第77話 魔力


 ロビンに触れたシンが懸命にロビンの中にある魔力を動かそうとするが……シンとの繋がり持つドルロとも違う、人間であるシンとも違う獣人という在り方のせいかどうにも上手くいかない。


 ロビンの体内には確かな魔力があり、ロビンの声と願いと祝福の影響を受けてか動き出そうとしているのだが……長年魔力を使っていなかったせいか、ロビンがその存在を意識出来ていないせいか、魔力はロビンの奥底で渦巻くばかりで中々外に出てこないのだ。


 それでもシンが懸命に魔力を唸らせながら……意味も無いのに全身に力を込めながら唸っていると、その様子を見やったロビンの目に、ほんの一瞬だけ、ほんの僅かの魔力の流れが映り込む。

 

 シンの周囲を漂う魔力、シンとドルロの間を行き交う魔力。


 その魔力を認識したことにより、魔力がどんなものであるかを理解したことにより、ロビンの中にある魔力が活性化し……未熟な形ではあるが体外へと出てきて形になる。


 そうしてロビンの爪を包み込み、かつてアーサー達がそうしていたように魔力が具現化し、本来のそれよりも鋭く大きい爪が、光の塊のような爪が出来上がる。


「お、おおおお、おおおお!?

 こ、これが祝福の力か!!」


 大きくなった爪を高く掲げながら大声を上げるロビン。

 そんなロビンに対しシンは……比較的落ち着いた態度でじぃっと見やることで観察しながら、ぽつりぽつりと言葉を返す。


「そう……だと思います。

 今まで魔力を扱ったことのないロビンさんが、ここまでの力を発揮するのは完全に予想外のことでしたので……そこら辺が祝福のおかげというか、祝福の力……なんだと思います。

 僕とドルロの時とはまた違った感じでしたけど……普通じゃありえないし、凄い力ですよね、祝福って。

 ……一体何がどうしてこんなことが……」


「なるほどなぁ……しっかし魔力ってのは一体何なんだ?

 何がどうしてこんなすげぇことが出来るんだ?」


 そう言われてハッとなったシンは顔を上げて、祝福に関する考察を一旦止めて、ロビンへの説明をしようと意識を切り替える。


「魔力が何であるかという、はっきりしたことは僕にも言えないのですが……。

 この世界の根源であり、この世界に住まう者なら誰でも持っている力であり、魔力がなければこの世界は成り立たないと、そう聞いています。

 僕の側にいる妖精達を始めとした精霊達は魔力そのものといって良い身体をしていて……精霊がいるからこそこの世界には様々な力が溢れているんです。

 風とか火とか水とか、この森を生み出している大地の力とか。

 魔力が何であるのか、その答えは神様なら知っているはずなんますが……僕達魔法使いは神様からはあまり好かれてない……はずなので、その答えを聞くことは不可能だとされています。

 ……二回も神様に会っちゃって、本当に嫌われているのかは疑問なんですけど、それでもまぁ、そういうことを神様に聞くことは良くないこと……なんだと思います」


 と、そんなシンの説明の中で、ロビンの爪を覆っていた魔力がだんだんと小さくなっていって、薄くなっていって……あっという間にかき消えてしまう。


「お、おい、シン、消えちまったぞ!?

 ど、どうなってるんだ!?」


「ああ、ロビンさんの持っていた魔力が尽きたんだと思います。

 ……これは完全に綺麗さっぱりと無くなったという話ではなくて、ロビンさんの魂を維持するための魔力以外の、普段の生活の中で溜め込んでいる余分な魔力が尽きたってことですね。

 周囲に漂っている魔力を集めるというのは少し難しいことなので、食事をするとか、魔力がたっぷりと入った妖精の蜂蜜を舐めるとか、一晩ぐっすり、夢を見ながら寝れば回復すると思いますよ。

 いい夢を見ると良い魔力が満ちるそうなので、出来るだけ良い夢を見られると良い感じですね」


「お、おう……そりゃぁまたふんわりとしているというか、曖昧な存在なんだな、魔力ってもんは。

 ……あー……これで俺も魔法を使えるってことで良いのか?」


「いえ、魔力をそのまま叩きつけるのと、魔法として使うのはまた別の方法なので……魔法は魔法で一から色々なことを勉強しないといけないと思います。

 僕なんかから中途半端に教わるのではなく、しっかりとした先生について、何年か勉強したら……才能次第で使えるようになります。

 そういった勉強をしたくないとか、才能が無い人は叩きつける方向で活用したほうが良いかもしれませんね。

 バルト騎士団の皆さんは、その方法で凄まじい攻撃を繰り出していましたし、ロビンさんも練習していけば皆さんのような凄い攻撃が放てるようになるはずです」


「……なるほどな。

 ……でもこれで、なんとなくだがメアリーとスーがやっていたことと、森の力を吸うってことの意味が分かった気がするな。

 こんなすげぇ力をあんな風にバンバンぶちかましてりゃぁ、そりゃぁ森も枯れるってもんだよなぁ。

 俺みたいに爪に纏わせれば良いものを、あんな風にデタラメに、必要以上の魔力をぶっ放してたんじゃなぁ……。

 ……うん、色々勉強になったぜ……シン、ありがとうな」


 と、そう言ってロビンが笑顔を見せると、シンはあたふたとしながら、


「い、いえいえ、ロビンさんのお役に立てて何よりです」

 

 との言葉を返す。


 するとロビンは笑顔を固めて、苦い表情を作り出す。


「なんだよ、水くせえなぁ、かしこまった口調なんて止めてくれよ。

 ロビンで良いし、普通に話せ普通に」


 それはロビンなりの好意による言葉だったのだろう、そんなことを口にしながらロビンは、シンの側へと近付いてきて、その大きな手でシンの小さな背中をバンと叩く。


 それを受けてシンは、衝撃がすごかったとか、少し痛かったということよりも、ロビンと仲良くなれてよかったと、そんなことを考えて……にっこりと良い笑顔を見せるのだった。

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