第3話 魔獣との闘い
一連の騒動が続くビルの高層階。
メインエリア中央の吹き抜けを挟み、全身を金属で覆われた巨大な魔獣と、赤い髪と瞳を淡く輝らせるジークは対峙していた。
おもむろに右手を前に差し出すジーク。
すると何もない空間から長身両刃の剣が現れる。剣の持つ役割に対し、現代科学によって合理性を追求したような先進性を感じさせる見た目の剣だ。
ジークはその剣を両手で握り、顔の横に構え戦闘態勢をとった。
ジークがぬん!と力を籠めると、剣は赤く刃が輝り炎のようなオーラをまとう。
「こちらジーク。レイ。今から三十秒後にポイントZの爆弾を起爆してくれ。」
「え!?マジ!? 了解だが…… 応援必要か?」
「こっちは大丈夫だ。ルルを頼んだぞ!」
そう言って話を終えるジーク。
――グアアアアアアアッ!!
敵の発し始めたオーラに警戒し、ここまで様子を伺っていた魔獣が凄まじい声で雄たけびをあげる。
その咆哮による音の振動でビル中のガラスが激しく音を立てて割れた。
その割れる音をまるでスタートの合図のように、魔獣は大きな口を開けジークに向けて飛び掛かった。
その巨体と金属の装甲で覆われた見た目から予想できる重量からは、想像もつかないほどのスピードでジークに突進し牙を向ける魔獣。
しかしジークは、その凄まじい運動エネルギーをもつ巨大な金属の塊を受け止めた。魔獣の巨大で鋭い牙を剣で受けたのだ。
ジークの体躯を考慮すればあり得ない、物理の法則を完全に無視したこの事実に魔獣も一瞬ひるむ。
その隙を見逃さず、魔獣の牙と接している剣をジークは思いっ切り上方に振り上げる。
魔獣はまるで顎の下から強烈なアッパーを食らったかのように上方に吹き飛ばされた。
そして露になった魔獣の腹に向けて、剣と同様に赤い光を帯びた足で、強烈な回し蹴りをお見舞いするジーク。
魔獣は物凄い勢いで吹き飛ばされ、飛び掛かる直前まで立っていた場所まで送り返される。さっきのお返しだとジークが言わんばかりの光景だった。
背中から通路に叩きつけられる魔獣。その衝撃に耐えられず通路も激しい音を立て崩れ落ちる。
受け身の取れなかった魔獣はなすすべなく、その巨体をあちこちにぶつけながら吹き抜けを一階に向けて落下していく。
まるで隕石でも落ちたかのような大きな音と地響きを鳴らし、一階に落下した魔獣。
続いてジークも一階に降り立つ。各階をジャンプしながら渡り降りてきたのだ。
ジークの一撃と落下の衝撃で、もがく魔獣。何とか起き上がり、あたりを見回し敵を探す。
一階は魔獣が落下した衝撃と上階から落ちてきた瓦礫で土煙が立ち込めていた。
煙の中にうっすらと赤く光る影。
それを発見した魔獣は、その正体を確認するまでもなく光に向かって牙をむき突進する。
しかしそこにあったのは、警備用のパトライトだった。
魔獣がお構いなしに勢いのままパトライトをかみ砕いた瞬間。
魔獣の頭上にジークが現れる。
パトライトはジークが転がした陽動作戦だった。
その手には三メートルはある槍が握られている。一階でレイと戦ったあの強化兵のものだろう。レイに倒され、床に転がっていたものをジークが拾ったのだ。両手剣と同様に、槍の矛先は赤い光を帯びていた。
その槍で魔獣の頭を上から突き刺そうとした瞬間。
ジークの視界の端に煙の中から大きな影が現れ、物凄いスピードで空中にいるジークに迫る。
空中にいるため避けることができず、その巨大な影に薙ぎ払われるように吹き飛ばされるジーク。
その影の正体は魔獣の巨大な尻尾だった。
鞭のようにしなり金属装甲の重量と硬度でさらに威力を増した強烈な一撃。
ジークは壁に叩きつけられながらも、かろうじて受け身を取っていた。しかしさすがにダメージを隠せない様子。
魔獣は咆哮をあげながら間髪入れずジークに追い打ちの突進を仕掛けようとする。
が、何かに引っかかるように魔獣の動きが一瞬止まる。
土煙の中うっすら赤く光る、魔獣の右後ろ足。
そこには強化兵の長い槍が、魔獣の足を貫き深く突き刺さっていた。
魔獣がその後ろ足に気を取られている隙に、いつの間にか態勢を立て直しているジーク。まるで、壁に叩きつけられていたのは陽動だったのだと言わんばかりだった。
再び赤いオーラを槍に纏わせ、今度は左前脚に思い切り突き刺す。
痛みを感じるのか、雄たけびをあげる魔獣。
魔獣がもがく中、残る二つの足と尻尾の先端にも、素早く一本ずつ槍を突き刺していくジーク。ちょうど計五本の槍が一階に転がっていたのは、レイが強化兵を倒しておいてくれたおかげだ。
五本目を突き刺すと同時に、ビルのあちこちで連続的に小規模の爆発音が鳴り響く。
魔獣との戦闘開始前にジークがレイに指示した爆弾が起爆したのだ。
激しい音とともに崩れ始めるビル。一階部分から崩れ始め、二階、三階と次々にきれいに崩れ落ちてくる。
確実にビルが倒壊するよう、建物構造に熟知したものが綿密に仕掛けたもののようだった。
もがき暴れまわり、魔獣の手足に突き刺さったすべての槍が抜けるころには時すでに遅し。
魔獣に頭上から大量の瓦礫が降り注ぐ。
ビルは完全に倒壊した。
ビルの倒壊から数分後。
ジークはビルの地下にある駐車場にいた。
髪と瞳の光はすでに消えている。
魔獣に槍をすべて突き刺した直後、自身はすぐに脱出していたのだ。
魔獣からの逃走劇中でもビル構造を熟知していたジークは、当然地下への最短の逃走ルートも把握していた。
「こちらジーク。レイ。そちらの状況は?」
「お!無事だったか! こっちはとっくに本部まで帰還済みだ。もちろん姫さまも一緒にな!」
「了解!よかった! ミッション完了だな。俺も今から帰還する。」
「早く帰って来いよ? 任務完了祝いに今日は飲み行くからな!」
無線を終え、ふーっ、と一息つくジーク。
任務を無事終えた安堵と達成感を感じていた。
――パチパチパチ……
突然、駐車場内で拍手を打つ音が聴こえた。
不意の出来事に再び緊張感が走るジーク。
音の聴こえた方を振り向く。
そこには、ルルを監禁していた部屋に現れた、あの大柄で邪悪な雰囲気の男が立っていたのだった。
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