第9話
滞在時間を延長する改造に丸2年が必要だった。
もう良輔は48歳になっている。
「計画、かなり遅れてしまったな」
あの件は、その日以降に与える影響が大きすぎるため、実質的な計画の中断だった。説得が成功するにせよ、失敗するにせよ、その後の行動を先にタイムトラベルして埋めるものではない。
しかし今回の改造で、実質的には加奈の時間を埋めていることに変わりはない。そう言い訳めいてはいるが、加奈との時間に使える、会える楽しみを抑えきれなかった。
加奈と約束したその日の21時、加奈の父親が帰宅した事を確認し、家に向かった。
玄関では父親が出迎えた。
「すみません、加奈が、ご迷惑をかけたみたいで。少し散らかっていますが、まあ、どうぞ」
リビングに案内しながら、彼は言った。加奈の家に入るのは初めてではなかった。そして良輔が前に見たより新しいその部屋はとても不思議な感覚に思えた。
父親との2人が暮らしに先入観を持っていたため、思いがけず整理されている部屋に驚いたが、ヘルパーさんがいる事を思い出し納得した。
「加奈ちゃんは?」
「部屋に入って寝ました。ちゃんと話しておく、というまで一緒に聞くとゴネられましたがね」
疲れた笑顔を見せている。もうギリギリだな、良輔に思わせた。
「こちらの事情で大山さんに負担をさせるわけにはいきません。加奈には我慢してもらうよう、説得します」
加奈の父親ははっきりと言った。
私もその立場はわかるつもりだが、加奈を守りたい気持ちを優先させた。
「畠山さん、私から見ても相当無理をされているように見えます。さっき、ヘルパーさんが帰った後の加奈ちゃんは寂しそうにしていました。立ち入っていることは十分にわかっているのですが、見ている私も辛いのです」
「・・・すみません」
良輔は嘘をつくことにした。タイムマシンを改造している間に考えたシナリオのいくつかを頭の中で用意する。
「いや、私も単身赴任が長くて。実は6年ほど前に妻と別れたんです。私にも丁度加奈ちゃんくらいの娘がいたんですが、仕事優先でこっちにいる間に妻も再婚してどこかに行ってしまってそれっきりで・・・それが重なっちゃってましてね」
彼はどんな顔をしたらいいかわからないまま、はあ、と小さく声に出した。10年近く隣にいて、初めてこちらの事情を聞いたのだ。きっとこれまでもきっと不思議に思ってただろう。
「仕事一筋だった私も寂しくない、と言えば嘘になります。恥ずかしながら社内で失脚しまして、今私がしている仕事も決まりきったもの。残業も出張もほとんどない窓際なんですよ。それに今更打ち込むような趣味も特にないもんですから」
良輔は少し自虐的に笑って見せた。
「だから、と言うと畠山さんには悪いとは思うのですが、どうですかね?」
彼は少し考えて、切り出した。
「お気持ちはありがたいのですが、ここまで言っていただきましたので、正直に言いますと、あなたをそこまで信じていいか、わからないんです。言ってしまえば少し知ってる赤の他人。父親として、娘の加奈が心配なんです。すみませんが」
良輔は純粋に彼の正直さが気に入った。
「はい、確かにそうですね。では、こういうのはどうでしょう。ヘルパーさんから直接引き取ることにしましょう。加奈ちゃんが私の家に来たらメールします。それと私の家にいる夕方6時から8時の間、いつでも電話して構いません。時間になったら加奈ちゃんを返すつもりでしたが、私に連絡せず、いきなり迎えに来ていただいて、家に上がってくださればいい。あなたにも私の家の合鍵を渡しましょう。もしおかしな事や不安がありましたら、何なりと。加奈ちゃんが嫌だと言ったらやめましょう。ほかに何か問題があったら無条件で警察に突き出していただいても構いませんよ」
そこまで聞くと彼は大きく目を開いて聞いて来た。
「どうしてそこまで、して頂けるんですか」
「子供が寂しい、私も自分の子供にそんな思いは本当はさせたくなかった。私のエゴもありますが、こんな自分でも加奈ちゃんが楽になるなら。そして私も加奈ちゃんを通して、楽になりたいのかもしれません」
結局加奈の父親は折れ、それでも悪いので、と毎月の夕食代としてお金を渡して来た。ここで断るのはと思い、それは受け取った。
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