ジェリーとローザの関係

「余計なものを押し付けやがって!」

 ジェリーは、デスクに向かいながら毒づいた。


「いいじゃないの。直せば使えるんだから」

 女性が、ベッドの上で足をパタパタ揺らしながら反論する。

「そう思うんなら、持って帰ってくれよ!」

「私はいらないわよ。それに、あれは貴方の労力に対する報酬ですもの」

 女性——ローザからキッパリと否定され、ジェリーは深く溜め息を吐いた。


 表面上いがみ合うことの多いジェリーとローザだが、実のところ、二人は親しい関係にあった。

 メアリーもジェリーの家を訪れることがあるが、ローザの比ではない。それ程に、ローザはジェリーの家を頻繁ひんぱんに出入りしているのである。

 性格が合うというか、波長が合うというか——。

 二人はお互いに好意を抱いており、親しい間柄であった。


 ジェリーはデスクの引き出しから日記帳を取り出して、ページを開く。

「……日記?」

「ああ。毎日つけているんだぜ!」

 ジェリーは得意気に、日記帳のページを開いて見せた。

「ずいぶんとマメなのね。……そんなナリをして」

「放っといてくれ!」

 ローザにケラケラと笑われたので、ジェリーは口をとがらせた。


 込み上げてくる怒りを創作意欲に置き換えて、ジェリーは日記帳にペンを走らせた。

 ふと、日記帳のとある記述に目がまった——。


『メアリーは僕に恋をしている。僕にフォーリンラブさ』


「ぶっ!?」

 思わず吹き出しそうになる。

——何だ、この記述は!?

 自分でも憶えていない、酷い内容であった。


「……ぶ?」

 ローザが不思議そうな顔を向けてきた。

「どうしたの?」

「あ、いや……。なんでもねーよ」

 ジェリーはハハッと笑って誤魔化ごまかした。


 そして、改めて日記に書かれた文章を読み返してみた。


『これからマイハニー、メアリーとデートだ!』

『メアリーが僕を、ヒートなアイで見詰めてきている。モテる男は辛いね!』などと、気恥きはずかしい内容が赤裸々せきららに書かれていた。


 ジェリーが日記を読みながら顔を赤らめているので、ローザはあきれ顔になっている。

「いったいどんな日記を書いたら、そんな顔ができるのよ」

 ローザが立ち上がり、日記帳を後ろから覗き込もうとしてきた。

 ジェリーは慌てて日記帳のページを閉じる。

「ぷ、プライバシーの侵害だぞっ!」

「部屋にまで入れといて、プライバシーも何もないと思うのだけれど……」

 ローザはそう言いつつ肩をすくめた。そこまで興味はなかったらしく、ローザはあっさり身を引いてベッドに戻って行った。


 ローザが離れると、ジェリーはホッと胸を撫で下ろしたものである。

 改めて、日記帳をひっくり返してページを捲った。

「何だよ、こりゃあ……」

 ジェリーが顔をしかめめるのも無理はない。

 書いてある文章は、どれも恥ずかしいものばかりであった。

「誰だよ、こんな悪戯いたずらをしたのは……」

 この部屋に、簡単に出入り出来る人物といえば、メアリーくらいのものである。あるいは、今ここに居るローザか──。

 ローザはジェリーからの視線に気が付いて、きょとんと首を傾げた。

「……ん? 日記を見せてくれる気にでもなったの?」

「違うっ!」

 即刻否定して、ジェリーは日記帳をデスクの引き出しの中にしまった。

 ローザが書いたにしても、目的が分からない。その線は、ないように思えた。


 ふと、ジェリーの脳裏に別の考えが浮かんだ。

 あの日記は、実はジェリー自身がつづったのではないか——という想像である。

 だが、やはりジェリーにはそれを書いた記憶はない。例え無意識だったとして、あんなものが書けるだろうか。

 無意識——。

 だとすれば、内なる願望を日記帳に綴っていたということにならないか——。

「ありえねーっ!」

 断固否定して、ジェリーは声を上げた。

 ローザならいざ知らず、メアリーでそんな妄想をふくらませることなどあり得ない。

「今度は何よ! びっくりするじゃない!」

 たびたび奇声を上げるジェリーに、ローザはお怒りだ。


 ローザは立ち上がった。

 ジェリーに近付き、その顔をじーっと見詰める。

 ジェリーはローザの顔が近付き、見詰められたので、恥ずかしい気持ちになってしまう。え切れず、ジェリーはローザから視線をらした。

「目を逸らすってことは、何かやましいことがあってことね!」

「ね、ねーよ!」

 ジェリーはぶっきら棒に叫び、照れ隠しにソッポを向いた。

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