第80話 獣人の……


 一緒に旅すると決まって、シンとドルロとロビンの三人が仲良く談笑をしていると、そこにふよふよと妖精達が漂ってくる。


 昼寝でもしているのか、仰向けのまま漂ってきた妖精達は……シン達の側にやってくるなりすっと立ち上がり……シン達の様子を見て森の様子を見て、それで満足したのか再び昼寝をしようとし始める。


「あ、ちょっと待って、聞きたいことがあるんだけど!」


 その姿を見てシンがどそう声をかけると、妖精達はむくりと起き上がって<なぁに?>と小首をかしげる。


「森の状況はどんな感じを聞きたくって……少しは力が戻ってきたかな?」


<うん! ちょっとだけど!>

<まぁまぁかな!>

<もうちょっとしたら、寝かせるのも大事!>


 ケット、クー、タイルスの順でそう言ってきた妖精達に、シンは首を傾げながら言葉を返す。


「寝かせる? 寝かせるっていうと……力を馴染ませる為に、しばらくそっとしておくってことかな?」


<そんな感じ?>

<吸うのは簡単、あげるのは大変>

<来年の春になったら元通りになるかも>


「そっか……じゃあこの土人形作りも、もうちょっとで終わりかな?」


<もうちょっと!>

<森全体に!>

<広く浅く!>


「なる……ほど、森全体覆うように、表面に撒けば良いってことなのかな。

 ……うん、意識して頑張ってみるよ、ありがとう」


 シンがそう言って話を終わらせると妖精達はにっこりと微笑み、ベッドに飛び込むかのように宙に体を投げ出し、横になって昼寝を再開させ、ふよふよと漂い始める。


 そうやって妖精達が離れていくのを見送ってから……すぐ側で何も言わずに、固唾を飲んで様子を見守っていたロビンが声をかけてくる。


「……と、とりあえず上手くいっているようで良かったな。

 しかしあれだな、あんな小さな妖精がスプリガンなんて物凄いもんを呼び出せるんだからなぁ……恐ろしいつうか、なんつうか……。

 獣人には妖精が少ないから、どうにもビビっちまうなぁ」


「あれ? そうなんですか?

 確かに獣人の妖精の話って、あまり聞きませんけど……」


 シンがそう言って、ドルロも興味があると見上げる中、頭をガシガシと掻いたロビンが応えていく。


「あー、ほら、妖精ってのはアレだろ? 子供や赤ん坊が死んだ後に、自分が何者なのか、どこに行ったら良いのかを迷ってなっちまうもんだろ?

 獣人の場合はそこら辺を魂というか、本能の方で察して迷わないんだよ。勿論全員が全員そうだって訳じゃないが……それでも数が少ないのは確かだな。

 迷わずに自然に還っているのを良しとするか、妖精として寿命を全うするのを良しとするかは話が分かれるところだが……本能があるおかげで俺達獣人はゴーストになりにくいからな……まぁ、悪いことではないんだろうな」


 その話を受けてシンは、なるほどと頷き……先程の妖精達の話と一緒に頭の中にしっかりと刻み込む。


 現在人間と獣人が別々の領域で暮らしているのは、そういった違いによる死生観の違いというか、価値観の違いがあってのことなのかもしれないと、そんなことを考えて、あれこれと思考を巡らせる。


 そうして自分なりに考えたことを、世界について思うことを、いつかアヴィアナに報告したいなと、そんなことを考えたシンは……杖をぐっと握り、土人形を更に作り出して、少しでも早くアヴィアナの下に戻れるようにと、森に力を戻す作業を再開させる。


 そんなシンの様子を見てドルロとロビンもそれぞれにシンを手伝おうと、それぞれに出来ることをやり始める。


 そうしてその日は穏やかに、静かに過ぎていって……二日、三日と時が過ぎていって、森の全体に力を込めた土を巻き、シン達に出来ることを概ね完了させた日の昼過ぎ。


 シンが土人形作りを一旦止めて、畑の側にぼんやりと立ちながら他に何か出来ることはないかと悩んでいると、どたばたと誰かが慌ただしく駆けてくる足音が響いてくる。


 その音を聞きつけたシンとドルロとロビンが何事だろうかと音のする方へと視線を向けると、そこから……木々の間から尋常では無い様子のスーが駆け込んでくる。


「た、大変だ!

 ま、魔物がまたやってきた! 北の方から森に入ろうとしてるって!!」


 その声を受けてシンとロビンは身を固くし、緊張しながら言葉を返す。


「ま、魔王は、魔王はいるんでしょうか?」


「数は、数はどのくらいだ!!」


 そう声を上げたシンとロビンの側まで駆けてきたスーは、息を切らし、膝に手をおいてがっくりと項垂れながら言葉を返してくる。


「ま、魔王はいない……獣神様によるとここを狙ってる魔王はもういないそうだ。

 数も大した数じゃない、20そこそこだって話だ……」


 たったの20で、魔王はいない? どうしてそれでそんなに慌てているんだ?

 

 スーの言葉を受けて顔を見合わせたシンとロビンは、そんなことを内心で思う。


 確かに20もの魔物の襲来となれば大ごとだが……たったの20であれば集落の住まう人の数の方が多いくらいで、この日の為にと戦いに備えていたことも思えば、十分に対処できるだろう。

 

 何であれば新たな力を得たロビン一人でどうにでもなる数でもあり……一体どうしてスーはそんなにも慌てているのだろうか。


「め、メアリーが……!

 なんでか知らないけど、ひ、一人でなんとかするって一人でいっちゃって……!

 せ、折角シンが色々やってくれたのに、またあの力を使う気なんじゃぁ!!」


 全く予想もしていなかった、まさかのその言葉を受けてシンとロビンは愕然とし……そうしてほぼ同時に、北へと向かって駆け出すのだった。

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