参人目の村人・腕っぷしのジェリー

口数の少ないメアリー

「……つんつん……つん……」

「つん……つん、つん……」

 ジェリーはささやきき声と、まぶたの不愉快な感触で目を覚ました。


 目を開けると、目の前に指があった。

「つん……」

「うわっ!?」

 容赦ようしゃなく指が眼球に迫ってきたので、ジェリーは思わず飛び上がってしまう。

「あ……」

 ベッドの横に居た、目潰し少女——メアリーと目が合った。

「……いきなり、起きちゃ駄目。ビックリする……」

「いや、それはこっちの台詞せりふだ! 何をしていやがる!」

 抗議の声を上げるジェリーに、メアリーは悪びれる様子もなく「……つんつんしてただけ」と、ぼそり呟いた。


「何しに来たんだよ!」

 ここはジェリーの家である。ジェリーは村の一軒家に一人で住んでいた。

「……遊びに行こう」

 どうやら、メアリーはジェリーを遊びのお誘いに来たらしい。勝手に上がり込んで、寝ているジェリーの眼球をツンツンしていたようだ。

「はぁ~」

 ジェリーはあきれて、ハーッと深く溜め息を吐いた。

「起こすにしても、もう少しマシな起こし方があるだろ?」

「……後は、火あぶりくらいしか思いつかなかったの……」

 メアリーは栗毛で肩まであるセミロングの髪を、指でクルクルと巻きながらあっけらかんと言ってのけた。

「殺す気かっ!」

 その二択であるなら、よくぞ眼球つんつんの方を選んでくれたものである。


 これ以上は、付き合っていられないとばかりに、ジェリーは話を戻した。

「遊びに行くのはいいが、どこに行くんだ?」

 ジェリーが尋ねると、メアリーはコキュコキュ首を左右に傾げた。

「……どこでも好きに行ってくれて構わない」

「無計画かよ」

 寝起きで体力が全回復しているから良かったものの、どうにもメアリーと会話をするのは疲れてしまう。

「うーん……。じゃあ、ジョゼフじいさんの農園にでも行くか?」

「……うん」

 ジェリーの提案に、メアリーはコクリと頷いた。

 ジェリーは頭を抱えたものである。余りにもメアリーが無口でコミュニケーションが取りづらい。

 そんなメアリーだが、ジェリーのことを慕ってくれているようで、こうして毎日遊びの誘いに来てくれていた。


「……まあ、いい。行こうぜ」

 部屋を出ようとするジェリーのそでを、メアリーがちょこんと掴んだ。

「ん? 何だ?」

「……着替えは?」

 寝起きのジェリーは上下薄緑色の水玉模様のパジャマを着ていた。

「服なんて、なんでもいいだろう? 誰も気になんてしねーよ。服を着てるだけ有り難いと思って貰わねーとな」

 次いで、メアリーはジェリーの頭を指差す。本人は気が付いていないようだが、黒色の短髪の髪の毛が寝癖ねぐせで逆立っていた。

「……ボサボサ」

 しかし、ジェリーに気にする様子はない。

「どうせ風で乱れるんだから、構わねーよ。こんな村の中で色気を出したって、しゃーねーだろう」

 じーっと、無言のままメアリーはジェリーの顔を見詰めた。

「な、何だよ……」


──じーっ。


──じーっ!


 身だしなみを整えろ、というメアリーからの無言の圧力なのだろうか。

 あまりにも長いことメアリーに見詰められて、ジェリーは困ってしまう。

「わ、分かったよ。ちゃんとすればいーんだろ……」


「……どうでもいい。行こう……」

「いいのかよ!」

 メアリーが背を向けて歩き出したので、ジェリーはたまらず突っ込んだ。

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