Q-4
「っひゅー」
「いつの茶化し方だよやめろ……っ!」
無防備な後頭部にチョップを一つ。
それで彼女はひとまずラブレターの検分を止め、姿勢を正し、(少しだけ)真面目な表情を取り繕った。
「ふん。……とりあえず、見たところ非常にオーソドックスなラブレターだね」
「オーソドックスって言うのも止めろ。ラブレターってのはどれもオンリーワンのナンバーワンなんだよ」
「強いて言えば、真面目そうな印象を受けるね。この手折りの便箋も、なかなかきっちりと折られてる」
言って、彼女は手紙の横に置いてあった便箋を手に取る。
……確かにあの便箋、けっこうキッチリ綺麗な線で折られていた。そこからもこの立花なる後輩女子の生真面目な様子が見て取れる感じである。
「それと、文面は真面目な印象だけど、便箋は手折り。……これは私の勝手な偏見だけど、送り主は瓶底メガネの三つ編み地味っ子って線も薄そうだね?」
「えー? 今日日居なくない? 瓶底メガネの三つ編み地味っ子……」
まあしかしだ、言いたいことは分からないでもない。仮にこれが瓶底メガネの三つ編み地味っ子であれば、用意する便箋ももっと地に足付いた市販品とかになる気がする。根拠はない、偏見である。もしいたら全国の瓶底メガネの三つ編み地味っ子さんごめんなさい。あなた方は地に足付いた落ち着いた方々だと言っているのでこれはあくまで誉め言葉です。
「……便箋の紙地は、B4用紙サイズよりも小さいかな? 破ったノートやコピー用紙ってわけじゃなさそうだけど、無地で、少し象牙色がついてるね?」
「ああ。よく知らないけど、そういう『お洒落な紙』ってジャンルの商品はあるらしいし、それじゃないかね?」
マスキングテープとか、ヒモとか、なんか最近ちょくちょく流行ってるらしいし。
「うーん。じゃあやっぱり、その辺の流行にも敏感なタイプの人が送り主なのかな?」
……それか、そういうタイプが周りにいる人か。と彼女。
「うん。とにかくさっきも確認したし、この手紙や便箋の検分はひとまずここまででいいね。じゃあ今度は、『問題の方』、改めて見てもいい?」
「ああ、もちろん」
そう答えて、俺は先ほどと同じように、机の上に『ソレ』を出す。
……いやなに、俺が受け取っていたのが「ここまでに見たモノ」で全部だったなら、俺は決して人に相談したりなどしなかったのだ。人の恋路は茶化すべきではないし、告白をされる側には、される側なりの責任というものがある。俺だって、出来ることならその責任を果たし、勇気を振り絞って告白をしてくれた女子には、せめて誠実に答えたい。
だけれど――、
「……コレな」
だけれど『コレ』は、如何ともしがたい。
俺は卓上に『例のブツ』、便箋にラブレターと同封されていた『ソレ』を取り出して、
「……やっぱり、何度見ても『保険証』だよなぁ」
「そうだねぇ」
まずは一つ、溜息をついた。
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