるにはあるが……女子に、しかもこんな純朴で世の中の穢れを知らなそうな朗らかな子に言える様な趣味じゃない。僕は口を
「────実はオカルトマニアなんだ」
「えっ」
明らかに表情が変わる。このつかの間の友情も早々に終焉の時か……そう僕は落胆する。
「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?私もオカルトマニアなのに!」
「えっ」
今度は僕が表情を変える番だった。
こんな朗らかな、明らかに陽キャな陸式さんが…………オカルトマニア!!?
神様がいるならば是非とも感謝を述べたい。
「それなら私の【秘密】、言っても大丈夫かな……」
ぽつりと陸式さんは呟く。僕にギリギリ聞こえるくらいの、か細い声で。
「実はね……私……」
何故かモジモジし出す陸式さん。僕も何故か気恥ずかしくなって彼女から目を逸らす。
「私から目を背けないで!!」
声大きく、しかし羞恥に顔を赤らめながら僕に言う彼女。細い腕を抱えて震えを抑えている様である。
────何か、様子がおかしい。
僕はしかし、彼女から目を離せなくなっていた。なぜこうなったのか、事の
「もう……来る……っっ!!!!」
もし、これがただのラブコメならば。
僕はこれから何も無く陸式さんとイチャイチャしたりラブラブしたりするのだろう。
恋に
────だがこれは普通の恋愛で済む様な、生易しい物語では無かったらしいのだ。
「もう……来る……っっ!!」
陸式さんの赤くなった顔が、みるみる青ざめていく。まるで具合でも悪いみたいな、そんな顔色になっていった。
「陸式さん、大丈夫……!?」
「近付く……と、かかるから…………」
「え?」
次の瞬間だった。
女子らしからぬ下劣な音を発しながら、陸式さんは盛大にthrow upしてしまった。
とどのつまりゲロったのである。
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