第96話 孫と祖母
王都王城に最高神が座しているというまさかの話を聞かされてシン達が呆然としてしまっていると……その様子を静かに見守っていたアヴィアナがやれやれと首を左右に振ってから口を開く。
「ま、とにかくだ……旅を続けたければそれはそれで構わないが、これ以上神には関わらず、神殿には近付かず、祝福は受けないようにするんだね。
……アタシら魔法使いは、神殿に近づくもんじゃぁないって教えてやっておいたのにまったく……のこのこと近付いてばっかりいるせいで、わざわざこんな所までやってくるハメになったじゃないか」
そう言ってアヴィアナがシンのことを睨むと、言いつけを破ってしまった申し訳なさからか、縮こまったシンが何も言えずに俯いてしまう。
「ま、まぁまぁまぁ。
経緯はどうあれ折角こうして祖母と孫の再会が成ったのですから、そう厳しく当たらずとも良いではないですか。
二人きりで話したいこともあるでしょうし……シンの先生であり祖母とあればそれなりの歓待もさせていただくつもりです。
俺の顔を立てる意味でも何日かこの屋敷に滞在して頂ければと思うのですが……」
そんなシンを見てウィルが、慌てた様子でそう言うと、アヴィアナは目を細めながらウィルのことを見やり……顎を撫でながら言葉を返す。
「歓待……ねぇ。
貴族の歓待っていうとロクでも無い思い出しかないんだが……そうだね、先に言っておくけど対価なんてもんは期待されても困るよ。
アタシは身一つで森に暮らしているババアでしかないんでね」
「まさか、散々世話になったシンの家族に対価を求めたりはしませんよ。
友人として歓迎したいという気持ちと、この屋敷でのひとときを楽しんで欲しい気持ちだけで……それ以外の邪心はありませんよ」
「……そうかい。
なら広い一人部屋と湯を用意してもらおうかね、ここまでの長旅で疲れちまったからね」
「一人……?
折角なのですから、シンと一緒の部屋をご用意しますよ? 家族なのですから部屋で積もる話を存分に……」
と、ウィルがそう言うとアヴィアナは目を見開きギロリをウィルを睨んで、ウィルの言葉が終わるのを待つことなく、口を開く。
「その件についちゃぁ、アンタに言われたから話してやったまでのことでしかないんだよ。
なんだい今更祖母でございますなんて……そんな恥知らずな真似できるものかいね」
先程も口にした『今更』とのアヴィアナの言葉にシンはまたもぴくりと反応を示す。
先程は何も言わずにぐっとこらえたが、やはり気になってしまう。
今更何だというのか? アヴィアナは何を言わんとしているのか……?
祖母と孫という関係が事実ならば、そんなこと気にしなくても良いじゃないか。
自分はただお祖母ちゃんとそう呼んで、家族の温もりを感じたいだけなのに。
そんな思いを存分に込めた視線をシンがアヴィアナへと向けていると……アヴィアナはその視線の意味を理解したのか、シンの内心を読みでもしたのか大きなため息を吐き出し……仕方ないかといった様子で、ゆっくりとその口を開く。
「……アタシがもう少ししっかりしてたならこの子の母親も死なずに済んだし、この子が連中にいじめられることもなかったんだろうし……そもそも娘をあんなヤツに拐われることもなかったんだ。
アンタと初めて会った時も……しっかりとアンタという存在を受け止めることが出来なかった。
その後いくらでも機会があったのに名乗ることが出来なかった。
……何もかもが今更だろう」
それはアヴィアナなりの懺悔だったのだろう。
今まで祖母らしくいられなかったことへの、シンへの申し訳無さからくる懺悔。
そうして懺悔を終えたアヴィアナが静かに立ち上がり、シンの前から立ち去ろうとすると……そんなアヴィアナの前に、いつのまにやら大きく膨れた……一体いつのまにそうしてきたのか泥を集め泥を食べ、巨漢といって良い程の大きさになっていたドルロが姿を見せる。
「ミミミミ!!」
そんな太い声を上げてドルロはアヴィアナの腕をその大きな手でがっしりと掴み、もうひとつの手でシンのことをがっしりと抱きかかえる。
「……ドルロ、二階の左奥の部屋だ。
そこならば家族皆で過ごせるだろう」
その様子を見てウィルがそう言うと、ドルロは有無を言わさず、凄まじい力と勢いでもってアヴィアナとシンをその部屋へと連行していく。
アヴィアナは一流の魔法使いでありゴーレムのことを熟知している人物でもあり……抵抗しようと思えば出来たのだろうし、何であればドルロのことを元の姿に……小さく非力な姿にすることも出来たのだろうが、何も言わずに黙って連行されていって……そうしてドスドスとドルロの足音が屋敷中に響き渡ったかと思ったら、二階の左奥の方からバタンと力強くドアを閉める音が響いてくる。
客間にて天井を見上げて、何も言わずにその音に耳を貸していたウィルは……それを受けて大きなため息を吐き出し、ソファの背もたれへとその背を預ける。
色々と衝撃的な話が聞けたし、長年の謎であった王都の秘密も知ることが出来た訳だが……それよりも何よりも、天涯孤独の身であったシンの下に『家族』が戻ってきたことを喜び……もう一度深い溜め息を吐き出す。
ウィルがそうする中、キハーノとチョウサはとにかく今耳にした衝撃の事実を記録しようとペンを走らせ続けていて……そして何も言わず何も出来ず事態を呆然と眺めていたロビンは、空気を読んだのかこの場に留まった妖精達と共にウィルの前の席へと座り直し、そうしてからゆっくりと口を開く。
「とんでもねぇ事実が明らかになるやら、婆さんが変な拗ね方をするやら、大変だったが……なんとか綺麗にまとまりそうだな」
その言葉に対しウィルは……窓の外を眺めながら言葉を返す。
「まとまってくれたら良いのだが……どうなるだろうな。
シンにはまだ知らせていないが、シンの父親が生きていたかもしれないという、そんな噂が届いていてな……先程のアヴィアナ殿のあの口ぶりからして父親とはあまり良い関係では無かったようだ。
……今、手のものにそれが事実なのかどうか探らせているが……事実ならばシンにとっては面倒なことになるかもしれん。
素直に父親が生きていて良かった、祖母と出会えて良かったと、そう喜べるような状況になってくれると良いのだがなぁ……」
すっかりと大人びた表情でそう言うウィルに対し……ロビンは「なるほどなぁ」とそんな言葉を返しながら、頭をがしがしと掻くのだった。
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