弐人目の村人・語りべのジェリー

これはとある村のお話

 この村には、守り神様が住んでおられる。

 守り神様は、この村がつずっと昔からここに住んでおられて、この地をおとずれた人々の願いを叶えてきたのだという。

 実際にそのお姿をごらんになられたという人は皆無かいむであったが、かつての伝承でんしょうによると、それは蓑虫みのむし風情ふぜい姿形すがたかたちをしているのだとか——。あるいは、みのまとった老人の姿をしているのだとか、様々な言い伝えが残されている。


 そんな伝承がいくつか残っているのだから、それを単なる戯言ざれごととして退しりぞけてしまうことははばかられた。


 本当にこの村には蓑虫様みのむしさまが存在しておられて、かねてからこの村をお守りになられていたのかもしれない。

 まるでそれを裏付けるかのように、その蓑虫たちは不思議なことに、この村のどこにでも生息していた。

 木からぶら下がっているモノや、通りに横たわるモノまで——蓑虫たちは、特に何をする訳でもなく、まるで村人たちの生活を監視かんしするかのごとく、ただただそこに存在し続けていた。


 だから、村人たちからしても彼らを単なる虫として卑下ひげに扱うことも難しかった。

 この村の平穏へいおんを乱す、そんな不届きなやからが現れるその日まで、守り神様は蓑虫の姿を借りて、そこにそうしてられるのかもしれない。


 しかし、もしも本当にそんな輩が現れたとしたら、守り神様がそのお姿を表わしになって不必要な人間たちを、この村から排除はいじょしてくれることであろう。


 村人たちは守り神様の教えに従い、その意志を実現することで、この村の中で平穏へいおんに暮らすことができていた。


——これは、そんな伝承のある、とある村での出来事であった。

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