ジェリーがやりたいこと

 翌朝——。

 突然、カーテンが開け放たれた。

 強烈な日の光が、部屋の中へと一気にそそぎ込む。

「ぎゃぁあああっ!」

 ベッドでスヤスヤと寝息を立てていたジェリーであったが、これにはたまらず、まぶたを押さえながらベッドの上を激しく転がった。

 カーテンを開け放った犯人──メアリーは、そんなジェリーの反応を見て「……吸血鬼か」と、小さな声で突っ込んだ。

「……起きて」

「あのさ……。もっと起こし方ってもんが、あると思うんだが……」

「……起こし方? 電流ビリビリとか熱湯をかけてジュージュー、とか……?」

「いや。やっぱ、なんでもないわ」

 ジェリーはあきれた目をメアリーに向けた。


 そんなくだらないやり取りをしている内に、いつの間にかジェリーの眠気も吹っ飛んでいた。

 ベッドから出たジェリーは、体の芯を伸ばしてストレッチを始める。

「……遊びに行こう」

「悪いけど、今日はちょっと、やりたいことがあるんだ。肉体労働になるだろうがなぁ」

「……どんな?」

 肉体労働と聞いて、メアリーは面倒臭そうな顔をする。

「いや、別に手伝ってもらおうとは思ってねーよ。山道に、土砂でふさがっているところがあるからさ。そこの土砂を退かして、道を作れないかと思ってな。そうすりゃあ、山の、もっと奥まで行けるようになるだろう?」

 ジェリーの考えに、メアリーは感心したようにうなずいた。

「……山の奥まで行ければ、山菜もたくさん採れる……」

「ああ。山菜がたくさん採れれば、毎日山菜料理が食い放題だぜ!」

 メアリーは、ジュルリとよだれらした。


 どうやら「山菜たくさん」という言葉で、メアリーの心が動いたらしい。

 メアリーもジェリーの横でストレッチを始めた。

——ただ、普段やり慣れていないせいか、ガニまたになったりへっぴり腰になったりと見てくれはかなり悪い。ヘンテコな動きをしただけで、恐らく何のすじも伸ばせてはいないだろう。


「いや、だから、手伝わなくていいって……」

「……山菜たくさん採れたらウハウハ……」

 どうやらそんなよこしまな心が、メアリーの原動力となったようである。

凹凸おうとつのない力瘤ちからこぶを作ってやる気になっている。


 ジェリーは頼りないお供を引き連れて、土砂撤去作業をしに山へと向かった。

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