Q-3

「掻い摘んで言えば――」

「待った」

 語り出した俺を、しかし即座に彼女が止める。

「? なんだよ?」

「せっかくだけど、掻い摘んで言わずに、一度流れを確認してみよう。面倒かもしれないけど、初めから話してもらってもいい?」

「初めから?」

 流れを確認したい、というのは分かるが、しかし初めからというのは少し気が重い。何せここまで話した内容は、それだけで喉が渇いて席を立つような物量のものである。

 とはいえ……、

「まあ、用事を頼んでるのは俺の方だ。文句は言えないな」

「助かるよ」

 ということで、彼女のオーダーを謹んで受け取る。まあ、先ほど語ったことの焼き増しとすれば、語り口も整頓できて多少は流暢に話せるだろう。先ほどのように、変に肩がこるほど疲れるまでではないはずだ。

 しかしさてと、

 ……ではどう話したものか。

「えっとー?」

「……」

「じゃあ、はじめっからな。……まずは今朝のことだ。俺の下駄箱にこいつが入ってた」

 言って、俺は机の下から一枚の「紙片」を取り出す。初見で話した時にはなんだかんだとむやみな肉付けで、この紙を取り出すまでにも多少時間がかかった気がするが、やはり、二度目となれば最適化である。

「……一応もう一回説明すれば、これは俺名義に来たラブレターだ」

「何度聞いても癪だねえ」

「もう一回言えっつったのはお前だ。とにかく、広げるぞ」

 その「紙片」、――ラブレターは、手折りらしい小さな便箋に入れられたものである。サイズ感としては、およそハガキの二回り下程度だろうか。……しかし、二度目になってもアレだ。なんというか、せっかく一生懸命書いてくれたであろうラブレターをこうして人と肩を並べて検分するというのは、どうにも申し訳なさが強くていけない。

 まあ、それでも彼女と見ないわけにはいかなかった。彼女は俺が知る中で最も聡明な女性である。この相談事は、俺からすれば、彼女を誘う以外の選択肢などハナから存在しない。

 ……閑話休題。うなじを晒すように前傾して文面を眺める彼女に倣って、俺も、ラブレターの中身に三度目を通す。


『先輩へ


 私のことをご存知でしょうか。私は、陰ながら先輩をずっと応援していました。

 夏休み直前のこんな時期にごめんなさい。好きです。

 もしよかったら放課後、お昼休みが終わった頃に、体育館裏に来てくれませんか?


 1-A 立花佳苗より』


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