第73話 森に力を
結局ロビンとスーは、集落の人気者であるメアリーに事情を説明し説得した上で、メアリーに集落の皆の説得をしてもらおうとの結論に至ったようだ。
ロビンもスーも人前に出るような器ではなく、そういったことを得意としているメアリーに任せた方が良いだろうと考えてのことだそうだ。
二人が考えた末の結論であればとシンはそれに賛同し……そうしてシン達はそれぞれ、やれることをやろうと動き出すことになる。
スーはメアリーへの説明と説得。
ロビンは当分の間、森に滞在することになる、シンの自らの住処に迎える為の準備。
……そしてシンは、力を失いつつあるこの森へと、力を戻してやるための魔法開発をするために……ロビンの住処である集落から少し離れた所にある、苔むした木こり小屋の前で、ドルロと共にうんうんと唸り、頭を悩ませていた。
そんなシンの姿を見やりながら、小屋の中と外を何度も往復し、やれベッドだ、やれ食料だのを運び込んだり、馬車が朝露に濡れないよう革布を被せたり、ヴィルトスの為の寝床を用意してやったりしていたロビンは……シン達がいつまでもいつまでも、うんうんと悩み続けているのを見て……ついつい進展の程が気にかかり、声をかけてしまう。
「……仕上がりの程はどうだ? 上手くいきそうか?
森の力を戻すなんて凄いことをやろうってんだから、やっぱり時間がかかるものなのか?」
その声を受けてシンは……腕を組んだまま傾げた首をくいと起こし、ロビンへと言葉を返す。
「正直なところ、上手くいくかどうかは、どれだけ時間がかかるのかは、やってみないことには分かりません。
そもそも僕が知っている魔法に森の力を回復させるとか、そういう魔法は無い訳で……先生やマーリンさんのような凄い魔法使いならパパっとやっちゃうんでしょうけど……僕にそれが出来るかどうか……。
僕が先生に才能が無いと言われたのは、この新しい魔法を作るということがどうしても出来なくて……先生に手伝って貰って助言を貰ってもどうしても出来なかったからですから……上手くいくどころか失敗する可能性の方が高いと思います」
「そう……なのか。
魔法がどうとかはさっぱり分からないんだが……やっぱり魔法も才能の世界なのか」
「……先生はそう言ってました。
同じ勉強をしても、同じ修行をしても、その人の心のあり方次第で、成長できるのかどうか、新魔法を開発出来るかどうかが、全く違うんだって……。
……ただ僕もあれからいろいろなことを経験してきましたし、見様見真似の、力を借りてのことですけど、マーリンさんの凄い魔法を再現することにも成功しました。
……なら、それならきっと、僕の全てをかけて全力でかかれば一つくらいは、新しい魔法を作ることが出来るんじゃないかって……少なくとも僕はそう思っています」
俯きながらシンがそう言うと、足元のドルロが、
「ミミィ! ミミミミー!」
と、声を上げて両手を振り上げて『自分もシンがやれる子だって信じてるぞ』とその声と仕草でもって伝えてくる。
その声と姿に元気付けられたシンは、再度頭を悩ませて、懸命に悩ませて……ロビンがそっと椅子を差し出してくれたことにも気付かず、木こり小屋の前をうろうろと……ロビンが作ったらしい畑の周囲をうろうろと歩き回る。
そうして少しの時が過ぎて……ドルロがついつい畑の土に興味を引かれてしまい、畑の土に質の良さ見入って……その土を手にとっていると、シンがそんなドルロの様子に気付いて……「ああ」と声を漏らす。
「……森、というか木の力の根源って、土と水と太陽の光りな訳だから……この土を改善してやれば、少しは木々が、森が元気になる……?
土に魔力を混ぜてあげて、豊かな土にしてあげて……そうすれば、何かがあってメアリーさんとスーさんが力を吸わなければならないってなってしまった時も、その力から先に吸われるはず?」
と、そんな言葉を続けて口にしたシンは……畑を見つめ、畑の土で遊ぶドルロのことをじっと見つめて、その考えが実現可能なのかという方向に頭を悩ませ始める。
そうやってシンが悩んでいると、シンの側で何もせずに静かにしていた妖精達までが、ドルロに触発されたのか、目の前の畑に興味を持ち、畑の土に触れて嬉しそうな表情を浮かべて……畑の土の上を元気に駆け回る。
妖精達がそうやって畑の上を駆け回ると、妖精達の放つ魔力がキラキラと煌めきながら、星屑のように周囲にばらまかれて……その影響下畑の作物達の葉が青々とし、活力に満ち溢れたと言わんばかりに左右に揺れ始める。
その光景はまさにシンがやろうとしていた、魔法で起こそうとしていた光景であり……その光景からヒントを得たシンは、自らの頭の中の考えを、魔力をどう扱い、魔法をどう行使するのかという、絵図を完成させることに成功し……そうして熱のこもった深いため息を吐き出したシンは、足元で尚も土と戯れるドルロのことをそっと持ち上げる。
「ドルロ! 思いついた魔法があるんだけど、僕一人ではできそうにないんだ!
手伝ってもらえないかな!」
やる気と活力に満ち溢れた表情のシンにそう言われたドルロは、元気に両手を振り回し、ジタバタと両足を振り回しながら、
「ミミミー!」
と、承諾の意を声高に上げるのだった。
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