第4話 宿敵登場



 倒壊したビルの地下駐車場。


 暗がりから拍手をしながら現れる、邪悪な気配を纏う一人の大男。



「バドー……!」



 ジークがその大男の名前を口にする。



「ジーク。見事作戦成功、といったところのようだな。」



 低く重く響きわたる声で大男、バドーは話す。



 ジークは手から剣を召喚し身構え、戦闘態勢をとる。



 その様子を見て、バドーは僅かに笑いながら話す。



「まあそう身構えるな。戦うつもりはない。 せっかくお互い復活したんだ。お前に挨拶しようと思ってな。」



 バドーの言葉を聞き、剣の矛先を少し下げるジーク。





「お前との再開は一万年ぶり、……いや正確には五分ぶりか? 我が宿敵、ジークよ。」



 五分前…… ちょうど倒壊前のビル高層階監禁室でバドーがルルに話しかけていた頃だ。



「俺の変装はバレバレだったってことか。 なぜあの時、俺に何もしなかった?」



「せっかくお前のような絶好の相手が来たんだ。一万年ぶりに魔獣にも暴れさせてやろうと思ってな。 どうだ?この時代の科学技術で強化した魔獣は一味違っただろう?」



「なるほど…… 俺は、まんまといいように使われたわけだ。」



「まあそう悲観することもないだろう。おかげで女神の魂の継承者は、お前たちの手に渡ったのだからな。まんまとやられたのはこちらも同じよ。」



 言葉の内容とは裏腹に、バドーからは悔しさや憤りといったものが微塵も感じられず、違和感を覚えるジーク。



「しかしどうだジークよ、この時代は? 異星人が当然のように住みながらも平和な世界だ。科学の発展も素晴らしい。いい時代だと思わないか?」



 何も答えずバドーをまっすぐ見続けるジーク。バドーの真意に思いを巡らしているようだった。



「誰がお前を封印から解いた?バドー。 また世界を支配するのが目的か?」


 

「ふっ。答える義務はないな。 しかし…… 一万年以上も生きていると価値観も変わるというものだ。お前もそうなんだろう?ジーク。」



 再び沈黙するジーク。敵に心を読まれまいと抵抗する姿勢を表しているのか、それとも図星を突かれてのことなのか……。



「一つだけ教えておいてやろう。 さっきのあのガキと、各地に散った五体の獣神。なんにせよ俺の狙いはこいつらだ。」



 バドーは話し続ける。



「オレのかつての部下たちはお前たちに滅ぼされてしまったが…… オレはこの時代で新たな部下たちを得た。加えて都合のいいことに、この時代では機械の兵を無限に生み出すことができる。」



「対してジーク。お前たちはまだ五人揃っていないのだろう? そんな戦力で、さらに強大になった我が戦力に勝てると思っているのか?」





 その言葉を聞いたジークは視線を下げ、一瞬の沈黙の後構えていた剣を下ろす。剣はそのまま何もない空間へと消えていく。





 一呼吸の間の後、ジークはまっすぐバドーを見ながら答える。





「お前に彼女たちを渡すわけにはいかない。」





 そう言ったジークの髪と瞳が赤く光る。続けて、自らの拳と両足に赤く光るオーラを纏わせる。





 両足を軽く広げ、戦闘の構えをするジーク。





「やれやれ…… お前は何も変わらんな、ジーク!」





 ジークは、首に巻かれたチョーカーのような装備に手を当て、そのダイヤルを回す。





 すると、ジークが髪や両手足に纏う光が一層強く輝き始める。





 その様子を見て湧き上がる興奮を隠せなくなるバドー。その顔には邪悪な笑みを浮かべている。





 バドーが両手を広げると、その巨体がわずかに宙に浮き黒色のオーラを纏う。筋骨隆々の肉体とは裏腹に彼はサイコキネシスの使い手だった。





 両者が纏うオーラが、薄暗い地下駐車場の中で眩しく光る。




 

 その両光が今まさにぶつかろうとしていた。





「来いっ!! ジーク!!」



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