Q-6

 そこまでを語り終えて、俺は、ふと教室の時計を確認した。

 ――ふむ。

「そう言えばこのラブレター、わざわざ昼休み終わりのタイミングに時間指定してるんだよな。どうしてなんだろ」

「うん、そりゃあ」

 俺の、半ば独り言であった疑問に、彼女が適当な口調で応える。

「一応、ウチの高校のルール的には昼休みもちゃんと、今日の行程に含まれてるんだよ。どうせ教師も生徒も、昼休み前のホームルームで今日一日はおしまいのつもりだろうし? 半ば形骸化だね」

「はあ?」

「それよりも、ほら。まだ話は半分だろ? 君がトイレに行く前までに聞いたところには追い付いてない。さっさと続けないと、それこそ昼休みが終わっちゃうよ?」

「あーそうだな。失礼」

 姿勢を取り直す。

 しかし、彼女は「話は半分」などと嘯いていたが、ストーリーの進行度で言えば現段階は佳境も佳境だ。ドラ〇エ7で言うところだとマールデドラ〇ーン号が手に入った辺りであるからして、敢えて焦るようなつもりもなく、俺は語り出す前にぬるくなった烏龍茶で喉を濡らした。……いやマール〇ドラゴーン号は中盤か、下手したらメ〇ビンが仲間になるよりも前だっけ? よく覚えてないや、やめとこ。

「……とにかくだ、この保険証がラブレターに同封されてたんだ。最初は当然、普通に手違いだと思ったよ。それが、普通の解釈だよな?」

「そうだね?」

「だけど気付いた。……いやなにせ、保険証ってったら無くしちゃいけない、大切なものだろ? だから俺だって同然、こいつは持ち主に返すつもりだ。――ここで一つ問題が起きた」

「……、……」

「この保険証、返すにあたってはまあ確実にさ、ちょうどいいんで待ち合わせ場所で用事を済ませるときに渡すだろ? 職員室に預けるのも不親切だし、何なら今日から夏休みだ。保険証を受け取りにわざわざ学校に来させるってのも申し訳ない」

 一度、俺は息を吐く。

 そして、胸中の「疑惑」を、口に出す。

「――それが、相手の作戦だったらどうしようって思ったんだよ」

「……、……」

「これが、このラブレターを送って来た立花ちゃんが、俺を絶対に逃がさないための作戦だったらってな。そう思ったんだ。……戦慄としたね、俺ん中じゃもう立花ちゃんは推定ヤンデレだ。こんな策を弄さなくても俺はアホ面引っ提げて待ち合わせ場所に行くってのに、向こうはこんな、『保険証』なんて言う行政資料を人質に持ち出してきたんだってな。『返してほしくば』ってんじゃない。『返して欲しい』って人質だよ。『返して欲しいから放課後体育館裏に来い』ってね。推定ヤンデレだよ」

「推定ヤンデレってなんだよ」

「ヤンデレかもしれないってことだよ。それじゃ、話を続けよう。……つっても、そろそろこっちの状況説明は終わりだけどな」

 ――そして、


「ようやくここまで辿り着けたな」


 脱力して、椅子に背中を預けて言った。

「――実はこの保険証な、よく見れば『名義』が違うんだ。ラブレターは立花ちゃんからの贈り物だったけど、こっちの贈り物には、別の名義が書いてあるんだ」

 敢えて俺は、その保険証を手に取る。

 その最中央、最も目立つであろう場所には、間違いなく「立花佳苗ではない名前」が、刻印されていた。

「あぁ、ホント、ようやくここまで辿り着けたよ。これが、俺の相談事なんだけど……」

「うん。なにかな?」



「……これ、どういうことなんだと思う? 俺どうしたらいいかな?」



                             《次回――回答編》

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