ライヤ:3 ノガミ

俺とルカイ兄の家(というか勝手に占拠してるだけなんだけど)である図書館に着く前の丁字路の角に、赤い汚れた看板と弱々しく光るランタンを提げた店がある。

米屋ノガミ。

赤い看板に書かれたその店名の通り、野上家が経営する米屋だ。

ランタンの光の下、米の入った段ボールに腰かける人影。

彼女は店主のひとり娘。名前は野上優子。俺の幼なじみ、ノガミだ。

「あ、ライヤお帰りー」

「…ノガミ、もう7時だぞ。店番お前ひとりでいいのかよ」

ノガミはあはは、と明るく笑う。

「何それ心配してんのー?ルカイさんならともかく、あんたに心配されても全く嬉しくなーい」

どういう意味だ。こいつは昔から小憎たらしい。でもなぜか憎めない。

「俺がしてんのは米の心配だよ」

「それこそ心配ご無用。うちの店でそんな真似する奴、このあたしが放っとくわけないでしょ。ボコボコよ、ボコボコ」

お前は本当に女子か?

しかし事実だ。以前米屋ノガミで泥棒を働いた輩が、鉄パイプを握ったノガミにどんな目に遭わされたか、俺は知っている。

「ノガミ、今日ルカイ兄来たか?」

「ん?来てないよ。今日はキジマのとこじゃない?」

ルカイ兄は体が弱い。それでも働かなければならないので、図書館から近いノガミかキジマの店で働くことになっている。

今日はキジマの店の方に行ったようだ。

「そっか、じゃまたなノガミ…」

「ちょっと。待ちなさいよ」

歩き出そうとした俺の前にノガミの足が投げ出された。

――危ない、転ぶところだったじゃないか!

「店員に話しかけといて、米一粒も買わずに行くつもり?」

「い、いや今日は米足りてるし…」

「米一粒も買わずに、行くつもり?」

目が、目が危険だ。どうやら今日は売れ行きが良くないらしい。

「………1合で」

「えー、ほんとに1合で大丈夫―?」

こ、この女商魂たくましい!

「………………2合で」

ああ、我ながら意思が弱い。

ノガミは満面の笑みだ。

「はーい、まいど!」

段ボール箱から飛び降りて、空いている箱から米を量りで掬い上げる。てきぱきとそれを袋に詰め、俺の手に握らせ、一言。

「お買い上げありがとーございまーす!」

お前に買わされたんだよ。と言いたいのをこらえ、俺はノガミの店を後にする。

まったく困った幼なじみだ。この廃都で、ここまで明るい奴も珍しい。

俺は米の入ったビニール袋をぶら下げ、次はキジマの店を目指した。

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