Q-2
某県某市、私立N高校。
海の街にある、特筆事項の無い高校。それが俺の所属する高校であり、俺が今まさにいる場所だ。
時期は夏。それも真っ盛り。どのくらい真っ盛りかと言えば、実は当校は今日しがたに夏休みに突入した感じだったりする。そのくらい、今日という日は夏のど真ん中の時分であった。
ちなみに、そんなわけで今日の授業は午前中でおしまいだったりする。昼食時を挟んでの現在、校舎を廊下から見渡す限り人気の類いは感じない。風を取り込む窓から身を乗り出してみても、あるのは日差しと、新緑の擦れた影と、さっきからやたらと元気な蝉の声だけである。
……そんな素敵な時間に、俺は果たしてどうしてわざわざこんな憎き学問の城に居残りしているのかというと、
「おまたせっす」
「おかえりぃ」
彼女との用事を、済ませるためであった。
「そっちはいいのか? 顔洗ったりトイレ行ったり」
「誰が女子のトイレの心配をしてるんだか。行くときに行くよ、気にしないで」
言って彼女は、にやけるように笑う。知らぬ人が見れば嘲笑にも見える笑い方だが、俺は、それが彼女の、普通に愉快な表情であることを知っていた。
――短く清潔にそろえられた亜麻色の髪。はっきりとした印象の、猫っぽい瞳。小柄でスレンダーな印象のシルエット。彼女の外見は、夏に頂く柑橘系炭酸のようにすっきりとしたものである。……中身については、多少「アク」が勝つけれど。
とかく俺は、そんな彼女の座る窓際の席の向かいに落ち着く。一応確認しておけば、俺の座る席も、彼女の座る席も、どちらも自分のモノではない。
単に、ここが一番日当たりがよく、また風がよく通るから借りているだけであった。
「続きを話そう」
彼女が言う。言ってから、手元のペットボトルを軽く呷った。
「それ、流石にぬるくなってねーか?」
俺が言う。一応俺も手元に烏龍茶を用意してはいたが、こっちの方はすっかり身体に優し気な常温になっていた。
「別に、これはこれで悪くないしね。ぬるま湯風味のキリ〇レモン、飲んでみる?」
「……いや、いいや」
女子との間接キッスという甘酸っぱイベントを塗りつぶせるくらいおいしくなさそうだったので遠慮しておく。つーかキリっと冷やさずキリン〇モン飲もうとかサ〇トリーへの冒涜じゃない? やめときなよホント……。
「そう? いらない?」
とかく彼女が、もう一口。
話を続ける。
「それで、どこまで話したっけか」
「あーっと、確か……」
虚空を仰いで、ここまでの会話を思い出す。
「……そうだ。確か」
席を立っていた間に散らかってしまった文脈を、一つ一つ手探り取って、
そして見繕ったストーリーを、俺は彼女に、ゆっくりと語り出した。
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