第5話 戦いの始まり


「来いっ!! ジーク!!」



「うおおおおおッ!!」


 

 ジークは叫びながら全身に力を籠める。彼の纏う赤いオーラが激しく燃え上がる。





 ジークはアスファルトの地面が凹むほど力強く地面を蹴り、バドーに拳を振り上げ飛び掛かる。





 バドーとの距離は五メートルほどあったが、一度も再度足を地面に着くことなくバドーに手が届くところまで辿り着くジーク。



 

 

 しかし、今まさに殴られようとしてもなおバドーは身動きせず両手を広げた構えを崩さない。





 次の瞬間、ジークはバドーの目の前から姿を消す。





 そして、高速で移動したのであろう、バドーの背後に再び現れた。





 完全に後ろをとったジークは、振り上げていた拳により一層オーラを集中させ、バドーの背中に殴りかかる。





 その瞬間、ジークの左側方から、駐車してあった一台の乗用車がジークに物凄いスピードで飛んできた。


 バドーがサイコキネシスを使い飛ばしてきたものだった。





 ジークは車に激突され、反対側に停めてある車を四、五台 巻き込みながら激しく音を立て吹き飛んでいく。





 バドーは更なる追い打ちをかけるため、宙に浮きながら吹き飛んだジークの後を追う。





 するとジークと共に巻き込まれクラッシュしていった車の一台が、今度はバドーに向かってすさまじい勢いで飛んでいく。


 ジークが蹴って飛ばしていたのだ。





 バドーは自身に直撃する直前に、サイコキネシスで飛んできた車の軌道を九十度変え逸らす。





 車が側方に向きを変え飛んで行き、バドーの視界中央から外れていくと、その背後にはジークがいた。





 ジークの拳は激しく輝くオーラを纏い、バドーの顔面を貫いた。





 不意を突かれたバドーは激しく吹き飛び、駐車してあった車を十台近く巻き込む。





「ぬああッ!!」





 叫びながらサイコキネシスで巻き込んだ車を吹き飛ばすバドー。





 その車を避けながらジークは最短ルートでバドーとの距離を詰め、正面から殴りかかる。





 今度はバドーも自らの拳でそれに応戦する。





 目にも止まらぬスピードで繰り出されるジークの体術。





 そしてバドーもまた、その巨体からは想像もつかない速さと動きで、ジークの攻撃を受け切り応戦する。 





 両者の渾身の右ストレートがぶつかり合う。





 衝撃波を生みながらお互いに吹き飛ぶ二人。





 ジークは華麗に受け身を取り、すぐさまダッシュし再びバドーとの距離を詰める。





 同じく受け身を取っていたバドーは、少し離れたところに駐車されていた一台の車を、自身の前まで引き寄せた。





 その車の中には、親子三人の民間人が乗っていた。三人で身を寄せ抱き合い、三歳くらいであろう女の子は泣き叫んでいた。





 動きを止めるジーク。



 


 その様子を見て、バドーは笑みを浮かべながら話す。





「どうした?攻撃してこないのか? やはりお前は変わらんな、ジーク!」





「やめろ!バドー! その人たちを離せ!」





 バドーは右手の手のひらに力を籠め、握り潰すように拳を握ると、その手の先にある地下駐車場内の支柱の一つが粉々に砕け散った。





 駐車場内の天井がわずかに音を立て揺れる。先般、直上のビルが倒壊したことも相まって、これ以上支柱が破壊されれば天井の崩落は免れない状況だった。





 女の子の泣き叫ぶ声はより一層大きくなる。





「くそっ……!」





 下手に動けば家族もろとも車を握りつぶされ兼ねない状況に、ジークは動くことができなかった。





 そんな為す術のないジークを、楽しそうに眺めるバドー。





「クックック……。さて、お前はここからどう状況を打破するのだろうな? 楽しみだ。」





 そう言いながらバドーは無慈悲にも、視界に移る限りの数の支柱を、一瞬で次々と破壊していく。





 支柱の破壊音とともに、天井には次々と激しい亀裂が入り、次第に崩れ始める。





 バドーは何もない背後の空間に穴をあけ、その中に消えていく。サイコキネシスを使ったワープだった。





 ジークは家族の乗る車に駆け寄る。





 そのままその車の上に乗るジーク。





「はああああッ!!」





 力を籠め、ジークの髪と瞳はさらに激しく輝り始める。





 それと同時に真上の天井が、ついに大きな音を立て崩れ落ちてくる。





 そのタイミングに合わせるようにジークは、天井に向け両手を思い切り突き出す。





「はあッ!!!!」





 ジークの力によって、赤いオーラと爆発音とともに凄まじい勢いで天井が貫かれる。





 倒壊していたビルの瓦礫もろとも、地下から上空へ全てを吹き飛ばした。





 空の眩しい光が、地下駐車場、親子の乗った車の窓から差し込む。三人の親子は無事だった。





 その様子を確認したジークは、ジャンプし地上へ上がる。




 

 周辺を見渡すジーク。


 自ら吹き飛ばした瓦礫で周囲一帯は荒れ果てているが犠牲者はいないようだった。少し離れた位置で、警察やレスキュー隊の車両が止まりこちらの様子を確認しようとしているのがわかる。





 バドーの姿は見当たらなかった。





 その事実を確認し、緊張感が解けたジークはその場で膝を着く。


 人外なパワーを使った反動か、髪と瞳の輝きは消え、大きく息切れしていた。


 




 その直後、ジークの両手両足が強大な力によって拘束される。




「ぐっ……! くそっ……!!」




 拘束され動けないまま宙に浮かされていくジーク。




 何もない空間に穴が開き、そこから再びバドーが現れる。ジークを拘束したのは彼の強力なサイコキネシスだった。

 



「見事だったな、ジーク。 しかし最後に油断したな。」 




「バドー……!」




 バドーの背後の空間から四つの穴が開く。




 そこから黒いローブのようなもので姿を隠した四人が現れた。




 四人とも背丈は大小様々だが、バドーと同じく邪悪なオーラを漂わせている。




「紹介しよう。オレの新しい四人の幹部たちだ。オレはこいつら四人、そして我が手中にある五体の魔獣と共に、獣神を全て手に入れる。」




「なんだと……!」




「もちろん、女神の魂を受け継ぐあの小娘もな。」




 バドーはこの絶対的有利な状況を楽しむかのように話し続ける。




「ジーク。今日お前がオレに噛み付きさえしなければ、お前が死ぬことはなかったというのになあ。まったく…… 残念だよ。我が宿敵よ。」




 そう言いながら、サイコキネシスの力でジークの首を絞め始めるバドー。




「ぐっ…… あぁ……っ!!」




 苦しさに声にならない声が出るジーク。






 



 次の瞬間、超高速の物体が横からバドーに蹴りを入れ、その巨体を吹き飛ばす。





 十メートルほどその巨体を地面に擦りながら飛んでいくバドー。





 ジークは手足を拘束していた力が解かれ、地面に落ちた。






「その辺にしとけよ…… でないともっと痛い目見るぜ。」






 その声の主はレイだった。バドーを吹き飛ばしたのも彼女だった。


 鋭い眼で倒れるバドーを睨みながら話すレイ。その髪と瞳はすでに金色に光り輝いていた。





 バドーの四人の幹部はレイに対して戦闘態勢を取る。





 その時初めて四人は、レイの後ろから近付いてくる巨大な影に気づく。





 魔獣と同様のサイズと金属の骨格。大昔にいたとされるティラノサウルスのような見た目をしたその巨大な生物こそ、五体いる獣神の内の一体だった。

 




 そう。獣神の一体はジークたちがすでに手に入れていたのだった。





「無事か?ジークよ。 助けにきたぞ。」





 そう話すのは獣神の上に乗る、一人の老人男性だった。





「アザール……! 俺なら大丈夫だ。来てくれてありがとう……!」





 そう言いながら立ち上がるジーク。


 


 そしてバドーもゆっくりと、ほこりを払いながら立ち上がる。




「やれやれ…… 懐かしい顔ぶればかりだな。なあジジイ。」




「バドーよ。このままここで始めたらお互いタダでは済まんぞ。どうする?」




「ふっ。ムカつくジジイだ。 まあいいだろう。もともと挨拶のつもりで来たんだ。続きは今後じっくりとやっていくとしよう。」




 そう言うと背後の空間に、自身と幹部を含めた五人が入りそうな大きな穴を開けるバドー。




「また会おう我が宿敵ジーク。 今日は命拾いしたな? ハッハッハ!」




 嘲笑いながら消えていくバドー。




 






 一万年の時を経て、再び戦いの火蓋が切って落とされたのだった。


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