第72話 三人寄れば


 シンの言葉をどうにか呑み込んだロビンとスーは、シンの方針に賛同してくれて、そうしてその場の全員でもってこれからどうすべきかを話し合っていく。


 まずはこの話をメアリーや集落の人々にも聞かせて賛同して貰う必要があるだろう。

 そうやって賛同して貰ったなら実際に行動していくことが重要となる。


 ロビンから魔物とどうやって戦うのかを学び、魔物の素材の活用法を検討し、不格好でも良いからそれなりの武器と防具を揃えていく。


 今まではそれまでの生活をそのままの形で続けるだけで、そこに変化を加えようとはしておらず……魔物の素材を回収し、加工し、活用しようなんて考えはそもそも持ってすらいなかったが、森の外の世界に何かが起こり、大きな変化が起こりつつある中で、いつまでもそのままでい続ける訳にはいかないだろう。


「先生は言ってました、獣人さん達は力が強くて、身体能力が物凄くて、強い心を持っている頼りになる隣人なんだって。

 先生にそうまで言われる獣人さん達が、それなりの武器と防具を揃えて、皆で強力し合ったなら、メアリーさんやスーさんの力に頼らなくても、きっとなんとかなるはずです。

 ……そう言えばこれまでロビンさん達やメアリーさんやスーさんが倒した魔物の死体や、魔王の死体ってどうしてたんですか?

 そのまま放置してあるなら、そこから素材を取ってくるって手もありますけど……」


 話し合いの中で出てきたそんなシンの言葉に、ロビンとスーはなんとも居心地悪そうな表情をし、それぞれの手でそれぞれの頭をガリガリと掻く。


 そうしてからロビンとスーはお互いの顔を見合い……その目であれこれと言葉を交わし合い、根負けしたらしいロビンが仕方ないかとため息を吐き出しながら答えを返す。


「あー……その、なんだ。

 俺達にはそもそも魔物の死体を活用しようとかそういう発想がなくてだな……森の外に投げ捨てて燃やしちまうだとか、そこら辺に穴を掘って、燃やしてから埋めるってな風に処理しちまったんだよな。

 骨とかも埋めやすいように砕いていたし……あまり期待は出来ないだろうな」


 その言葉にシンは、なるほどと納得し頷く。


 そのまま放置して腐らせて風病の元となってしまっては元も子もない。

 ……素材に関してはこれから手に入れていけば良い話だろう。


 素材は今後の機会を待つとして、では素材を使ってどんな装備を作ったら良いのかと、シン達は一段と力を込めて話し合っていく。


 獣人達は基本的にその爪や牙、己の肉体を使っての戦闘を得意としている。

 大きく鋭い爪を持っているために、武器を持つには不向きとなる形をした手がその理由で、いざ魔物の素材を手に入れたとして、どんな装備を作ったら良いのだろうか?


「爪を武器にしているなら、大きな爪の武器を作ってみるとかはどうでしょうか。

 それを篭手……ガントレットに付けてみるとか、盾も持ちにくいのであれば、盾をくっつけたガントレットにしてみるとか。

 武器なら爪と違って折れても砕けても良い訳ですし、思いっきり振るえるようになるはずですし、盾があれば思い切った行動も取れるようになるはずです!」


 話の中でそうシンが提案すると、すかさず足元のドルロが、


「ミミミー!」


 と、そう言って泥を練り上げて、シンのアイデアを形にしていく。

 

 言葉で説明されただけでは今ひとつピンと来ていなかったロビンもスーも、泥の篭手を見るなり「なるほど」と納得して、使う側からの様々なアイデアを出し始める。


 そうやってアイデアを出し合って、お互いの意見を良いものにしていって……思っていた以上に話し合いが上手くいってよかったと、スーが話を聞いてくれて良かったと、シンがそんなことを考えていると……そんなシンのことをじぃっと見つめたロビンが力を込めた言葉をかけてくる。


「……話し合いでなんとかしようなんて、最初はどうかと思ったもんだが、しっかりと、真剣にやればそれなりの効果があるもんなんだな……俺ももっとスー達と……いや、親父とも話し合うべきあったのかもしれねぇなぁ。

 ……シン、この調子で集落の皆のことも説得してやってくれよ」


 そう言って柔らかい表情を浮かべるロビンに対し、シンは逆に苦い表情をし、自信なげな言葉を返す。


「うーん……そうした方が良いならそうします……けども。

 今回上手くいったのは僕がどうというよりも、ロビンさんやスーさんが話を聞いてくれたおかげだと思うんです。

 僕は結局余所者で、獣人でもない訳ですから……出来たらロビンさんかスーさんか、それかメアリーさんに話をして、メアリーさんが説得するのが良いんじゃないかと思います。

 ……スーさんも最初は、すぐに集落から出ていけと、そう言っていたじゃないですか。

 そんな僕が皆さんに話をしたとして……どれだけの人が耳を貸してくれることか……」


 とのシンの言葉に、ロビンとスーはうぅんと唸り声を上げる。

 シンの言っていることは全く正論で、だがしかしロビンもスーも人前で話すことは苦手で……。


 ただでさえロビンは今、集落を出て外で暮らす、余所者となってしまっている。

 そんな状態で、集落の人々を説得など出来るのか……。

 シンがするよりは良いのかもしれないが……と、ロビンが言葉に詰まっていると、シンが調子を変えて、明るい声でもって言葉を続けてくる。


「それと僕、ロビンさん達がそうしている間に、一つやってみたいことがあるんです。

 森が失った力を戻すための、魔法の開発と言いますか、ここにいるドルロと協力して色々試してみたいと言いますか……。

 なのでその間に、ロビンさん達の方で他の方達との話を進めて欲しいんです」


 それはシンにしか、魔法使いにしか出来ないことであり……その言葉を受けてロビンとスーは、仕方ないかとお互いの目を見合い……どちらがメアリーに話をするかと、無言でのせめぎ合いを始めるのだった。

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